改選議席倍増を果たすも最重点選挙区(京都)を落とした参院選、「ポスト松井」が事実上松井代表(当時)の後継指名で決着した日本維新の会代表選、そして、思い切った試みも盛り上がりにやや欠けた感のある大阪市長候補を決する“予備選”。

2022年の維新の会を振り返ると、“選挙”に明け暮れた年だったといえるかもしれない。 しかし、維新の会にとっては、4月に統一地方選が行われる2023年こそが「選挙の年」になる。

大阪を代表する政党として認知

統一地方選のなかでも、大阪府知事選と大阪市長選が同日に行われる“ダブル選”は維新の会にとって最重要選挙となる。

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橋下&松井、そして松井&吉村…と、維新の会の最大の特徴は、大阪発の地域政党(大阪維新の会)の代表が大阪府か大阪市の首長であり続け、その首長が国政政党(日本維新の会)の代表(あるいは共同代表)を兼務しているところにある。

大阪府と大阪市のトップを「維新」が担うことで対立しやすいとされてきた府市間を調整し「大阪を前に進める政治」をうたい、国に対しては大阪の利益最大化を図る交渉役として振る舞う。そして、国政選挙では、大阪での”改革”実績をアピールし続ける。

これにより大阪での圧倒的な支持を得た状況が10年以上続いてきた結果、内外において「大阪」を“代表”する政党としてのブランド認知が一気に定着した感がある。もはや、大阪名物といえば…「維新・阪神・USJ」と言っても過言ではないくらいだ。こうしたブランド認知は、大阪“内”ではその強さをより確固とする一方で、大阪“外”では弱みにもなりうる。国政の場で野党第一党を目指す維新の会において「脱大阪」が必要と言われる所以である。

代表の座を賭け「市議会で過半数」

いずれにせよ大阪府知事と大阪市長を担っていることが維新の力の源泉となっていることは間違いない。吉村洋文・大阪維新の会代表も、先月20日に知事選出馬を表明した際、「大阪維新の会は、知事市長のタッグで大阪の成長を実現させてきたわけですから、どちらかが負けたら終わり」と話している。そして、ダブル選は勝つ前提だろうか、その場でさらなる目標を公言した。

「これが実現できなければ大阪維新の会の代表は辞任します」

吉村代表は、代表の座を賭けて大阪市議会での過半数の議席を獲得すると明言した。

すでに大阪府議会は維新が過半数を占めているが、大阪市議会ではこれまで維新が過半数を占めたことはない。大阪市議選は、中選挙区が多く、一つの党で過半数を取りにくいとされる。吉村代表が掲げる目標は、非常に高いもののようにも思えるが、現状は市議81人のうち40人が維新市議で、無謀な目標設定という訳でもない。

市議会での過半数を目指す理由として、吉村代表は「スピード感をもった政策の実現」を挙げる。ただ、それは「数の力による強行採決」と紙一重でもある。大阪市議会で過半数を実現した場合、どうなるだろうか。

吉村代表は折に触れて国会での与党・自民党を「数の力で押し切る」政治だと批判してきたが、大阪での“与党”・維新の会はそうではないのか。ここで、すでに維新が過半数を占めている大阪府議会の現状を見ておこう。

維新が過半数を占める大阪府議会の現状

大阪府議会ではすでに維新が48議席と過半数を占め、次いで公明党15議席、自民党13議席、その他少数会派が8議席という構成だ。大阪府庁本館の2階には、議場のほか各会派の控え室や会議室などが配置されているが、2階フロアの大部分を維新の部屋が占めている。大阪府議会では維新が“与党”なのだと実感する光景だ。

議会での「力」も圧倒的だ。2022年5月、自民党はギャンブル依存症対策に対する府の責任の明確化や依存症の家族らへの支援策などを盛り込んだ依存症対策を進めるための条例案を作成。

大阪府・市がカジノを含む統合型リゾート=IRの誘致を進める中で「ギャンブル依存症対策」は、各会派の共通認識であったため、自民党は維新や公明党との共同提案を視野に委員会での議論を持ち掛けた。しかし委員会付託は実現せず、6月の議会で、財源の裏付けがないことなどを理由に維新などの反対多数で自民の条例案は否決された。

その4カ月後。10月の議会で、自民党は再びこの条例案を提案。一方、維新も知事をトップにしたギャンブル等依存症対策推進本部の設置や財源を確保するための基金を創設する条例案を提出。維新は、「自民案」に対して、6月に提案したものと全く同じ内容であるとの理由で一切質問をしなかった。結局、議論もそこそこに「維新案」が可決された。

ギャンブル依存症の民間支援団体の代表を務める田中紀子さんは、可決された条例案が「責任の所在やタイムスケジュールが不明確で外枠だけのぼんやりした条例」だと厳しい目を向けている。

