イギリスのチャールズ国王の初めてのクリスマススピーチが注目される中、そのファッションも「キング・オブ・サステイナビリティー」として話題となっている。

親子3代のそれぞれの装いのこだわりやチャールズ国王の環境に対する思いなどについて、服飾史家の中野香織さんに話を聞いた。

良い物を買ったら長く使い続ける

――エリザベス女王の華やかな服装は話題でしたが、チャールズ国王のファッションはいかがですか?
エリザベス女王のワンスタイルの力というのは、独特で注目を集めてきましたが、実はチャールズ国王は、メンズファッションの模範となり続けてきた方で、一言で言うと皇太子時代は「プリンス・オブ・サステイナビリティー」と呼ばれていました。

今は「キング・オブ・サステイナビリティー」です。

時代が今、ようやくチャールズ国王についてきた、そのようなスタイルです。

チャールズ国王は1960年代の終り頃から、すでにプラスチックごみに関する啓蒙活動をしていて、60年代、70年代、80年代とエコロジカルな活動をして、ファッションも80年代のスタイルを今なお続けていらっしゃいます。

――ある意味頑固そうですね?
頑固ですね。
チャールズ公のスタイルは、淡いグレーのダブルのスーツをよくお召になっていますが、ポケットチーフは華やかに入れられていますし、ブートニエールというボタンホールに花をあしらってVゾーンが非常に華やかなんです。

80年代にはそのスタイルがワーストドレッサーに選ばれたことがありますが、その後も変わらず、30年以上、40年近く同じスタイルを続けていらっしゃる。サステイナビリティーを体現しているというスタイルで、今では完全にベストドレッサーに選ばれていらっしゃいます。

同じスタイルを続けているという意味で、「キング・オブ・サステイナビリティー」と呼ばれています。

――サステイナブルを象徴するファッションはどんなものがありますか?
例えば、長年履いている黒い革靴は、2か所継ぎはぎが施してあります。

継ぎ接ぎしてまで長く履き続けるスタイルは、「チャールズパッチ」と呼ばれていますが、逆にチャールズ国王がこのような靴を履いていることで、これがトレンドになって、ある靴ブランドは、はじめからこの継ぎはぎを施した靴を作っていらっしゃったりします。

このスタイルが逆に流行の発信源になっているんです。

サステイナビリティーが注目を浴びる時代においては、これがおしゃれということです。

良い物を買ったら、それを長く使い続けるというのがチャールズ国王の信条で、それを体現するスタイルの1つです。

気に入ったものを長く履き続ける、修理をしても履き続ける、というその態度そのものが格好良いということで、最初から評価されていたと思います。

――他にも「チャールズパッチ」が見られるファッションはありますか?
こちらは典型的なスーツスタイルですが、シングルノットのきりりと結んだネクタイ、淡いグレーのダブルで、華やかなポケットチーフをあしらい、ブートニエールをさすというのがチャールズ国王の典型的なスタイルですが、裾に“かけはぎ”があります。はっきりとわかります。

これも何度か公務でお召しになっていますが、スーツも着慣れたものを長く着続けるスタイルで、同じように「チャールズパッチ」と呼ばれています。

共通している精神は、良い物を1回買ったら長く着続けるために補修する。そういう哲学、美学です。

――そういうものを着ていることの違和感を出さないように工夫されているんですか?
いいえ、全然気にしてらっしゃらないですね。そこが良いんじゃないですか。

何かそれをコンプレックスみたいな、隠そうとしたり、目立たないようにしようとするととても恥ずかしいものになりますが、ごく普通のブートニエールと変わらない感じでしれっと着ていらっしゃるところがポイントです。

だからとてもカッコよく映るんじゃないでしょうか。
良い物を修理して長く着ることは恥ずかしくない、良いことだという価値観を広めようとしてらっしゃるんだと思います。

啓蒙活動は積極的に行っているし、産業支援、特に服飾関係の産業支援は積極的に行っているので、ファッションに無頓着というわけでは決してないです。

――日本で言う「もったいない精神」のようなものですか?
もったいないというか、良い物を捨てる必要がないという感じでしょうか。
今の奥様も本当に長く長く愛していらっしゃる方ですので、やっぱり一旦愛したら捨てないと言う方ですね。一貫してそういう美学が感じられます。

体に1回馴染んだ洋服は別に捨てる必要はない。
コートも80年代に作られたアンダーソンシェパードというブランドのものを、今尚、40年近く着ていらっしゃることでも有名です。

――チャールズご夫妻の公務でのファッションに特徴はありますか?
王室の方々はニュース映像がありますので、公務の度に装いをお変えになるのですが、チャールズ国王と奥様のカミラ王妃は、同じスタイルで違う公務に臨まれることがしばしばあり、そういったスタイルを取り続けていることも前例がないサステイナブルなご夫婦です。

特に女性の皇族や王族の場合、イベントでこの服を着たというのは、記録に残す上でも大事なことになるのでお変えになるのですが、カミラ王妃は比較的同じ服を何度か着回していらっしゃいます。

お2人は考え方が似ていて、それでずっと仲良く、相性が良いといいますか、価値観がとても似ていると思います。

フィリップ殿下は“謹厳で控え目”

気に入った物を長く使い続けるチャールズ国王だが、父親のフィリップ殿下も70年間ほとんど変わらないスタイルを貫いたという。

――父親のフィリップ殿下との違いは?
親世代に反抗する、なんとなく親世代がやっていることと少し違うことやってみるというのがイギリス王室の定番のパターンのようで、それは現在の国王にも見られます。

