アメリカと中国の間で緊張が高まる中、与那国島では2022年日米の共同演習が行われ、政府は新たにミサイル部隊も配備する計画を打ち出した。
国防を背負わされた人口1700人の国境の島は、目まぐるしく変わる状況に翻弄されている。

中国の弾道ミサイル 与那国島に走った衝撃 

国内で最も西にある与那国島。陸上自衛隊の沿岸監視部隊が配備されているこの島には、約1700人が暮らしている。

自衛隊誘致の是非を争点とした町長選挙や、その賛否を問う住民投票が行われ、島の人たちが二分されてきた。自衛隊は、過疎に悩む島の活性化につながるとも期待されてきたのだ。

台湾とは111キロしか離れていないこの国境の島に2022年、衝撃が走った。

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与那国漁協の方:
お願いします。作業中止です

2022年、8月アメリカの下院議長が台湾を訪問したことに中国が反発して台湾周辺で軍事演習を強行。

与那国島や波照間島の周辺の海上に弾道ミサイルが撃ち込まれ与那国の漁師たちは漁の自粛を余儀なくされた。

当時、漁の自粛を判断した与那国漁協の組合長、嵩西茂則組合長だ。

与那国漁協 嵩西茂則 組合長:
我々の漁をする海域に着弾することもあり得るし船は小さいと言えど、どこに落ちるか分からないという事で非常に不安であるし危険ですよ。

台湾やアメリカとの対立を巡って中国の軍事活動が活発化し、漁業者たちはその脅威を肌で感じている。

与那国漁協 嵩西茂則 組合長:
偶発的な衝突がいつ勃発するか分からない状況下があるので漁師の皆さんの脳裏には、頭の隅には今後この島はどうなっていくのか、社会情勢はどうなっていくかということをみんな肌身で感じていると思います

沿岸監視部隊を置いた当時と今の状況は全く違う

米中の覇権争いで緊張が高まる中、政府は安全保障政策に関する安保3文書の改定を閣議決定し敵基地攻撃能力、いわゆる「反撃能力」の保有が明記された。

「戦後の安全保障政策の大転換」と言われる今回の改定。与那国町の糸数健一町長は政府の対応を支持している。

与那国町 糸数健一 町長:
現在は、与那国に沿岸監視部隊を置いた当時と今の状況は全く違いますよという事なんですね。いよいよ政府もいてもたってもいられない状況で、今回の判断かなと捉えていますけど

与那国では町の要請を受け2011年に陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備が決まった。

自衛隊の配備によって人口減少の歯止めと町の活性化を期待する声と、有事の際に標的になるリスクへの懸念。4年後の2015年に配備の賛否を問う住民投票が実施され賛成が反対を上回った。

沿岸監視部隊の発足から2023年で6年。
与那国駐屯地には2024年に配置予定の電子戦部隊に加えてミサイル部隊が新たに配置される計画が明らかとなった。

現在「反撃能力」をどこの自衛隊基地が保有するか明らかになってはいないが、与那国町を含む南西諸島の自衛隊基地に配備される可能性もある。

自衛隊の増強が進む一方で住民保護の課題は山積

──「反撃能力」を保有した方が良いと思うか?

与那国町 糸数健一 町長:
私は思います。これは好き好んでではなくて(攻撃)されたら打ち返すんだよと。リスクが大きいですよと思わせないと抑止力にならないと思うんですよね

自衛隊の増強が急速に進む一方で、有事を想定した島民の避難など住民保護については課題が多く残されている。

与那国町 糸数健一 町長:
(避難策について)県からも答えが無い。国からも答えが無い現職閣僚からも返事がもらえない(県も国も)どう対処していいか分からない

国や県から支援や予算措置もない中、町は住民の避難資金に充てる独自の基金を創設。

島民の避難のための大型の飛行機が着陸できるよう、空港の滑走路の延伸などを政府に求めている。

与那国町 糸数健一 町長:
とにかく何かあった時には匿ってくれと、場所を提供してくれと。この予算をどうするかという事でそういう時のための基金

また、町議会も避難シェルターの設置を求めて2023年2月、政府に直訴する事にしている。

戦前回帰のような方向に向かっていることに危惧している

台湾有事を想定した目まぐるしい動きに不安を募らせる人たちもいる。
自衛隊を巡る住民投票で反対の立場で活動していた与那国町議会の崎元俊男議長だ。

崎元俊男 議長:
ここ半年の動きは、あまりにも早すぎてちょっとびっくりしています。戦前回帰ではないですけどそういう逆方向に向かっているのは危惧していますね。

ロシアに侵攻されるウクライナの惨状を目の当たりにし同じことがこの島でも起きてしまわないか懸念している。

崎元俊男 議長:
ロシアとウクライナと言えば中国と台湾の感じで、その余波を我々が受けないか。ミサイル部隊が配備されると、これが本当に現実的な危機になって来るかなという不安はもっていますね。

罪もない人々に、火の粉が降りかかる戦争を回避するため今こそ、外交によって緊張を和らげる事に力を注ぐべきと訴える。

崎元俊男 議長:
ミサイル部隊が置かれることに関して想定外で、自衛隊誘致の時と話が違うと憤りを持っている人はかなりいますので、一番コストのかからないのが外交努力で、そういう外交を一つずつやっていくと緊張緩和が生まれる一つになるんじゃないですかね。

米中という大国の狭間で翻弄される与那国島。惨禍に巻き込まれる事のない平穏な暮らしを島の人々は求めている。

(沖縄テレビ)

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