日銀が金融引き締めに転換したとして、20日、株式市場は値を下げ、為替は円高に振れた。
黒田総裁「利上げではない」と発言も…円高急伸・株価急落
日銀・黒田総裁(12月20日 午後3時半頃):
緩和的な金融環境を維持しつつ、イールドカーブコントロール(長短金利操作)の運用について、一部見直す。

日銀が決定した、大規模緩和策の一部修正。
景気を支えるため、0.25%程度に抑えてきた長期金利の上限を、0.5%程度に引き上げました。
今回の修正について、日銀の黒田総裁は「金融緩和の効果が円滑に波及していくようにする趣旨で行うもので、利上げではない」「景気にはむしろプラスではないか」と述べた。
さらに今回の修正は、“金融緩和を縮小する「出口戦略」の一歩ではない”としたうえで、「物価安定の目標を持続的・安定的に実現するために、金融緩和の継続が適当だ」と説明。
しかし市場関係者の多くは、事実上の利上げと受け止め、金融緩和から引き締めへの転換と捉える見方もある。

外国為替市場では、円を買う動きが加速した。

20日正午過ぎに日銀の決定が発表されると、円相場は1ドル137円台から、一気に133円台まで円高方向に変動。その後、1ドル132円台まで円高が進んだ。

一方、東京株式市場では、景気の落ち込みを懸念した売り注文が広がり、日経平均株価は一時800円以上値下がりした。
市場関係者からは、「年明けになると次期総裁の名前も出てくる。現執行部としての落とし前を付けるという方向性を見せたのではないか」という声も出ている。
専門家「金融引き締め政策の最初の第一段階」
「Live News α」では、市場の分析や企業経営に詳しい、経済アナリストの馬渕磨理子(まぶち・まりこ)さんに話を聞いた。

三田友梨佳 キャスター:
市場関係者の多くは「事実上の利上げ」と受け止めているようですが、馬渕さんは、いかがですか?
経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
まず、黒田さんは「利上げではない」と述べていますが、「金融政策の修正の第一歩」との認識になります。2023年4月の退任を控えて、次の総裁へ道筋をつけてバトンタッチをしやすくする黒田さんの配慮かと思います。
ただ、今回の金融政策決定会合は「無風」だと思っていた関係者が多かったので、時期がサプライズとなりました。マーケットは「サプライズ」と「不透明感」を嫌うため、長期金利の市場は急上昇し、日経平均は800円安・為替は円高になりました。
三田友梨佳 キャスター:
日銀は「金利の引き上げ」に向かって一歩、踏み出したということでしょうか?
経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
金融引き締め的な政策にはグラデーション、段階があります。
いまアメリカが行っているような「政策金利の明確な利上げ」を最終的なゴールとすると、その手前にはマイナス金利を修正する可能性がありますし、さらにその手前には今回行ったような、金利の操作を行う「イールドカーブコントロール」の修正があります。今回はこの第1段階が行われたという認識になります。
これは、金利を表すグラフの曲線が、カーブを描くように緩やかに金利が上昇するように、日銀が必要な措置をとったということになります。
具体的には、先述の通り、これまでは長期金利が0.25%より上昇しないように“ピン留めする”政策を取っていましたが、今回の決定は「その上値を0.5%まで認めるよ」という判断になります。
三田友梨佳 キャスター:
今後についてですが、どうなっていくのでしょうか?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
大胆な金融緩和による景気の浮揚を狙ったアベノミクスの修正について、議論されはじめています。
ただ賃金上昇が伴わない中で、もしも、大胆な「利上げ」をすれば経済を冷やしてしまいます。短期金利の上昇は中小企業の借入コストが高まりますし、長期金利の上昇は住宅金利に影響を及ぼします。
今回のイールドカーブコントロールの修正は適切な範囲内ですが、次回以降の金融政策決定会合で、この修正幅が大きくなると、経済へのダメージが大きくなります。
実際に銀行株が急騰し、成長企業の株が大幅に下落している20日の動きを見ていると、マーケットは、将来の懸念を織り込みつつあるように感じます。
三田友梨佳 キャスター:
景気減速に繋がらないか、今後の金融政策を注視していきたいと思います。
(「Live News α」2022年12月20日放送分より)