感染が再び拡大し、“第8波”に入ったとの意見もある。
コロナが確認されて間もなく3年。一体いつになったら平穏な日常が戻ってくるのかーー。
この記事の画像(10枚)現在、国立感染症研究所のトップであり「アドバイザリーボード」の座長として、これまで国の感染拡大抑止の第一線で活躍されている、脇田隆字所長にこれまで抱いてきたコロナに関する疑問を率直に聞いた。
前編で、“第8波”やワクチンの重要性などについて語った脇田所長。後編では、なかなか進まない“脱マスク”の現状やコロナの今後、そして、いつ終わるのかという最も知りたい質問に答えた。
海外と日本“社会の受け止めの違い”
海外の映像を見ていると、街を歩いている人も人混みでもマスクなし、スポーツでは、満員のスタジアムでマスクなしで応援と、“脱マスク”が日常だ。日本も同じようにできないのだろうか。
「これはもう国によって“社会の受け止めの違い”です。メジャーリーグに行ってマスク外して応援するというような日常をどの程度取り戻したいか。
日本でも野球場に普通にお客さんが入っていますが、なるべく“マスクをして大声出さずに”スポーツ観戦を楽しみましょうということでやっているわけですよね」
脇田所長は、パンデミックを“どう受け止めるか”がポイントになるという。
「“被害抑制“という考え方があって、これを『ミティゲーション』と言いますが、“行動規制などはかけず、医療で受け止める”ということです。
そうなると感染者は増えますが、社会経済活動は抑制されず、普通に活動できます。ただ、当然のことながら医療への負担が大きいし、死亡者も増える。
イギリスも当初『ミティゲーション』でいこうとしましたが、それをすぐにやると感染者や医療費に莫大な被害が出る、ということで舵を切ってロックダウンに入った経緯があります」
その後、イギリスは今年2月にコロナ規制を全て撤廃し、現在は、「ミティゲーション」という形で社会活動している。
“行動規制”で医療で受け止められる程度に感染者数を抑制
日本でも2020年、“全く行動規制をしなかった場合”の死者数の想定が出された。
「よく記憶していると思いますが、圧倒的な感染者増加により相当の死亡者が出ますよというシミュレーションでした。これに対して、『実際そうならなかったじゃないか』という声も聞かれますが、何も対策をしなかったらそれだけの死者が出た可能性があったということです。
しかも、それだけの重症者の治療を日本の医療のキャパシティーで受け止められるかというと全く受け止められない。日本はロックダウンできない中で、何とか感染者数を抑えて、その間に医療のキャパシティーも増やし、受け止められる程度に抑えていきましょうという考え方でずっと来ているわけです」
脇田所長はこう続ける。
「今は政府からの規制による緊急事態宣言や重点措置のような行動規制ではなく、市民一人一人の自発的な感染対策によって流行をある程度抑えていくことが重要な状況です。
普通に生活できるし、スポーツ観戦やコンサートなどのイベントにも行けるけど、リスクや場面に応じてマスクを含めた基本的な感染対策をしましょう、というようなところが大事と感じます」
結局、日本の場合はまだ生活をする上で、ある程度の我慢が求められそうだ。
「感染力」は頭打ち、今後の進化は“免疫逃避”
オミクロン株も様々な変異株がでてきて、その度に感染力や重症化のリスクなどについて心配になるのだが、今後、コロナはどう進化していくのか。
「新型コロナは、感染力についてはもう頭打ちではないかという研究があります。今後は、ウイルスが“免疫を回避”していくような方向性に進化することが予想されます。
ただ、感染伝播力がある程度頭打ちになって、免疫逃避の方に向かって進化した場合、それが病原性にどう関わってくるのかはまだよくわからないです。
それでも、多くの人がワクチン接種や自然感染により免疫をつけることにより、重症化を抑えることができるので、見た目の重症度は下がっていくことも期待できます」
脇田所長によると、ウイルスは自ら増殖することができないため、必ず、他の細胞に感染して増えていくという。そう考えると、感染した人が全員死んでしまっては繁殖できない。そのため、ウイルス自身が生き延びるために弱毒化していくことがある。
しかし、新型コロナの場合では、そもそも感染者がほとんど亡くなるわけではなく、現状ではさらに軽症が多くなり、中等症、重症、亡くなる人もいるなど患者の症状のばらつきを考えると、ウイルスの本質的な病原性が落ちる方向に進化するかどうかは予想しにくいという。
“ゼロコロナ”は難しい
