11月4日から6日にかけて東日本選手権が行われた。

シニア男子は大島光翔、シニア女子は江川マリア、ジュニア男子は中田璃士、ジュニア女子は中井亜美が優勝した。

12月21日から開催される全日本選手権(大阪・東和薬品RACTABドーム)。その切符を手にした選手たちを順番に紹介。シニア男女、ジュニア男女、ジュニアペアの順に触れていく。

シニア男子

シニア男子は上位4名が全日本出場を手にした。

ファンの間で“スタァ”と呼ばれる大島光翔が、東日本で初優勝。

ショートで衣装の留め具が外れるアクシデントが起きた。最初のジャンプの時に気づいていたようだが、これがきっかけで緊張が解け、逆に冷静になれたという。ジャンプをすべて決め、75.02点の自己ベストを更新。最高の表情で1位スタートを切った。

東日本選手権で初優勝した大島光翔
東日本選手権で初優勝した大島光翔
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完璧を求めたフリーでは、組み込み続けた4回転ルッツを封印。しかし、ジャンプがほぼ決まらず思い描いた演技とはかけ離れてしまったようで、自身の不甲斐なさに演技後に号泣していた。

大島にとって、優勝という結果は喜ばしいが、やはり演技の悔しさが勝っていたようだ。思うような演技ができなかったフリーは、緊張が崩れたことが要因の一つで、「普段の練習が足りていない」と、全日本までは「練習を積み重ねて、自信を持って挑みたい」と話した。

3度目となる全日本では12位以内に入り、強化選手に選ばれることが目標だ。ショートは後半グループでの演技が決定しているため、「テレビで映してもらうことは、自分をアピールするチャンスなので、120%自分らしくいい演技をしたい」と意気込んだ。

全日本で「トリプルアクセルの成功」を目標に掲げる長谷川一輝
全日本で「トリプルアクセルの成功」を目標に掲げる長谷川一輝

2位は、東京理科大学3年生の長谷川一輝。トリプルアクセルの調子が悪く、今回は挑戦的な部分を避け、それ以外の要素で勝負した。点数が上がっているため、スケーティングなどの成長を感じたという。

根性で跳んだジャンプも決まり、失敗してもリカバリーできたと満足していた。長谷川は自身が好調な理由を、一人暮らしで自炊がうまくいっているからだと分析。

うまく生活ができているため、練習にも身が入っていると振り返る。論理立てて、次につなげる思考を持つ理系スケーターは、何事も“きちんと”したい性格のようだ。

長谷川の全日本での目標は、トリプルアクセルを決めること。少しでも上位に食らいつきたいと意欲を見せた。

演技後カメラに向かって喜びを爆発させる山隈太一朗
演技後カメラに向かって喜びを爆発させる山隈太一朗

今季ラストイヤーの山隈太一朗が3位に。全日本の出場枠が4つしかないことに、「人生で一番緊張した東日本だった」と振り返る。

今シーズンのショートは、手応えを感じているという山隈。トリプルアクセルを完璧に決めた後の3回転ルッツ+3回転トゥループでバランスを崩したところから、セカンドジャンプをトリプルでできたのは、日々の練習の成果だと語る。

「自分を褒めたいショートだった」と評価し、満足した山隈の表情が印象的だ。演技後もカメラに向かってピースをするなど、嬉しさがにじみ出ていた。

フリーではショートが良かった分、怖さが出てしまったようだ。パフォーマンスに集中しつつ、心のどこかに不安があり、前向きな感情がなかったのが体の硬さにつながったという。

最後の全日本、もう“失うものは何もない”と話す山隈の目標は、自身のスケート人生を完成させることだ。

「自分史上一番気に入っているショートとフリーで、みなさんに“これが僕だよ”と見せられるように頑張りたい」

シングルとして最初で最後の全日本の出場を決めた西山真瑚
シングルとして最初で最後の全日本の出場を決めた西山真瑚

来季からアイスダンス一本で勝負するため、今年がシングルラストイヤーの西山真瑚が4位に。シングルとしては最初で最後の出場権を手にした。

ショートは「全くタイミングが合わなかった」と緊張から焦ってしまった西山は、ジャンプがすべて決まらず、まさかの10位スタートに。それでも「スケーティングでここまで評価してもらったことは良かった」と前を向く。

恐怖と一日戦い挑んだフリーでは、何とかまとめきり「自分のできることは出せた」と語る。演技構成点が唯一の70点台で、東西選手権を見てもトップの点数を出し、西山はフリートップの順位で全日本の切符をつかんだ。

