寝ていると突然、「こう丸」に激しい痛みが…大きく腫れあがり、腹痛や吐き気も。

10~18歳くらいの男子、また乳幼児が突然発症するのが、「精巣捻転症」だ。
しかも、緊急手術しないと、「こう丸」が壊死して摘出することに…!
子どもを守るためには、家族がこの疾患の緊急性をよく理解しておくことが絶対必要だ。

突然の「タマ」の痛みと腫れは要注意 1分でも早い受診を!

男の子が、急に「タマ」(こう丸)に痛みや腫れを訴えたら、一刻も猶予はない。
1分でも早く、泌尿器科や緊急手術が可能な病院を受診する必要がある。

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「そこまで大げさなことじゃないのでは?」と考えてしまうと、その子の将来に重大な影響を残してしまう危険性が高い。

「精巣捻転症」は、将来ある10歳から18歳くらいの男子、また乳児期に起こりやすい。
しかも恐ろしいことに、発症から6時間以内に手術しないと、「タマ」が壊死してしまい、摘出が必要になる危険性が高い。
このことはあまり知られておらず、多くの場合、受診した時には「既に手遅れ」というケースが多いのだ。
思春期までの男子とそのご家族には、ぜひこの病気の緊急性をご理解いただきたい。
冬などの寒い時期に発症することが多いので、今の季節は特に注意が必要だ。

管が「雑巾をしぼったように」ねじれ…

「精巣捻転」といっても、精巣そのものが捻れるのではない。

男子の陰のうの中にある「精巣(こう丸)」は、男性ホルモンや精子を作る大変重要な臓器だ。
精巣には、血液が流れる血管や精子が通る精管がつながっていて、精索という束になっている。

「精巣捻転症」は、この精索が急に“雑巾しぼったように”捻れてしまって、精巣に血液が流れなくなってしまう病気。
突然起こる激しい片側の精巣痛=タマの痛み…と共に、以下のような症状も現れる。

・精巣の腫脹
・吐き気と嘔吐
・腹痛
・精巣の位置異常

発症年齢に2つのピーク

「精巣捻転」が発症する年齢のピークは2つあり、頻度が高いのは1歳の頃と、10歳~思春期の頃になる。

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突然、「こう丸」の激しい痛みと腫れで、小さな子供が「精巣捻転」を起こした場合には、いつもとは違う尋常ではない様子になる。

理由はよくわからないが、右側より左側の精巣に発症することが多い。
また、夜間から早朝の寝ている時間帯に発症すること、冬などの寒い時期に多いのも特徴だ。
陰部の打撲をきっかけに発症することもある。

〝ゴールデンタイムを逃さないよう…早急な治療を!

そして、この病気が怖いのは、発症から6~8時間以内に捻れを戻す手術をしないと、精巣が回復しないこと。

90%の精巣機能を守ることが出来る治療の〝ゴールデンタイム“は、発症から僅か6時間とされている!
12時間以上経過すれば50%、24時間経過すると90%以上の精巣が壊死してしまう。
手術が遅れ、「こう丸(精巣)」がすでに壊死に陥っている場合は、摘出しなければならない。
幼い、あるいは思春期の男子には、あまりに辛い事態となってしまう。

血流が回復して精巣を残せた場合でも、手術までに時間がかかるほどダメージが大きく、精巣が萎縮して、精子をつくる能力が減少することがある。
将来の不妊症や更年期障害につながる可能性があり、非常に重大な影響が出てきてしまう。

精巣を守るのは、まさに時間との勝負!
「しばらく様子をみよう」などと、時間を浪費する猶予はまったく無い。
“6時間”という時間は、あっという間に経ってしまう。

手術では、陰のうを切開して精巣の捻れを戻し、今後捻れないように陰のうの中に糸で縫合して固定する。
また体質的に、もう1つの精巣も捻れやすいため、同時に陰のう内に固定する。
一度「精巣捻転」を発症すると、再発しやすいことが分かっている。
必ず泌尿器科専門医に適切な診療を受けるようにして頂きたい。

“恥ずかしさ”や“専門外の受診”で時間を浪費することに

他の病気にはない、この病気の大きな問題点が2つある。

1つは、病気の部位が陰部のため、男子本人が“恥ずかしさ”から家族や学校関係者に相談できないままになること。
また、年少児に発症した場合は、本人が症状を「「タマが痛い」ではなく、「おなかが痛い」等と訴えることが多いため、見落とされがちになる。
そうこうしている間に、いたずらに時間が過ぎていってしまい、手遅れになるケースが非常に多い。

もうひとつの問題は、ほとんどの保護者等が、この病気についての知識がないこと。
そのため、嘔吐などの症状を見て、胃腸の病気と間違えてしまい、まったく専門外のクリニックを受診してしまうことが少なくない。

しかし、最初に受診した医療機関で緊急手術ができないと、別の病院への紹介や手続きで、時間を無駄に費やしてしまう。
治療の〝ゴールデンタイム“6時間を使い切り、精巣を摘出したり、萎縮してしまうことになる。

「精巣捻転症」は、男の子なら誰でも発症する可能性がある。
はっきりした原因が不明なため、現状では確立した予防方法もない。
まず、この病気の存在を男子本人とそのご家族が知っていることが必要だ。
さらに、自宅や学校の近くで「精巣捻転症」の緊急手術ができる病院も調べておいて頂きたい。
事前に知っておきたい見分け方のポイントとしては、「陰のうが腫れてくる」「触れると痛がる」など。特に、陰のうを持ち上げたときに痛みが強まるようだ。

とにかく、男子が「タマ」に痛みを訴えたら、休日や夜間であっても、迷わず、急いで泌尿器科のある病院を受診することが肝要だ。
手術の際に麻酔をかけるため、食事や飲水を控えて受診することも大切。
痛みが強くて自力で歩けないようであれば、救急車を呼んでもいいだろう。

(かなまち慈優クリニック 副院長・医学博士 佐川 森彦)

佐川 森彦
佐川 森彦

かなまち慈優クリニック 副院長。
平成14年慶應義塾大学卒業。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本血液学会血液専門医。
慶應義塾大学医学部血液・感染・リウマチ内科(当時)、埼玉医科大学総合医療センター血液内科、日本橋かきがら町クリニックを経て現職。