金沢に移住して町家の魅力にとりつかれた女性がいる。町家を守ろうと奮闘するこの女性の思いに迫った。

冬の天気が悪くてビックリ…金沢に来て気付いた町家の存在

大雪に見舞われた石川県金沢市。

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林野紀子さん:
最初は冬の天気が悪くてすごくビックリして…山梨は冬は全然雨が降らないので。

山梨県出身の林野紀子さん(49)。林野さんは、2008年、夫の鷲田めるろ(わしだめるろ)さんが、金沢21世紀美術館の立ち上げに関わった事をきっかけに金沢に移住した。

林野さんは一級建築士。これまで住宅や大学のギャラリーなど様々な建築に関わってきた。

そんな林野さんが金沢に住んで驚いたことがある。

林野さん:
金沢に来て初めてこんなに古い家がいっぱい残っているんだと知って…。

道路に面して建ち、隣の家とぴったりくっついている昔ながらの「町家」

林野さん:
その時代のみんなの集合知というか、職人さんや大工さんとかが積み重ねてきた作り方が共有されている、そういうところがいいと思います。

町家の魅力にとりつかれ自宅は国の登録有形文化財に

実は林野さん、いまは町家に住むほどその魅力にとりつかれている。

林野さんが住む町家は、金沢最後の桶職人といわれた高田栄三(たかだえいぞう)さんが住んでいた町家だ。

築200年ほどのこの家は、高田さんが亡くなった後、空き家となりかなり傷んでいた。

しかし、林野さんがおよそ1年かけて仲間とともに改修したのだ。

林野さん:
ここが玄関なんですけれど、元々の造りの「通り庭」という土間の部分を残しました。

「通り庭」は町家の特徴のひとつ。奥行きがある家の道路側から裏側までを繋ぐ土間の通路だ。

ほかにも…

林野さん:
町家は両隣がピッタリとくっついているので、真ん中の部屋って暗くなるんですね。その暗さをカバーするために昔から「明り取り」があったんですよ。

藩政時代から続く町家の暮らし。室内の縁側、「土縁」は雨や雪が多い北陸の町家ならではのスペースだ。

林野さん:
今物干しざおがかかっているんですけれど、ちょっと天気が悪いときに、ここに洗濯物を干したりとか、子どもが汚れて帰ってきた時に雪を払ったり汚れを落としたり。

林野さん:
家なんだけれど半分外みたいな使い方は意外と便利だと思いました。

現在の建築基準では、天井の高さは2.1メートル以上なければいけない。そのため、基準を満たさない昔ながらの町家は、新たに建てることができないのだ。

そんな林野さんの自宅は、伝統的な町家の姿を今に伝えているとして2018年、国の登録有形文化財に指定された。

林野さん:
このタカタって書いてあるのは、前住んでいた方のお子さんのつけた印なんですって。おもしろいですよね、これはうちの子がつけたのかな。

林野さん:
(町家は)街や庭とすごく近いところがいいです。通る人や天気がすぐ近くに感じられて私は気に入っています。通っている人の気配とか外の天気をすごくよく感じられる。

しかし今、町家は危機に直面している。所有者が亡くなり老朽化が進んだことなどで毎年およそ90軒が取り壊されているのだと言う。

そこで林野さんは、古くなった町家を職人とともに改修し再生する活動を続けている。

林野さん:
もううちは古いから壊すしかない、建て直すしかないんだと思い込んでしまっているのが、すごくもったいないと思うんです。

林野さん:
(町家を)直すだけではなくて、(誰かに)使われて、それで町に少し活気が出るということが上手く回ればいいなと思います。

町家を生かし後世に残す取り組み

その一つが、こちらの町家。現在は鍼灸院として利用されている。

林野さん:
元々の形がとてもよく残っている町家だったので、それを生かすということを考えました。
元がすごく素敵なのでそれを私が邪魔しないようにしています。

現代の技術を用いて防寒対策は可能な限りしっかりと。その一方で、建具などはあえて以前から
使われていたものを使用した。

二十人坂鍼灸院 竹部隆江鍼灸師:
木の素材というか、懐かしい雰囲気もあるなと私自身も思っています。そういうところが患者さんもとても落ち着くと思っていただけているのではないかと思います。

林野さん:
こんなにいいのに知られていなくて壊されていくのがとにかくもったいないんですね。

林野さん:
町家のいいところがこんなにあるんだよということを知ってもらって、刺さる人のところに伝わっていけばいいなと思います。

一度壊してしまえば二度と復活しない町家。林野さんの活動が町家の魅力を後世に伝えていく。

(石川テレビ)

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