1月9日、大阪の中心部を流れる淀川の河口付近にクジラが現れた。丸3日が経過した12日も、付近を回遊し続けている。

大阪湾に迷い込んだマッコウクジラ
大阪湾に迷い込んだマッコウクジラ
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今回迷い込んだとみられるマッコウクジラの生態と近付く際の注意点などについて、クジラ博士こと、東京海洋大学名誉教授の加藤秀弘さんに聞いた。

群れから1頭だけはぐれたクジラ?

ーーなぜ大阪湾にマッコウクジラ?
室戸岬の沖にマッコウクジラの集中する場所があります。
急に深くなっている場所で、そこに来たマッコウクジラは、通常今の時期は南方から北方へと回遊する最中です。

太平洋側をどんどん北へ向かう先発軍みたいな感じですが、普通の状態だとたった1頭でいるということは無いので、1頭だけはぐれて迷入したという感じです。方向を見失っちゃったんでしょうね。

あの辺りは水深2メートルぐらいで随分浅いです。体を擦っちゃいそうな浅さなので、マッコウクジラのホームグラウンドではなく、焦っていると思います。

東京海洋大学名誉教授・加藤秀弘さん
東京海洋大学名誉教授・加藤秀弘さん

室戸岬にいた群れからはぐれ、大阪湾の奥まで迷い込んでしまったのではないかと推測する加藤名誉教授。

通常は深海にいるイカなどを餌とするマッコウクジラだが、外洋にしばらく戻れなくても、2か月ぐらいは“餌なし”で生存できると話す。

皮下脂肪や内臓脂肪に蓄積

ーークジラはしばらく食べなくても大丈夫?
全般的に食べ貯めは利く方で、皮下脂肪や内臓脂肪にどんどん貯めていきます。
回遊する種類のクジラは、夏に北極や南極の近くへ行って、そこに発生する餌を食べ、冬はもっぱら繁殖です。

クジラには大きく2系統あります。
1つが、シロナガスクジラとかナガスクジラなどといった、オキアミやプランクトンを食べる「ヒゲクジラ」類。

もう1つが、シャチとかマッコウクジラを含めた「ハクジラ」というグループです。
この2グループは、全く違います。生き方のポリシーが違います。種族を繁栄させて、次代に継承する仕方が違うんです。

マッコウクジラ
マッコウクジラ

ーーマッコウクジラは最大どれくらい食べないで生き続けられる?
(今回のクジラと)グループが違うヒゲクジラの方は、餌を食べるのはだいたい3ヶ月。後の9ヶ月は餌なしで暮らせます。餌を食べる時期にたっぷり健全に食べていれば、生命の維持という観点では、半年ぐらい大丈夫だと思います。

一方、マッコウクジラは、比較的しょっちゅう食べているような感じがしますが、それでも2か月ぐらいは餌がなくても生存できます。

いきなり1頭で生きるのは難しい

マッコウクジラは群れで育ち、成長の段階を追って、「少年団」「青年団」そして最後に「繁殖雄」となって独立するという。

ーーマッコウクジラの生態は?
マッコウクジラは、ハクジラの中の最大の種類です。

オスとメスの大きさがずいぶん違っていて、社会構造がとても複雑です。メスばかりの群れにオスが種付けに外から来ますが、子供が生まれて、一定の大きさまでその群れで育ちます。
そしてオスはだいたい3年ぐらいすると群れから出て、少年団を作って、やがて青年団になって、最後は一頭になって繁殖雄になるんです。

大阪湾のマッコウクジラは、私の感じでは、体長12~13メートルあって、少年団ではなくて“青年団”に入ったオスで、あと4~5年すれば単独行動をする資格が出てくるところです。

ーー群れから一旦はぐれたら見つけるのは難しい?
必ずしも元いた群れに戻る必要はないんですが、あのサイズだとまだ1頭で暮らしていないと思います。色々な準備をしてから最後に1頭になるので、いきなり1頭では生きにくい状態です。

何かの拍子で沖合には出られると思いますが、そのまま1頭でずっと暮らせるとも思えない。弱っているようには見えないが、やがて厳しいステージが訪れるかもしれません。

ヨットなど無動力船は要注意

ーークジラの周辺で気を付けるべきことは?
マッコウクジラは外側の黒い皮膚がとても硬いです。そのためぶつかると船を簡単に突き破ってしまいます。

マッコウクジラの遊泳方法では、下からフッと上がってくることがあるので、水深2メートルだと心配はないですが、油断しているとぶつかってしまいます。

またエンジン音にとても敏感なので、推進機関を付けない船(無動力船)は危ないです。
一番良くないのは、助けようとしてロープをかけて引っ張ろうとする人が出て来たら、それは止めなさいということです。力がありますから非常に危ないです。

普段は、攻撃する目的ではなく、興味があるから船に寄ってきます。停まっているものに特に興味を持ちやすいので、ヨットは危ないです。エンジン船は基本嫌がるので、衝突を防ぐには良さそうです。