民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領の“代理戦争”の様相となったアメリカ中間選挙。下院は共和党優勢で、上院は大接戦、バイデン氏にとっては残りの大統領任期で手足が縛られるのではという見方が事前に広がっていたが、一夜明けた9日の米メディアは「赤い(共和党の)波は起きていない」、「トランプ氏にとっては悪い夜だった」という見出しも踊る。

意外にも民主党が善戦した上下両院議員選挙だけでなく、同時に行われた州知事選にも注目すると、トランプ氏の次なるライバルが見えてきた。

「ミニ・トランプ」にして最大のライバル・フロリダ州知事が再選

フロリダ州現職知事、ロン・デサンティス知事は、開票直後に早々と当選を確実にした。

勝利宣言をするロン・デサンティス氏 隣にいるのは妻のケイシーさん
勝利宣言をするロン・デサンティス氏 隣にいるのは妻のケイシーさん
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デサンティス知事は44歳と若いうえに、かなりの保守派で、人工妊娠中絶を制限したり、「学校で同性愛などについて話題にしてはいけない(通称“ゲイと言ってはいけない法律”)」を推進したなどから、「LGBTQの尊厳を損なう政治家だ」と批判も上がった。

トム・クルーズ主演の大ヒット映画「トップガン」のパロディ動画を作成し主人公になりきってみたり、自分のテーマソングを歌手に歌わせて演説に臨んだりと、オリジナルの自己演出方法には驚く。

ただ、リベラル派のメディアを敵視する方法はトランプ氏に似ていて、「ミニ・トランプ」とも呼ばれていた。4年前の知事選挙時はトランプ氏の応援を受けていたが、今回は少し様相が違っている。

“もじったあだ名”で宣戦布告

本人は明言を避けているが、「2024年の大統領候補」の若手ホープとして、全国の共和党支持者から期待を背負いはじめた。するとトランプ氏は今回の中間選挙で、デサンティス氏と距離を置くような発言を始めた。選挙戦終盤、ペンシルベニア州での演説で、デサンティス知事のことを「デサンクティモニアス」と、名前もじり揶揄したのだ。

ペンシルベニア州での演説(5日)
ペンシルベニア州での演説(5日)

「サンクティモニアス」というのは「聖人ぶった」とか「偽善者ぶった」という意味だ。トランプ氏はこれまでも「スリーピー・ジョー(眠そうなジョー・バイデン大統領)」、「クロキッド・ヒラリー(いんちきヒラリー・クリントン元国務長官)」など、あだ名をつけてからかうのを“得意技”としてきた。まるで小学校の教室でのいじめっ子のようなネーミングであるが、トランプ支持者で埋め尽くされた演説会場は、この新たな“もじり・あだ名”にウケているようだった。具体的な悪口は言うことはなかったものの、これで、トランプ氏が、デサンティス氏を「意識」していることが明らかになった。

さらに、過去には、「デサンティス知事が自分と対決したら」という仮定に対し、「ほかの人と同じように自分が勝つだろうし、相手はドロップアウトするだろう」と話していたが、この「あだ名事件」で、宣戦布告をしたものだと感じた。

獲得票数で“マウンティング”

さらに極めつけは、今回の中間選挙翌日のSNSへの投稿内容だ。(ちなみにトランプ氏は、ツイッター、フェイスブックなどが凍結されているため「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」というSNSを使って発信している)

トランプ氏が投稿したコメント(Truth Socialより)
トランプ氏が投稿したコメント(Truth Socialより)

「フロリダの選挙戦はとてもうまく行った。2020年の大統領選で私は、デサンティス知事が今年獲得した票より110万も多く獲得している。私は570万票、デサンティス氏は460万票だったよね?」

言うまでもないが、中間選挙と大統領選挙は投票率が違う。2020年の大統領選挙では投票率が77%、今回の中間選挙では54%であり、獲得票数では比較にならない。それにもかかわらず、「得票数」をアピールするほど、トランプ氏は危機感を募らせているように感じる。

さらに、無党派層が多いマイアミ近郊の地域では、2020年にはバイデン氏がトランプ氏に勝っていたのだが、今回は同地域でデサンティス氏が共和党候補に勝利した。CNNは、「無党派層に勝利できるのはトランプ氏ではなく自分だ、というメッセージを発信した」と評している。その意味でも、トランプ氏とって「悪い夜」だったというのだ。

重大発表の場所が「マール・ア・ラーゴ」の意味

かつてはニューヨークが地元であったトランプ氏は、現在は「マール・ア・ラーゴ」の邸宅があるフロリダ州の住民であり、州知事選挙はデサンティス氏に投票したと述べている(まあ、これは共和党員であるから仕方あるまい)。

マール・ア・ラーゴで開かれたトランプ氏主催“中間選挙の結果を見る会”の会場(8日)
マール・ア・ラーゴで開かれたトランプ氏主催“中間選挙の結果を見る会”の会場(8日)

ただトランプ氏は、11月15日にも“重大発表”を行う、と明らかにした。それは2024年の大統領選挙出馬の意向発表であるとの見方が強まっていて、その発表場所は「美しいマール・ア・ラーゴ」で行うという。これは、地元であるという以上に、「自分はフロリダが地元だ」と発信したい、デサンティス氏をけん制したいというメッセージが含まれているように感じるのは私だけだろうか。

ニューヨーク市・スタテンアイランドの投票所(8日)
ニューヨーク市・スタテンアイランドの投票所(8日)

今回の中間選挙当日の午前中、私はニューヨークの投票所で取材をした。数少ない共和党支持者の男性はこう答えた。

「次はトランプかデサンティスだね。勝てる候補ならどっちでもいい。あ、でもやっぱり、トランプが次で、デサンティスはその次(2028年)かな」

共和党支持者のこの見方は、上下院で伸び悩んだ結果を受けて、流れが変わるのだろうか。トランプ氏が目の敵にするのは、バイデン大統領ではなく、デサンティス氏になるのか、目が離せない。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川真理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。