韓国・ソウルの繁華街「梨泰院(イテウォン)」で、150人以上が死亡した雑踏事故。事故前に寄せられた通報への対応が不十分だったなどとして、韓国の“警察庁”が“警察”の家宅捜索に乗り出すという、異例の事態となっている。

事故はどんな状況で、どんな力が働いて起こったのでしょうか。危険な密集から身を守る方法を、群衆事故を研究する大阪工業大学、特任教授の吉村英祐先生に解説してもらった。

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「人が押すこと」で群衆雪崩は起こる?

大きな被害が出た今回の梨泰院の事故。韓国メディアによると、「一部の人が前の人をわざと押した」という話も出てきているようだ。

人が押すことで群衆雪崩は起きるのか。吉村教授は「高密度の中では押して人が倒れるということは考えにくい」と指摘する。

大阪工業大学 吉村英祐特任教授:
すでに非常に高密度で、押す人自体が押せるような状態ではない。仮に押したとしても、その人の力くらいで倒れることはないので、恐らく転倒が原因ではないかと思います。押したとしてもほとんど影響はないと思いますし、犯人捜し以前に、そもそもこんな高密度の状態になった原因を探る方が重要です

危険な群衆 見分け方は…

どれくらいの密度で人が集まると危険かの目安として、1平方メートルに何人、という見方があり、5人以上で“高密度”と定義付けられます。

(Q.1平方メートルあたり5人というのは、日常生活ではどのような状況をイメージすればいいですか?)
大阪工業大学 吉村英祐特任教授:
エレベーターの定員ですね。実際のエレベーターの定員は重量で決まっていますが、ほぼ、1平方メートルあたり5~6人です

兵庫県警が出している「雑踏警備の手引き」によると、1平方メートルあたりの人数が増えるに従い、次のような状態になります。

7人:肩や肘に圧力を感じる
9人:人と人の間に割り込むことは困難
10人:周囲からの体圧で手の上下が困難
11人以上:体の自由が利かず苦痛を感じる(悲鳴が起きる)

さらに人が密集した場合、どのくらい人体に圧力がかかるのか。吉村教授が群衆圧力の実証実験を行った際の映像がある。

群衆雪崩のリスクが高まるとされる「1平方メートルあたり10人以上」の状態を再現するため、「コ」の字型のスペースを徐々に狭くしていくという実験だ。

実験の結果、1平方メートルに12人で、半数が身動きを取れなくなった。さらに、1平方メートルあたり14人が密集すると、1人あたりおよそ70~90キロの圧力を受けるような状況になり、およそ3人に1人が「呼吸困難」を訴えたということだ。

(Q.今回の梨泰院での事故はどれくらい密集していたと考えられますか?)
大阪工業大学 吉村英祐特任教授:
この実験の経験からすると、14人どころか、おそらく15~16人を超えていたと思われます。16人を超えると、1人あたりの圧力は200キロを超えるくらいになるかと。こういった高密度が発生することが驚きです

(Q.1平方メートルの16分の1は、A4用紙と同じ大きさになります。肩幅なんか到底入りません。ここに体を全部入れるのは無理ですよね…)
大阪工業大学 吉村英祐特任教授:
A4サイズに人を詰めようと思ったら、肺も潰れてしまうし、まったく呼吸できないという状態になります

群衆の危険 どう避ける?

群衆の事故から身を守るためには、どうすればいいのか。吉村教授は、「入り口はすいていても、奥に行くほど密集している可能性が高い。先に進むかどうかの目安は、“1平方メートルあたり5人”」という見解だ。

(Q.「1平方メートルあたり5人くらいいそうだな」と思ったら、注意した方がいいのでしょうか?)
大阪工業大学 吉村英祐特任教授:
そうですね。特に後ろから続々と人が来る場合、これ以上になると逆に戻れない、横に抜けられない、ということになります。ここで見極めないと、惨事につながる可能性が高まると思います。一方向にきれいに流れていたらいいんですけど、今回のように両方から来ると高密度になります

(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月2日放送)

関西テレビ
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