少子高齢化の影響で、鹿児島県内でも後継者がおらず、事業の継続を諦める会社や飲食店が増えている。そんな中、大隅半島の大崎町で後継者をインターネットで募集する「事業承継マッチングプロジェクト」が始まった。

マッチングが成立した最初の事例は、廃業した養魚場だ。ある男性に引き継がれたが、そこには、たくさんの物語があった。

50年以上続く養魚場が…豪雨災害で廃業決意

大崎町で50年以上続く「高井田養魚場」。水が豊富に湧き出るこの場所は、コイとマス料理の専門店として地元の人たちに愛されてきた。しかし、もう店はやっていない。

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高井田養魚場 元店主・牧之瀬幸夫さん:
ここが厨房(ちゅうぼう)ですね。もう何もないですけど

―― 一番人気は?

高井田養魚場 元店主・牧之瀬幸夫さん:
コイの洗いですね。あと、コイを揚げたのにあんをかけたやつ。最盛期には、1日に昼150人、夜150人、300人近い客が来ていた

きっかけは、2019年に大隅地方を襲った豪雨災害だった。

高井田養魚場 元店主・牧之瀬幸夫さん:
崩れているのは、令和元年(2019年)の7月6日の線状降水帯の豪雨で落ちてきたところですね。ここはきれいな庭が造ってあったから。こういう災害は初めてだったものだから、もう後継者もいないし、これをどうやって修復しようかと考えたら、コロナもあったし、廃業しようと決心もつきましたね

跡継ぎとして一緒に働いていた長男の真吾さんは、2014年に36歳の若さで他界。牧之瀬さんは再建を諦め、商工会に廃業を届け出た。

急逝した息子の同級生が後継者に名乗り

そんな牧之瀬さんに提案されたのが、「事業承継マッチング」だった。大崎町と商工会、それに金融機関が連携して、後継者を探している事業者の情報収集を行い、それを専用のwebページで公開。インターネット上で公開することで、全国各地から後継者を募集することができる。

事業承継のwebサイトを運営する株式会社ライトライト(本社・宮崎)の齋藤隆太社長は、次のように語る。

齋藤隆太社長:
ここ数年、小規模な事業を個人が買い取って、自分のキャリアの1つにしたいという動きも出てきていて、そこをマッチングさせるわれわれのサービスというのも、ニーズが出てきている

公開された高井田養魚場の情報を見て、後継者を希望したのは約30人。牧之瀬さんは、その中から43歳の男性を即決で選んだ。同じ大崎町に住む純浦幸平さん(43)は、亡くなった息子、真吾さんの同級生だ。

純浦幸平さん:
インスタグラムをたまたま見ていたら、同級生のお父さんが出ていたので、「これ何だ?」と思って見ていたら、事業承継で次の方を探されている記事だったんで。応募期間があって、日にちがなかったのでちょっと考えたんですけど、今しかないなと思い応募しました

高井田養魚場 元店主・牧之瀬幸夫さん:
「こういう人がいる」と名前を聞いた時、息子の同級生でもあり、お父さんたちも知っていたものですから。(場所は)無償提供ですから、「もう、この子でいい!」と即決でした

まるで親子のよう…2人の名前には「幸」の字が

会社員の傍ら、趣味でメダカや金魚を繁殖させ、道の駅で販売していた純浦さん。いつか自分の店を持ちたいと考えていた純浦さんと、お店の引き取り手を探していた牧之瀬さんの思いがマッチングした。

従来のような飲食店ではないが、純浦さんは土地と建物を無償で借り、「高井田めだか」として店を再開させることになった。

純浦幸平さん:
たまたまの縁だったので、感慨深いですね。僕も父親がいないので、親子に近い仲になれたらと思う

高井田養魚場 元店主・牧之瀬幸夫さん:
本当に感謝です。息子が引き寄せてくれたのかなと思います

事業承継を祝い、セレモニーが行われた。

息子を亡くした牧之瀬さんと、父親を亡くした純浦さん。インターネットでつながった2人の名前には「幸」の字が使われていて、まるで親子のようだ。

養魚場と同じように地域に愛される場所を目指して、新しいあるじの元で、店は再び動き始めた。
大崎町では、このほかにも1件、このマッチングサイトで後継者が決まった事業所があるほか、現在は、譲渡価格4,000万円で、2万羽を飼育する養鶏場が後継者を募集しているという。

(鹿児島テレビ)

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