日本の都道府県議会選挙における女性候補者の割合は12.7%とまだまだ低い。理由のひとつが「人手不足」。アメリカでは、女性候補者のトレーニングやリクルートをする民間の団体がある。その取り組みを取材した。

東海テレビ「ニュースONE」では、2022年11月に行われたアメリカの中間選挙の際、女性の政治への参加について、ニュースアプリのスマートニュースの協力を得て、入社4年目の女性記者が現地で2週間取材した。テーマは女性の政治への参画だ。

全米で25000人の若い女性が参加…“リーダーを育成”する民間団体

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「私は教育プログラムを実行するべき時だと思います」「私の課題は、メンタルヘルスの問題解決の方法を確かめることです」

自分の思いを熱く訴える若い女性…。アメリカの中間選挙からまもない2022年11月11日、私たちが取材したのは、首都・ワシントンで開かれたイベントだ。

参加していたのは10~20代を中心とした若い黒人の女性。彼女たちの多くは、全米に約100校あるHBCU(エイチ・ビー・シー・ユー)=歴史的黒人大学に通う学生や卒業生だ。

HBCUは、最近では黒人で、そして女性初の副大統領となったカマラ・ハリスさんの出身校としても知られている。

スピーチする参加者の女性:
私はアフリカ系アメリカ人の歴史に関して、教育システムを改革したいと思っています

スピーチする参加者の別の女性:
私の課題であり、特に学部卒業後の長期的な目標のひとつは、社会から疎外されたコミュニティにおいて、より良いヘルスケアを提唱することです

イベントを主催しているのは、2007年に設立された「ランニング・スタート(Running Start)」。民間の団体だ。

ランニング・スタートの代表 スザンナ・ウェルフォードさん(Susannah Welford):
ランニング・スタートの活動は、アメリカの若い女性が政治家に立候補し、政治的リーダーとなるための準備をするものです。特に若い女性にとって、力強く、素晴らしい女性たちとつながり、サポート・指導してもらうことが、彼女たちにとって力をつけるための大きな要素であることを、私たちは強く意識しています

この団体では参加者に対し、政治家を中心としたリーダーになるためのトレーニング活動を行っている。これまでに全米で2万5000人の若い女性が参加してきた。

午前中は、様々な分野でリードする女性が次々と講演。この日は…。

講演した女性:
私は大統領に立候補した初めての女性です。自分の居場所は何なのか、それを考えて、その中で政治的な活動をしていってください

カメルーンで初めて大統領に立候補したという女性に、元海軍の女性、大手企業のCEOらが登壇した。

彼女らが直面した課題を克服した方法を聞いて、参加者は自分に置き換えて自信をつけることを狙いとしている。

この日、選挙活動のマネージャーを務めている女性が講義したのは、「家族」「時間」「お金」「繋がり」「信用」といった人生についてまわるものを「いつも優先」「ほとんど優先」「時々優先」「優先しない」の4つのカテゴリーに分けるトレーニング。これをすることで、自分の価値観を明確にしていく。

午後からは、参加者がグループディスカッションとスピーチを行い、講師が指導していた。自分の訴えたいことについて、自身の経験を踏まえて話すように心がけるようアドバイス。

考えを強く訴える女性が次々と…参加者が持つそれぞれの「問題意識」

参加者はどんなことを学びたいと考えているのか、ウェルフォードさんに聞いてみた。

ランニング・スタートの代表・ウェルフォードさん:
多くの参加者がここにいるのは、自分たちのコミュニティに問題がある、うまくいっていないことがあると感じているからではないでしょうか。どうしたらこの問題を解決できるのか、どうすれば問題を解決できる人になれるのかを学びたいのです

様々な「リーダー」としての目標を持った参加者。私たちがインタビューをしていると、多くの参加者が進んで声を掛けてきて、話をしてくれた。

最高裁の判事や議員を志望する女性:
私はもともと、アフリカ系アメリカ人女性として初めて最高裁判事になりたいと思っていました。議員になることも考えています。私は、女性であるがゆえに起こる性差別や差別があることを確かに見てきました。しかし、私は決してそのようなことにとらわれることはありませんでした。私は、自分が何者であるか、誰であるかについての他人の意見に左右されることなく、自分の夢のために必要なことを行っています。

アフリカのジンバブエ出身で国連志望の女性:
私は常に国際社会に影響を与えることに情熱を注いできました。発展途上国から来た私は、夢を追いかけるために十分な資源がないことがどのようなことかを知っています。私のような学生や、私と同じような境遇にある人たちのために、可能性を追求する道筋を作り、変化をもたらすことが人生の目的です

医療業界志望の女性:
もし女性が医療分野でより高い地位に就くことができれば、人々がより安心して医者にかかることができるようになると思うのです。私は女性たちに、黒人女性、特にマイノリティの女性たちは、自分が望むことは何でもできるのだと示したいのです。

