FIFAサッカーワールドカップ カタール大会が開かれた中東で、少し前にもうひとつのワールドカップが開かれた。腕や足を切断した人たちの「アンプティサッカー」の大会で、日の丸戦士はカタール大会と同様に世界の強豪に勝利した。初めて代表に選ばれた20歳のエースストライカーを取材した。
トルコでアンプティサッカーW杯
2022年9月、決戦の地・トルコに乗り込んだ日本代表。

腕や足を切断した人たちがプレーする「アンプティサッカー」のW杯に挑む、日の丸戦士たちだ。

4年に1度の大舞台で日本の得点源として期待されたのが、静岡市に本拠地を置くガネーシャ静岡AFCのキャプテン、FW・後藤大輝選手(20)選手だ。
1歳で足切断 父と空手に鍛えられ
生まれつき右足に障害があり、1歳で足首から下を切断した。

ただ その障害に負けまいと、父・史生さんの道場で2歳から空手を始め、体幹や腕力を鍛え上げてきた。
しかし、小学生から始めたサッカーは義足だと公式戦に出場できず、高校1年の夏に退部した。サッカーへの未練を断ち切れずにいる中、 4年前の2018年に出会ったアンプティサッカーで、彼は一気に頭角を現す。

W杯の行われる2022年の正月には、父の空手道場の恒例の滝行で決意を新たにした。
後藤 大輝 さん:
やっと掴んだ世界へのチャンス。このチャンスをモノにして、世界で羽ばたきます!

父・史生さん:
彼が障害を持って生まれてから生きていく中で、いろいろな人に支えられて背中を押してもらったと思うんです。ワールドカップを開催する年で試合に携われるなら、気持ちの中でそういう人たちへの思いを持って、プレーしてもらえたら嬉しいですね
支えてくれた人たちに恩返しを
後藤さんにとって2022年は20歳の節目の年だ。この年、支えてくれた人たちへの恩返しを胸に、初めて日の丸を背負う舞台に挑む。

世界が相手でも当たり負けしない強靭なフィジカルを身につけるため、夏場には足場が悪く負荷が高いビーチサッカーを取り入れてきた。
過酷なトレーニングを乗り越えた事で、持ち前の体幹や腕力がさらに強化され、体重が5kgも増えた。
初の大舞台で3得点
それがW杯での強豪・アメリカとの一戦で真価を発揮する。

体格で勝る強豪に対しても全く引けを取らず、最前線で体を張り続け、後藤選手を起点に先制点を奪う。
そして前半終了間際には縦パスをダイレクトで流し込み、自らも得点をあげた。

4対3で強豪との死闘を制した価値ある勝利は、彼の存在なくしては叶えられなかった。
ただ世界の強豪の壁は高く、チームはベスト8を前に敗れて24チーム中11位だった。

7試合で3得点も挙げた初の大舞台だったが 「自分は、まだできる」との悔しさをしっかりと胸に刻んだ大会となった。
アンプティサッカー日本代表・後藤 大輝 選手:
たった3点しか取れなかったのは自分の課題でもあるし、応援してくれた人たちにとっては、まだ物足りないのかなと感じているので。(応援への)感謝も強いですけど、より結果で示さなきゃなという思いはあります
「まだまだ成長できる」自信を胸に成長を
帰国後、彼の姿はもうピッチにあった。夜間練習を増やし、早くも4年後に向けてリスタートを切った。

上を目指す環境を作り、妥協せず飽くなき向上心こそがさらなる成長につながり、日本の強さへとつながっていくはずだ。

アンプティサッカー日本代表・後藤 大輝 選手:
(普通なら)何年かかかる経験や体験を1年でできたのは、自分の中での良い刺激だし、自分でもまだまだダメだなと思うところも多いから、本当にまだまだ成長できる自信しかないですね
自分のプレーが世界で戦えることを知り、後藤選手はさらなる高みをめざす。
(テレビ静岡)