生活保護世帯の子どもが大学に通う場合、保護の対象から外れる「世帯分離」をして子どもは自力で生活費などを稼がなければならない。つまり「生活保護を受けながら大学に通うこと」は認められていない。

様々な苦労を抱えながら大学に進学した当事者を取材した。

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「大学に行くな」と言われているみたい

儚さん(仮名)のツイッター:
この世のバグなんよな。「生活保護世帯の子どもは大学進学せずに働く」が前提なのは恐ろしい

大学生は、働くことが前提で、生活保護を受けられない…そんな現状について「この世のバグ」と書き込んだのは大学生の儚(はかない)さん(※仮名・21歳)。

儚さん(仮名):
生活保護世帯は、大学進学する時に「世帯分離」をしないといけないという仕組みを知りまして、その時に「あなたは大学に行くな」と言われているみたいで、いわゆる“親ガチャ”といわれているが、本当にその通りだなと…今まで自分が生きてきたことを否定されてきた感じになりました

儚さん(仮名)は、幼いころに両親が離婚。母はうつ病などを発症し、働けない状態が続いたため、生活保護を受給するようになりました。家事や家族の世話は、儚さんが担っていたそうだ。

儚さん(仮名):
家がめちゃ汚部屋で掃除ができないので、あと(母が)料理を作れない人で、家に調理器具もないし、いわゆる“おふくろの味”といわれるものがスーパーマーケットの半額のお弁当だったりして、そういう家庭で育ってきました。受験勉強している時に電気が止まったんですよ…だからろうそくをつけて勉強していました

苦しい環境の中でも、昔から好きだった絵の勉強をするため地方の国立大学を受験。見事合格した。

しかし…。

大学進学するには「世帯分離」が条件

進学するにあたり待ち受けていたのが、生活保護世帯からの「世帯分離」だった。現在の規定では大学生は働ける人とみなされ、大学に通うには自身を生活保護の支給対象から外す必要があるのだ。

儚さん(仮名)は授業料の減免措置や給付型の奨学金を受けたが、生活費や教材費は自分で賄わないといけなかった。さらに世帯分離をしたことで減額された保護費分(約4万円)を、母から求められたため、バイトをいくつも掛け持ちして深夜まで働いた。

儚さん(仮名):
両親がいて親のご飯が食べられて親に学費払ってもらって、親のお金で遊んでいる子がいる一方で、何で私はこんな目に遭わないと駄目なのかなってずっと思っていました。何で同じ人間なのにこんな違うんだろうって、嫉妬ではないけど苦しかったです

儚さん(仮名)は、過労で摂食障害とうつ病を発症して休学を余儀なくされた。

心の叫びをツイッターに…

儚さん(仮名):
(絵は)自分の体験ですね、ほぼほぼ、脳に巡っては消えていくことを描きとめているみたいな感じですね

儚さん(仮名)がツイートした投稿:
「涙の数だけ強くなれたらどれほどよかっただろう」
「そんな経験するたびに心が弱くなる」
「一歩進んで二歩後退、頑張るほど報われないな」

儚さん(仮名)がツイートした投稿:
「『疲れた』と、言うと『甘えるな』と言われる」

「『助けて』と、言うと『甘えるな』と言われる」
「『死にたい』と、言うと『甘えるな』と言われる」

儚さん(仮名)がツイートした投稿:
「でも、その人が死ぬと『なんでもっと早く相談してくれなかったの』と、いう社会」

ツイッターに何度も投稿された絵には、儚さん(仮名)の心の叫びがあふれていた。

運用変更求める「署名」

現在、大学や専門学校などへの進学率は、浪人を含めると83.8パーセント。しかし生活保護世帯の進学率は39.9パーセントと半分以下だ。

この現状について貧困問題に取り組む弁護士は…

太田 伸二弁護士:
世帯としては保護費が減る、そういうことがわかっていると親の方が子どもの進学にブレーキをかけることがある。世帯分離がここで行われるということが、最終的に大きな差、進学率の差を生む原因になっていると思う。高卒と大卒の生涯賃金の差は歴然としてあって、学ぶことによって将来の働いて得る賃金水準を上げることにも役に立つわけで、回り回っていくと、本人や家族の経済的な自立にも役に立つこともあります

かつては生活保護世帯の子どもは、高校への進学も認められていなかったが、1970年には進学率が8割を超え生活保護を受給しながら就学することが認められた。

大学などへの進学率が8割を超える中、儚さん(仮名)らは生活保護の運用の変更を求めて署名活動を開始。2万6000以上の署名を集め、10月、厚労省に提出した。

「生活保護」なぜ大学生はダメ?

この日、儚さん(仮名)は子どもの貧困問題について考える集会に弁護士や大学教授らと共に参加した。

儚さん(仮名):
ずっと生活保護を受給したいのではなくて一時的に、選択肢の1つとしてくださいと言っています

飛田桂弁護士:
通常は大学生であったとしても困窮した状態にあるということが分かれば、本来は生活保護を渡すべきではないかという議論になると思う。弁護士であっても議員であっても医師であっても構わない、資格の部分では問題ないのになぜか大学生だと「どんな事情でもダメ、どんなに困窮していてもダメだ」となっている

立命館大学 桜井啓太准教授:
奨学金やアルバイトで生活費を賄っている学生もいる。(高卒で)就職する学生もいるから、大学生が困窮しても我慢しろという話ではないと思う。むしろ就職した人が困窮したら“生活保護を受けられる”。なのに大学進学した人は、困窮しても“生活保護を受けられない”というのがおかしいという話をしているのに、大学生の方が優遇されているという話になっている

「こんな社会でいいのか?」

儚さん(仮名)も当事者として、自身の思いを伝えた。

儚さん(仮名):
大学はぜいたくなのかという問題によく私は向き合わされる。大学がぜいたくか否かの話ではない、「環境的要因で教育を享受できなくなるような社会でいいのか?」ということを私は言いたい

そして11月14日、厚労省の部会が開かれ、5年に1度の生活保護制度などの見直しに向けた報告書案が示された。

その中で大学進学については、「一般世帯にも奨学金やアルバイトなどで学費・生活費を賄っている学生もいる中、一般世帯との均衡を考慮する必要がある。仮に認めた場合に相当数の大学生等が保護の対象となる可能性がある」などとして、引き続き生活保護を受けながら大学に通うことは認められなかった。

ただ、みんなと同じように、大学で学びたいだけなのに…。

「大学はぜいたくなんですか?」

 生活保護制度と大学進学の“バグ”…今後も実情に合った運用について考えていく必要がある。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月22日放送)