ミサイル発射場に娘を同伴
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は19日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が18日の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」型の発射を指導したと報じた。公開された写真には金総書記と並んで11~12歳と推定される少女の姿が映し出されている。
北朝鮮メディアは「核武力強化で重大な里程標となる歴史的な重要戦略兵器試験発射場に愛するお子と女史とともに自ら出てきて」として、金総書記がミサイル発射に娘と妻を同伴したことを明らかにした。
娘の名前は明らかにされていないが、金総書記の長女「キム・ジュエ」氏と見られる。
公開されたミサイル発射関連の写真25枚のうち、娘が映っているのは5枚。ロングの髪をポニーテールにし、白のダウンのコートに黒のパンツ、赤い靴を履いている。ファッショナブルな服装は一見して特権階級であることを示している。


金総書記は娘を自分のすぐ横に立たせて、発射を見守っただけでなく、手をつないで発射場を歩き、移動発射台に載せられた弾道ミサイルを見せている。


娘は金総書記と親しげに話をしたり、金総書記が一服するそばで妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏と並んで微笑んだりする様子も見られる。色白で丸顔、表情にはまだあどけなさが残る。

韓国の情報機関・国家情報院などによれば、金総書記には子供が3人いて、1人目は2010年、2人目は2013年、3人目は2017年ごろに誕生したと推定されている。2013年9月に金総書記の招きで訪朝した米プロバスケットボール協会(NBA)の元選手、デニス・ロッドマン氏は、金総書記には「キム・ジュエ」という名の娘がいると明らかにしていた。
9月の「金総書記の娘」報道を意識か
金総書記の娘をめぐっては、今年9月8日に開催された北朝鮮「建国」74周年の祝賀行事に登場した少女がそうではないかと取り沙汰された。
この少女はミサイル発射場に登場した少女よりは、やや年下の10歳前後と見られる。ピンクのワンピースを着用し、おかっぱの髪にカチューシャを飾り、一人だけ靴下を履いていた。


舞台上では少女がたびたびクローズアップされ、その前後に金総書記や李雪主氏、金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏が舞台に見入る様子が挿入されるなど、金総書記一家と何らかの関係があることを暗示する編集になっていた。
このため、英デイリーメールなどがこの少女を「キム・ジュエ」ではないかと指摘していた。
ただ、この時の映像と今回の報道を比べると、違いは歴然としている。
9月の祝賀行事の際は他の子供たちに交じって舞台に登場したに過ぎないが、今回はICBM発射という北朝鮮にとって最も重要といえる場面であり、しかも金総書記が手をつなぎ、親しげな様子を前面に押し出している。
金総書記がこのタイミングでミサイル発射に娘を同行したのは、代を継いで核開発を継続する意思を表したものといえ、核保有国の立場を絶対に放棄しないとの姿勢を改めて強調したと考えられる。
核実験は年内見送り?
金総書記は「火星17」型の発射に際し、「敵が核攻撃手段を頻繁に引き入れて引き続き脅威を加えるなら、わが党と政府は断固として核には核で、正面対決には正面対決で応える」と宣言した。
米韓、日米韓の合同軍事演習や、共同声明、国連安保理決議など北朝鮮への圧力に対してはその都度対抗し、軍事挑発を続ける構えを鮮明にしており、今後も各種ミサイルの発射などで揺さぶりが続きそうだ。
一方で、既に準備を終えたとされる7回目の核実験はどうなるのか。
北朝鮮がめざす核弾頭の小型化には核実験が必要と見られているが、北朝鮮側が直ちに核実験をすることに政治的メリットを感じていないように見受けられる。
北朝鮮の求める核保有国としての軍縮交渉に米国が応じる可能性は低いだけでなく、中国のメンツをつぶすことになるからだ。
北朝鮮は、習近平・中国国家主席による3期目指導体制を熱烈に支持し、中朝の赤い絆を強調することで、日米韓への対抗姿勢を露わにしている。中国側はいずれ中国共産党大会の内容を報告する代表団を北朝鮮に送る見通しで、核実験は中朝間の幹部往来にも水を差すことになる。
習近平体制3期目の節目となる来年3月の全国人民代表大会(全人代)までは、少なくとも核実験を控える可能性が高い。
新型コロナウイルスによる封鎖の長期化で、北朝鮮は食糧や生活必需品の不足に悩まされてきた。住民の我慢も限界に達しているのが実情だ。こうした時期に核実験を強行して中国のメンツをつぶし、支援を後退させるより、核実験を自制することで関係をより強固にし、さらなる経済協力を引き出したほうが得策であると判断しているのではないか。
ただ、核実験以外の軍事的挑発は依然続くだろう。突発的な軍事衝突の懸念もあり、北朝鮮の動向には引き続き警戒が必要だ。
【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】