299人の犠牲者を出した長崎大水害から、2022年で40年という月日がたった。地域住民との合意形成に13年という長い時間をかけ、モデル事業としても注目されている、鹿尾川(かのおがわ)の「川作り」を取材した。

河川改修は住民の意見も参考に

長崎大水害は、1982年7月23日から翌24日未明まで、長崎市を中心とした地域に発生した集中豪雨で、各地で土石流や山崩れなどが多発し、長崎県内だけでも299人の犠牲者を出した。水害後、長崎市内の川は氾濫を防ぐための改修工事などが各地で進められ、そのほとんどで工事が完了している。

鹿尾川は改修が終わっていない
鹿尾川は改修が終わっていない
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そんな中、惨事から40年がたってもなお、改修がいまだ終わっていない川がある。長崎市南部の土井首地区を流れる県の2級河川・鹿尾川だ。

小ヶ倉水源地
小ヶ倉水源地

鹿尾川の水は、古くから飲料水として利用されてきたが、もともと川幅が狭いことなどから、渇水と氾濫を繰り返し、対策として大正15年に「小ヶ倉水源地」が完成した。また、昭和49年から河川改修が行われ、あわせて洪水と水道水確保のため「鹿尾ダム」の建設も進められてきた。

1982年7月23日の長崎大水害後の様子
1982年7月23日の長崎大水害後の様子

しかし、鹿尾ダムの建設途中だった1982年7月23日の長崎大水害で鹿尾川下流で氾濫が起き、流域では人的被害はなかったものの、約200棟の床下浸水など大きな被害を出した。

鹿尾ダムで治水の安全性を高めた
鹿尾ダムで治水の安全性を高めた

こうしたことなどから鹿尾川は、鹿尾ダムの完成(1987年)によって治水の安全性が高まったものの、十分な治水対策が施されたとは言えず、さらなる河川改修が必要とされてきた。

まず、下流から1.5kmの護岸はコンクリートで固められた。そして中流域での河川改修が、2021年春から始まった。水害を防ぐ目的だけに偏らず、自然環境や生物に配慮した川作りを目指し、長崎県の事業としては初めて住民の意見を聞きながら改修計画を作り上げた。

川岸の自然林・河畔林(かはんりん)が残る中流部は蛇行していて、浅くて流れが速い「瀬」と深みの「渕」があり、夏場は子供たちの格好の遊び場だった。

“よか川”づくり現地見学会の様子
“よか川”づくり現地見学会の様子

当初は「直線化」する案もあったが、地域の自然や歴史に配慮しながら住民と話し合いを重ねる中で計画が見直され、行政と住民の協働=パートナーシップによる川作りが進められている。

石工が丁寧に積み上げていく
石工が丁寧に積み上げていく

費用はかさむが、石積み護岸だ。県内でも数少ない技術を有する石工が石の声を聞きながら一つ一つ丁寧に積んでいく。

より良い川作りを目指して

市民グループが計画した見学会には、行政や設計・施工業者、川作りに関心を持つ市民など約30人が参加した。

鹿尾川は、県内でも珍しい水生のゲンジボタルと陸生のヒメボタルが同時に鑑賞できるため、えさとなるカワニナが生息できる環境が求められる。

カワニナが確認できた
カワニナが確認できた

見学会の参加者:
あれカワニナ。カワニナいますね。(確認)できました。たくさんいますよ。

東彼・波佐見からの市民団体:
工事後に(生物が)どれだけ復元できたか気になって参加した。いい川になってきてるみたい。

参加者は 約2時間説明に耳を傾けながら川沿いを歩いた。

参加者(設計関係):
川それぞれの良さを引き出すという意味で、いい川作りに向かっていってるのかな

参加者(建設業者):
今までちょっと見たこと無かったので新鮮な感じ

長崎よか川交流会アドバイザー・島谷幸宏 熊本県立大特任教授:
川を川に閉じ込めるわけではなくて、あふれさせるところはあふれさせ、ゆっくり流すとこは流しながら下流に対する洪水の負荷を抑えると、川の流れもゆっくりになるんで、川の環境自体にも良くなると。非常に素晴らしい改修

長崎振興局河川防災班・川野敏正 専門幹:
(工事中の川の水の)濁りの対策とか行政も地域住民も苦しみながら、お互いに協力してやってこれた結果。お褒めの言葉をいただき、当時の担当者もうれしく思っているのでは

ワークショップの様子
ワークショップの様子

見学会の後にはワークショップも開かれ、地域の自然や環境に配慮した住民と行政の協働の川作りに至るまでの過程が報告された。そして参加者はより良い川作りに向けて意見を交わした。

長崎よか川交流会・兵働馨さん:
地元の人たちがこの川をどうしていこうか、ふるさとの川としてどうやって残していこうかという気持ちを持っていることが一番大事

地域住民のふるさとの川への思いを背景に進められた鹿尾川の河川改修は、県内の川作りのモデルケースとして注目されている。2023年度にかけては上流部の護岸の石積みが行われる予定だ。維持管理や環境教育の場としての利用、そして県内の他の川でも河川行政がどう住民と向き合っていくかが問われている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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