ショートでどん底に落ちたが、フリーで自身の殻を破り、成長できた大会だったと振り返る。全日本までの期間で「楽にジャンプを跳べるようにしたい」と話した。

アイスダンスで磨いた表現力が得点として評価されたことが、自信になったとも言う。全日本ではシングルで出られることを喜び、ご褒美と思って楽しむことが目標だという。

シニア女子

シニア女子は7名が全日本へ進出。

今季シニアデビューの江川マリアが初優勝で、全日本初出場を決めた。

東日本選手権初優勝の江川マリアは全日本発出場も決める
東日本選手権初優勝の江川マリアは全日本発出場も決める

ショートは大会直前で3回転ルッツ+3回転トゥループの調子が悪く、3回転トゥループ+3回転トゥループに変更したものの、転倒。ここ最近で「一番悔しい」と語る演技だったが、磨いてきたジャンプ以外の要素が評価された。

フリーでは東京選手権のときと同様、後半で乱れてしまったため、体力面にも課題があると江川は振り返る。

キスアンドクライ後には前所属の石原美和コーチが発破をかける場面も見受けられた。初出場する全日本は「どういう空気か全く想像がつかない。自分の中で(今季の)集大成のつもりで調整して、悔いのない演技をしたい。12位以内で強化選手に入ることが目標だが、結果は後から来るので、自分の演技ができるように頑張りたい」と話した。

全日本でリベンジを誓う青木祐奈
全日本でリベンジを誓う青木祐奈

2位は青木祐奈。ショートでは、練習できれいに決めていた3回転ルッツ+3回転ループが、降りた際に迷ってしまったようで無理にトリプルにして転倒。その後はまとめたが、成功の確率が上がってきていただけに「悔しい」と振り返った。

フリーでは、練習であまりミスをしない2回転アクセルにミスがあり、焦りが出ていたが、その後しっかりとリカバリーし、フリートップの成績で全日本進出を決めた。

去年の全日本はフリーに進めなかったため、東日本でのいい結果を自信につなげて、リベンジしたいという。目標を「順位にこだわらず、ショートとフリーをノーミスでやれることが一番。現役生活が残り少ないので、やれることを精いっぱいやりたい」と話した。

ラストイヤーに全日本進出を決めた佐藤伊吹
ラストイヤーに全日本進出を決めた佐藤伊吹

今季ラストイヤーの佐藤伊吹が3位に。ショートでは「やってきたことが出せなかった」と悔しさのあまり涙を流していた。

ショートは全日本出場ラインである7位スタート。プレッシャーの中で、フリーでは調子を取り戻し、「これまでの練習を信じてやれた」と演技後にガッツポーズも見せた。

「ここは絶対に外せないという気持ちが強く、毎年ここまで踏ん張ってきたのが良かった」と振り返る。

最後の全日本となるが、佐藤は「最後という思いを強く持ちすぎず、去年よかった自分を超えること」を目標に掲げた。

「やるしかない」と強い気持ちで全日本の切符を手にした松原星
「やるしかない」と強い気持ちで全日本の切符を手にした松原星

同じく今季ラストイヤーの松原星(あかり)が4位に。

東京選手権終わりで捻挫してしまい、部分断裂と診断される。大会1週間前にジャンプを再開するが、まだ完治していない状態だったため、フリップとルッツを回避して今大会に挑んだ。

「やるしかない」という強い気持ちで全日本の切符をつかんだ松原。全日本では、フリーに進みたいと意気込んだ。

全日本進出を決めキスアンドクライで涙を流す吉岡詩果
全日本進出を決めキスアンドクライで涙を流す吉岡詩果

5位は吉岡詩果(しいか)。

去年はケガの影響で全日本を逃し、悔し涙を流した。演技には納得いかない部分も残っていたようだが、「全日本に絶対に出たい」という吉岡の強い気持ちが、点数発表後の嬉し涙につながった。

いろいろなことを乗り越えてつかんだ全日本は、「自分の中でご褒美なので、気持ちよく演技ができたら」と話した。

全日本は「ベストの演技をしたい」と語る本田真凜
全日本は「ベストの演技をしたい」と語る本田真凜

6位は本田真凜。

ショートでは急遽コンビネーションジャンプのセカンドジャンプを2回転に変更。大きなミスなくまとめきり、フリーでもリカバリーできていた。シーズンオフ中のいろいろな経験で他競技の選手との関わりを持ち、成長を実感したという。

全日本では「楽しく、自分のできる最高の構成で挑み、今年こそ自分のベストの演技をしたい」と目標を掲げた。

全日本進出を決め笑顔でインタビューに応じる三枝知香子
全日本進出を決め笑顔でインタビューに応じる三枝知香子

今季シニアデビューの三枝(さいぐさ)知香子が7位に。去年の全日本ジュニアが大学受験と重なり、周囲のサポートを受け、駆け込みで演技が出来た“持っている選手”だ。

今大会でも全日本圏外のショート9位発進ながらも、フリー5位の逆転で全日本の切符を手にした。「全日本では昨年、お世話になった西日本の先生にもお会いできると思うので、少しでも成長した姿を見せたい」と語った。