最高裁判事や国会議員を志望する女性:
私も最高裁判事になりたいと思っています。あるいは、いつか上院議員か下院議員に立候補したいです。私は意思決定をする人になりたいんです。残念なことに、学校では非常にアメリカ的な歴史観を教えられているので、すべての社会から疎外されたグループの歴史に触れることができるような教育改革に取り組んでいきたいと思っています。

政治家だけでなく、国連や高度な医療分野など、女性進出がまだ進んでいない分野でリーダーとして活躍することを目標とする人が、力強く自分の考えを伝えてくれた。

参加者にランニング・スタートの取り組みの評価を聞いてみた。

最高裁判事や国会議員を志望する女性:
黒人の女性にとって、立候補の仕方を学び、応援してくれる人がいることを知ることができるこの機会は、素晴らしいものだと思います

最高裁判事や議員を志望する女性:
このイベント全体から私が得た最大のものは、何が起ころうとも、どんな障害があろうとも、強くあり続けること、そして私たちには目的があり、理由があってここにいるのだということを理解することです

代表のウェルフォードさんは、ランニング・スタートの活動を「民主主義のトレーニング」だと説明している。

ランニング・スタートの代表・ウェルフォードさん:
私たちは、市民が立候補して最高レベルの指導者になる権利があり、すべての市民がその権利を持っていることを理解するよう訓練しています

ランニング・スタートの運営は、主に寄付を資金にして活動している。アメリカでは、こうした活動に民間企業や個人が寄付することが浸透していて、日本との違いを感じた。

女性議員を増やすための「リクルート活動」する民間団体も

アメリカで政治家志望の女性を支える仕組みは、育成だけではない。女性の候補者を増やすために、「リクルート活動」を行う民間団体まである。

ワシントンから4500キロ離れた西海岸のカリフォルニア州。

取材したのは、カリフォルニア州議会議員の女性候補をリクルートをすることに特化した団体、「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター、スザンナ・デラノさん。

「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター・スザンナ・デラノさん:
2013年にスタートしたのですが、州議会の女性議員の数はどんどん減っていて、その軌道を変えるための介入として始めたのです。私たちは、政治指導者、誰が次世代を担う人物であるかという観点から、多くの調査を実施しています

州議会における議員の数を男女同数にする=パリテを目標に活動するこの団体。リクルートの方法は次のようになっている。

各地域の労働組合や地域活動などを行うグループに話を聞き、評価の高い女性をリストアップ。

そのリストを使って、選挙の数年前からひとりひとりに対し、立候補を促す。承諾してもらえれば、政策や資金調達など、立候補に必要な情報を1年がかりで調査する…という流れだ。

「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター・デラノさん:
私たちは、政治指導者、誰が次世代を担う人物であるかという観点から、多くの調査を実施しています。時には1つの州議会上院の選挙区で50人の女性のリストを作成し、誰が本当に立候補する気があるのか、誰がそうでないのか、どんどん絞り込んでいきます

この団体の正規のスタッフは3人だけ。オフィスもないが、運営資金の中心はこの団体も企業や個人から受けた寄付だ。

この団体が積極的に行っているのが、現役の女性議員とのマッチングだ。

「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター・デラノさん:
女性は変化を起こそうとするものです。男性の候補者よりも、特定のことを成し遂げようとする動機があることが多いのです

「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター・デラノさん:
ですから候補者となる女性と、現在議員を務めている女性とを結びつけることを多く行っています

議員数を男女同数にする「パリテ」達成で期待される変化

現役の女性州議会議員を紹介するイベントも定期的に開催し、リクルート対象者の具体的な疑問点や悩みを解決し、立候補につなげてきた。

こうした積み重ねが大きな飛躍に。今回の中間選挙では、16人の女性を立候補へと導いた。

また、これまで州議会議員120人のうち女性議員が最多だったのは、現在の39人。2017年は約2割だった女性議員の割合は、今回の選挙では、4割を上回る50人程度になる見通しだ。

議員の数を男女同数にする、目標の「パリテ」を達成する時が近づいている。「パリテ」が達成されれば、カリフォルニアにどんな変化が起きるのだろうか。

「クローズ・ザ・ギャップ」のディレクター・デラノさん:
日本でも同じかもしれませんが、政治は有害だという認識があります。厄介で恐ろしくて否定的なことが多いのです。私がこの仕事をする理由の一つは、もっと多くの女性が議員になることで、「政治=有害」というイメージを変え、政治に関わるすべての人が参加できる、安全で正直な政治にしたいと願うからです

女性議員が躍進するアメリカ。そこには、たくさんの支える人の想いがあった。

2022年12月6日放送
(東海テレビ)

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