コロナが日本で確認されてからまもなく3年になるが、いまだにコロナに振り回される日々が続いている。日本の感染症研究の最前線にいる脇田所長は、ここまで長引くと想定していたのだろうか。
「ほとんどが事前に想定できないことばかりですが、ここまでの大規模な流行を予想していませんでした。
また、コロナの感染流行が始まってからの数カ月間、ゼロコロナは可能か議論をしていましたが、封じ込めは相当難しいだろうという考えでした」
それは、このコロナの“特性”にあるという。
「感染症の特性として、SARS(2003年に流行)と比べるとよくわかりますが、SARSの場合は感染するとほとんどの感染者が重症肺炎を起こすか死亡してしまう。
しかも、感染性を持つのが発症してからです。つまり、そういう症状がある人を見つけて検査して診断し、隔離することでその先の感染を止められます。つまり封じ込めができる。
一方で、新型コロナの場合は無症状のままで感染性がある人がかなりいる。また、発症する人も発症する前から感染性となるので、発症した人を検査で陽性で見つけて隔離するだけでは封じ込めはできないということです。
さらに、市中で無作為に検査することによって陽性者をみつけて隔離することで流行を止めるためには、全住民に毎週1~2回の頻度で検査が必要との研究もありました」
こういったことから、当初からゼロコロナは難しいと判断し、最初の緊急事態宣言の時も“いつ解除するか”が議論になったという。
「もっと徹底的に感染者がゼロになるまで封じ込めてから解除するべきだという意見もありましたが、そもそもゼロにできない感染症だから、一定程度のところで解除していくべきではないかということになりました」
薬の開発は?
こうした中、期待されるのがコロナに効く“薬”だが、現在、どうなっているのだろうか。
「薬は今、重症化を防ぐ飲み薬と、注射薬があります。ただ、その対象は重症化しやすいリスクのある人となっているので、いわゆるインフルのタミフルのような薬が欲しいねっていうのは元々お医者さんも言っているし、そういった飲み薬が出てくれば状況は変わるんじゃないかとも言われている。
製薬メーカーも一生懸命努力していて、開発は進めているので、有効性がしっかり確認されれば、使われるようになります」
しかし、ワクチンに比べて、どうしても時間を要しているように見えてしまう。
「薬の開発も始まってから3年、ちゃんと進んでいます。最初、抗体薬がデルタ株の時は良く使われていたんですけど、それもかなり早く開発されて、一定の効果がありました。
ところが、コロナの変異が進んでなかなか効果がなくなってきた。ですので、薬の開発は決して遅いわけではく、これからも有効性が認められればそういった薬が出てくるということです」
コロナはいつ終わる?
最後に、脇田所長に今回一番知りたかった質問を直球でーー。
「コロナはいつ終わるんでしょうか?」
「ごめんなさい、正直言うと“簡単には終わらない”と思います。つまりゼロコロナになるのかという話と同じであれば、なかなか無くすことは難しいです。
現状はワクチンや自然感染による基礎的な免疫を社会全体で高めている段階と思います。
その上で、今後新型コロナウイルス感染症がどう変化するか。
今後、新型コロナウイルスが果たして風邪のウイルスのようになっていくのか、それとももう少し危ないウイルスであり続けるのか、これもまだわからない状況なんですが、やはり数年から十年単位で見ていく話なのかと今、専門家の間では議論されています」
ということは、うまく付き合っていくしかないのか。
「新型コロナウイルスの今後の進化の方向性は“免疫逃避”の可能性が高いと見られていますが、これは季節性インフルエンザウイルスの進化に近い変化と思います。
インフルも毎年変異しますがワクチンもそれに合わせて変えていて、皆さん広く免疫を持っている。そしてまた、ウイルスもその免疫から逃れるような形で進化していく。新しく感染できる人を探して感染していくという形なので、新型コロナウイルスもそういった形での進化に今後なっていく可能性が考えられます。
年に2回流行するのか、それとも季節関係なく感染の増減を繰り返していくのか。『いつ終わるのか?』と聞かれても、『まだ終わりは見通せないですが、落ち着きの兆しは見えてきた』というところです」
コロナが始まって約3年、今回、脇田所長に話を聞いて気が付いたことがある。それはワクチン接種も含め、一人一人の意識や行動が平穏な日常を取り戻すことに繋がるということだ。
今年の冬はコロナとインフルの同時流行も懸念されるが、自分自身に何ができるのか社会のためにもこれからしっかりと考え、意識していきたい。