チャールズ国王のお父様は亡くなられたフィリップ殿下ですが、チャールズ国王が華やかなのに対して、フィリップ殿下は70年間ほとんど変わらないスタイルなんです。
濃紺、あるいは、濃いグレーのシングルのスーツで、ポケットスクエアは白のキリリとしたタイプです。

70年間、殿下のスーツを作っていた方の話によれば、この間メンズファッションのトレンドは非常によく変わったのに、殿下において変わったのは、ラペルの長さとズボンの幅だけで、一貫して常にこのスタイル。

女王の一歩後ろに下がっていても尊厳は失わない、謹厳で控え目なスタイルで一貫していらっしゃいました。

――なんでお父さんと息子でスタイルが変わるのですか?
興味深いのは、エリザベス女王のおじさんにあたるウィンザー公(エドワード8世)という方がいて、離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚するために王位を捨てた方ですが、その人はメンズファッションにあらゆる華やかさをもたらした方なんです。

“ウィンザーノット”と呼ばれる太いネクタイの結び目ですとか、紺のスーツに茶色の靴を合わせてしまう(当時では)ルール破りのスタイルですとか、メンズファッションに非常に華やかさをもたらした方で、その方に対する反感がフィリップ殿下にあったのかなと感じます。

王室のメンバーを見ると、だいたい1世代前の方に対する反抗なんです。みんなの写真を並べてみるとそこにはあらゆるメンズファッションがあります。

ウイリアム皇太はカジュアルなテイスト

――では、チャールズ国王の子供たち、ウイリアム皇太子とヘンリー王子はいかがですか?
ウィリアム皇太子は、非常に現代的なカジュアルなテイストを持っていらっしゃいます。
もちろん、国の儀式の時は軍服やフォーマルウェアをきちんと着ますが、一般的な公務はどちらかというとフィリップ殿下に近いスタイルです。

シングルでポケットスクエアもシンプル、無い時もあります。
もっとカジュアルな場面だと、ネクタイすら着けていない、非常に今時のカジュアルな男性のスタイルですね。なので、共感は得られやすいのではないでしょうか。

ヘンリー王子は、さらにカジュアルというか無頓着で、しばしば服装を間違えているということで、メディアにバッシングされています。
シャツを中から出していたり、兄のウィリアム皇太子が意識したカジュアルだとすれば、ヘンリー王子は無頓着に近い印象です。
 

常に世界中の注目を集めるイギリス王室のファッション。
中野さんは今後について、ウィリアム皇太子の長男、ジョージ王子に期待を寄せているという。

――イギリス王室だからここまで親子3代で違いがある?
メンズスーツにおいては、17世紀にチャールズ2世が現在のスーツのシステムを考案しているんです。
それ以来、世界のメンズスーツの模範となり続けてきた国であることもあって、スーツスタイルは実験的なこともイギリス王室がやっていて常に注目されています。

王室ファッションは世界中にニュース配信されるので、そういう風にカラーを出すことは良いことだと思います。

エリザベス女王の隣で手を振るジョージ王子
エリザベス女王の隣で手を振るジョージ王子
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――王室はファッションの観点から今後、どうなっていくと思いますか?
ウイリアム皇太子の長男、ジョージ王子がまた非常に期待されていて、最初にオバマ大統領と面会した時はバスローブ姿で、オバマ大統領は目線を合わせるためにしゃがんでいたんですが、ジョージは上から目線でオバマ大統領に握手を求めていたりして、非常な貫禄を示していました。

しかも、ジョージ王子が着ているものはすぐ売れるということで、すでに雑誌GQのベストドレッサー入りもしていますし、ファッションという意味ではジョージ王子は非常に期待できます。

すでに注目されているのはキャサリン妃ですが、ジョージ王子がこれからどう成長して行き、ハイティーン、20代になってその時代のファッションをどう取り入れて、王室メンバーとして貫禄のあるファッションを見せてくれるかに期待したいです。

――チャールズ国王にはどういった期待がありますか?
昨年、「ワン・プラネット」という環境に関する会議で地球憲章を提唱されていて、環境問題においてリーダーシップを取って行かれる方なので、一層環境を意識したこれまで通りのサステイナビリティーを感じさせるスタイルが今後も続いていくのではないでしょうか。

既にたくさんの羊をハイグローブ(チャールズ国王の別邸)に飼っていますし、スコットランドのツイード工場の修復も支援していますし、そういう活動も合わせてやっているので非常に説得力があります。

表層だけじゃなくて、国の産業や原材料を作るところも支援しながら啓蒙活動をして、その結果、あのスタイルなので、上面だけじゃないサステイナビリティーの哲学があります。
学校も作っているし、国内産業の支援に関してはリーダーシップをとっていらっしゃいます。

“場、状況、相手”に応じて正しく着分ける

――イギリス王室のファッションから日本が学べることは?
私は日本の政治家の方々に見習ってほしいと思っています。

外交の場で、状況や場所、相手に応じて、正しいドレスコードを守った着分けを見習っていただきたいです。
西洋の服だから日本が崇拝して真似るではなくて、“格”を合わせるということです。

正式な場では正式な格。
洋服が嫌だったら着物を着ても良いです。ちゃんと一番格式の高い着物を着るとか、“場、状況、相手”に応じて正しく着分けることをお手本として取り入れてほしいと思います。