ジュニア男子

シードの吉岡希に加えて、上位9名が11月25日開幕の全日本ジュニアへ進出を決めた。

吉岡は東日本にエントリーしていたが、欠場。今季ジュニアデビューの中田璃士(りお)が優勝した。

ジュニアGPでは周りの選手のレベルの高さに刺激を受けたと話し、ショート・フリー共にトリプルアクセルを決められたことが嬉しく、自信につながったという。

久しぶりの国内大会となった東日本で、ショートでは高さとキレのあるトリプルアクセルを完璧に決め、ガッツポーズを見せた。後半のジャンプにミスが出るも唯一の70点台でショート首位に。

全日本ジュニアで「3位以内」を目標に掲げる中田璃士
全日本ジュニアで「3位以内」を目標に掲げる中田璃士

フリーではジャンプのミスもあり、「納得できない演技だった」と振り返った。全日本ジュニアまでの期間で、試合直前に痛めてしまった腰と、自分の演技をいい状態にしていきたいと話した。

去年の全日本ではショートでいい演技ができていたが、フリーではミスが続いてしまい、悔し涙を流した中田。あれから1年が経ち、MFアカデミーに来たことでジャンプの質も向上。全日本ジュニアでは、自己ベストを更新して3位以内が目標だという。

ジュニア男子で表彰台に上った菊地竜生、中田璃士、周藤集(左から)
ジュニア男子で表彰台に上った菊地竜生、中田璃士、周藤集(左から)

2位は菊地竜生。オフシーズンに右肩を手術したことで「落ちるところまで落ち、あとは上がっていくだけ」と前を向く菊地の調子は上がってきている。

自らも得意と話す、トリプルアクセルはショート・フリー共にすべて成功。それでも菊地は、ショート70点、フリー120点を目指しているため、今回の演技も納得していないという。

課題はスピンとスケーティングの質だと分析。全日本ジュニアでは、最高潮で持っていけるようにモチベーションを高め、全日本出場を手にしたいと語る。

3位は周藤(すとう)集。ショートの冒頭、トリプルアクセルで転倒し、コンビネーションジャンプでもミスが出てしまった。あとがない中で跳んだ3回転ループは今までで一番いいジャンプだったと振り返る。

フリーでは、トリプルアクセルからの3連続ジャンプで3本目のサルコウが「体が動かなかった。経験値が足りていない」と分析する。それでもコレオなどのジャンプ以外の要素で磨きがかかり、演技構成点は優勝した中田を抑えてトップに。

苦しい試合が続いているが、全日本ジュニアではジャンプのミスなく、表現面をさらに磨いていきたいと意欲を見せた。目標は表彰台に上り、全日本に行くことだ。

ジュニア女子

シードの千葉百音に加えて、上位12名が全日本ジュニアへ進出する。

中井亜美が2位に10点以上の差をつけて優勝。ジュニアGP2戦連続の表彰台という経験は、海外選手のすべてが自分と異なり、学ぶことが多かったと振り返る。

久しぶりの国内大会は、中井にとっていつも以上に演技するのが楽しかったようだ。

全日本ジュニアで表彰台を目指す中井亜美
全日本ジュニアで表彰台を目指す中井亜美

ショートはノーミスでまとめ2位発進。フリーでは安定感が出てきた冒頭のトリプルアクセルを成功させるも、コンビネーションジャンプの転倒が悔しいと語る。しかし、圧倒的な技術点でフリー首位に立った。

それでも全体的に「スピードが足りない。ジャンプの安定感が欠けた」と課題を挙げるなど、貪欲さを見せた。全日本ジュニアではノーミスでショート・フリーをまとめ、表彰台に立つのが目標だ。トリプルアクセルを2本組み込む構成で挑むという。

ジュニア女子で表彰台に上った奥野友莉菜、中井亜美、髙木謠(左から)
ジュニア女子で表彰台に上った奥野友莉菜、中井亜美、髙木謠(左から)

奥野友莉菜が2年連続の2位に。去年は2位という順位に喜んでいたが、今年は「悔しい2位」とこぼした。

ショートはノーミスの演技でまとめ、こだわっていた3回転ルッツ+3回転トゥループは、6分間練習の状態を見てセカンドジャンプを2回転に変更。それでも点数は思っていた以上に出たと満足していた。