これまで、特定の企業・団体から支援を受けず、“ベンチャー政党”として権力に固執せず、しがらみがないことを強みだと訴えてきた維新。しがらみがないからこそ選挙で投票権のない次世代への投資もできると訴え、それが「既存政党」にはない魅力だとアピールし、選挙では度々「しがらみばかりの古い政治とは決別しなければならない」と、自民党との対立軸を口にしてきた。

かつて大阪維新の会にも在籍したことのある西野修平府議(自民党)は、「数の力」を手に入れた維新の「既存政党化」を指摘する。

西野修平府議(自民党):
自民案を通せば自民の手柄になるので採用したくないのでしょう。他党の提案でも府民の為に建設的な議論をするべきだが、“維新がやった”という体裁が大事になっているのではないか。維新は本来、“メンツ”にこだわるような古い政治をやめようと作られた政党なのに、今は権力の保持と勢力拡大に固執する政党に“先祖返り”しているようでとても残念だ

議員の身を切る”チキンレース

維新が“メンツ”にこだわっているように映る出来事が、2022年5月にもあった。

自民党大阪府議団は、議員が視察を行う際に、これまで公費での利用が認められていた新幹線のグリーン車や飛行機のビジネスクラスの利用を廃止する条例改正案を議会に提案すると報道陣に明かした。維新の看板政策「身を切る改革」を自民側から提案した形で、“本家”は、これにどう反応するかが注目された。

翌日、大阪維新の会大阪府議団は会見を開き、杉江友介幹事長が「自民党さんも条例案を出されてちょうど考える見直しをするいい機会かなと思い、やるのであれば全体をしっかり見てトータルでやるべきだ」と切り出し、自民の共同提案には乗らずに独自の改正案を発表。

「維新案」は、自民党が提案するグリーン車やビジネスの廃止に加え、船の特別船室の利用廃止や海外視察の際に食費などを賄う日当、さらにテーマごとに党派を超えて議論する委員会のメンバーで行う「委員会視察」の予算も廃止するという内容だった。

維新と自民の「身を切り合う」競争に、大阪維新の会の幹部もこう本音をつぶやいた。

「チキンレースですよね」

結局、2つの条例案が審議された6月の議会では、維新と公明党の賛成多数で、「維新案」が可決。これまで月額上限59万円(無所属の議員は49万円)支給されていた「委員会視察」の予算は廃止となった。

少数会派の府議は「結局、維新は知事・市長が社長と副社長で、議員がその部下みたいな組織のように感じるんですよね…。だから、議員の権限を制約していくことに問題を感じないのだと思う」と話し、知事に対しての議会の力がどんどん弱くなっていることを危惧している。

府知事と大阪市長、そして府議会に加えて市議会も維新が過半数となれば、大阪維新の会の代表も務める知事と市長の2トップに、今以上に権限が集中することになるだろう。

知事・市長”ダブル選”の行方は?

今年4月のダブル選に向けて、維新は、吉村知事が再出馬、大阪市長候補には横山英幸府議(大阪維新の会幹事長)を擁立することを決めた。

横山氏は、2011年に初当選したいわゆる”吉村世代”で、2回目の「大阪都構想」住民投票時の制度設計において中心的な役割を担った人物。松井一郎市長の後継候補ということになるが、横山氏は真面目な性格で、調整型。松井氏とはタイプも大きく異なる。三度目の「大阪都構想」もいつかは実現したいとの思いは強いが、当面は自治体間の連携で大阪府全体を効率的に運営することを目指す考えだ。

2020年11月に大阪維新の会の幹事長に就任後、大阪府下の首長・議員選挙で結果を残し、大阪維新の勢力を拡張。“ワン大阪”にこだわり、「UPDATE TO ONE OSAKA」といった標語も掲げるが、大阪の地方議会を維新が席巻していった先に何があるのか今ひとつ定かではない。

一方、”非維新”の中心となってきた大阪自民。府知事候補は府議団、大阪市長候補は市議団が別々に対立候補の擁立のために奔走しているが、まだ決まっていない。府議団は、府のコロナ対策に批判的な意見を持つ医師などに打診している一方、市議団から市長候補の具体的な名前は聞こえてこない。どちらも選定に難航している様子だ。

これまでのダブル選では、維新は知事候補と市長候補が「大阪都構想」を掲げることで、”府市間の連携”が知事選と市長選の両方で争点としてクローズアップされ、その結果、維新に有利に働いてきたとされる。今年のダブル選でも維新は”府市間の連携”を掲げて、知名度抜群の吉村候補とまだ知名度が低い横山候補をいわば「セットで」選んでもらおうと訴えかけることになるだろう。

このとき、”非維新”の対立候補が”府市間連携”のあり方について対案あるいは反論を示せるかどうかが注目される。

(関西テレビ報道センター記者 上田大輔・菊谷雅美)

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