フリーでは試合前にコーチと笑い合うなど、リラックスしていた。こだわりの3回転ルッツ+3回転トゥループは回転不足とされながらも、着氷。

演技構成点は優勝した中井を抑えてトップに。後半のスタミナが問題と課題を挙げ、練習をしていきたいと意気込んだ。全日本ジュニアでは、いい演技を心がけ、全日本推薦が目標だ。

その奥野と同じ日にスケートを始め、最初にできた“スケート友達”だという髙木謠が3位に。ショートは最終滑走の登場で緊張していたようだが、これまで出せなかった60点台の壁を越えたことで、手応えを感じていた。

フリーでも苦手なサルコウが跳べなかったことに、悔しそうにしていたが、「今できることはできた」とうなずく。磨いたスケーティングも評価され、自己ベストを更新。

全日本ジュニアでは「順位を気にせず、自分ができるベストを出して、全日本へ行きたい」と話した。同じ所属の先輩であり、先日のGPシリーズで優勝した渡辺倫果から演技直前に「頑張れよ!根性でいけよ!」と激励メッセージが来たことで、頑張ることができたと渡辺に感謝した。

シードの千葉百音が4位に。調子がなかなか上がらない中でもすべてを決め、ショートを首位発進。フリーでは大技を回避し、プログラム全体で勝負に挑んだ。しかしジュニアGPでも経験したフリーのコンディション調整がうまく行かず、万全な状態で臨むことはできなかった。

全日本ジュニアでは「ショート・フリー共に納得のいく演技をしたい」と話し、「順位を気にすると内容が追いつかないので意識しないようにする」と語った。

ジュニアペア

ジュニアペアではエントリーした1組、村上遥奈・森口澄士組が優勝し、全日本ジュニアへ進出。

期待の村上・森口組が国内戦デビューとなった今大会、結成1年目、ジュニアGPポーランド大会で3位表彰台に上るなど、成長著しい“はるすみ”ペア。

ジュニアペアで優勝した村上遥奈・森口澄士組
ジュニアペアで優勝した村上遥奈・森口澄士組

夏にカナダで一緒に練習した“りくりゅう”ペアのGPシリーズ初優勝に刺激を受け、ショートは自己ベストを更新。フリーではペアのトップ選手でも組み込むことのない大技、3連続ジャンプを成功させる。

「リフトとデススパイラルの練習をもっとしないといけない」と課題を挙げながらも、フリーも93.10点の自己ベストを更新。次の全日本ジュニアで、村上はシングル競技もあるため、二刀流で挑むことになる。

2019年にデビューした“りくりゅう”ペアは、同じ東日本でフリー95.71点を出した。今のりくりゅうペアの活躍のように、“はるすみ”の今後の成長に目が離せない。

全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html

シニア男女、ジュニア男女、アイスダンス、ジュニアペア順位

シニア男子
1 大島 光翔(明治大学)198.08点
2 長谷川 一輝(東京理科大学)191.17点
3 山隈 太一朗(明治大学)184.40点
4 西山 真瑚(早稲田大学)177.12点

シニア女子
1 江川 マリア(明治大学)175.46点
2 青木 祐奈(日本大学)172.62点
3 佐藤 伊吹(明治大学)157.79点
4 松原 星(明治大学)154.49点
5 吉岡 詩果(山梨学院大学)153.15点
6 本田 真凜(JAL)148.97点
7 三枝 知香子(日本大学)147.10点

ジュニア男子
1 中田 璃士(MFアカデミー)187.70点
2 菊地 竜生(目黒日本大学高等学校)176.50点
3 周藤 集(MFアカデミー)169.32点
4 蛯原 大弥(明治神宮外苑FSC)160.80点
5 木村 智貴(西武東伏見FSC)153.83点
6 北村 凌大(日本大学)153.21点
7 本田 大翔(東北高校)152.51点
8 小田垣 櫻(目黒日本大学高等学校)148.28点
9 鈴木 零偉(法政大学)142.77点

ジュニア女子
1 中井 亜美(MFアカデミー)185.86点
2 奥野 友莉菜(駒場学園高校)173.66点
3 髙木 謠(MFアカデミー)168.71点
4 千葉 百音(東北高校)167.43点
5 穂積 乃愛(駒場学園高校)161.45点
6 田邊 桜香(星槎国際横浜)149.13点
7 今関 友梨香(MFアカデミー)138.87点
8 中尾 歩(埼玉アイスアリーナFC)138.03点
9 瀬川 穂乃(仙台FSC)130.90点
10 長岡 柚奈(藤女子)129.87点
11 入江 美友(Mエイトクラブ)127.25点
12 藤沼 聖空(埼玉アイスアリーナFC)126.13点
13 花田 実優(宇都宮フィギュアC)125.05点

ジュニアペア
1 村上 遥奈・森口 澄士(木下アカデミー)142.07点

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班