しじみのすまし汁やしじみの味噌汁を作る時、しじみを水に入れて熱すると、汁が白くにごる。この理由を考えたことがあるだろうか。

実はこれまで分かっていなかったのだが、島根大学の研究グループが解明したと発表した。

島根大学生物資源科学部生命科学科の秋広高志助教らの研究グループが、白くにごる原因となる物質が、タンパク質の「トロポミオシン」であることを解明。研究の成果は、イギリスの科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されている。

しじみを入れて熱した後、白く濁った水(提供:島根大学 秋広高志助教)
しじみを入れて熱した後、白く濁った水(提供:島根大学 秋広高志助教)
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この「トロポミオシン」は、筋肉を構成するミオシンを構造的に束ねる役割を持ったタンパク質で、研究グループが味を調べたところ、“美味しい味はしなかった”としている。 また、一般的にタンパク質は熱に弱いが、トロポミオシンは耐熱性を持っていることも分かった。

さらに、研究グループは、しじみ以外の貝についても調査。はまぐり、赤貝、ホンビノス貝、ホタテ、牡蠣などでも白くにごることが分かり、その原因物質が「トロポミオシン」であることを確認した。

トロポミオシンの発生に意味はない

この「トロポミオシン」は“美味しい味はしなかった”ということだが、どのような味だったのだろうか? また、今回の研究結果はどのようなことに生かされるのか? 島根大学生物資源科学部 秋広高志助教に話を聞いた。


――このような研究を行った理由は?

島根大学では、地域の資源の付加価値化などの研究を積極的に行っています。私は、日本で最も水揚げ量の高い、しじみに注目しました。料理した経験がありませんでしたが、料理してみると、白くにごることがわかりました。

私は、植物の研究者ですので、研究室の学生にこの話をしたところ、安井凌くんという学生が興味を持ってくれて、研究することになりました。研究を始める段階では、旨味成分が白く見えているのであれば、面白いなと思っていました。


――しじみを水に入れて熱すると「トロポミオシン」が発生。これはどんな意味がある?

意味は全くないと思います。「トロポミオシン」はもともと、しじみの中にあります。熱をかけたことで作られたわけではないです。タンパク質は一般的に熱に弱く、熱がかかると変性してしまいます。生卵がゆで卵になるのと同じです。

たまたま、「トロポミオシン」は熱に強かったために、変性せずに、水に浮遊したのだと思います。生物学的な意味はなく、偶然と考えて良いと思います。

しじみを水に入れて熱している状態(提供:島根大学 秋広高志助教)
しじみを水に入れて熱している状態(提供:島根大学 秋広高志助教)

――「トロポミオシン」は熱に強い特徴を持っている。これは何か意味がある?

意味はないと思います。たまたま、熱に強かったというのが現時点での見解です。しじみが生きていくなかで、熱が加わることはないですので、耐熱性を持つ必要はありません。

ただ、ミオシンを支えるための構造をとるために、偏ったアミノ酸を使ってつくられているために、耐熱性になったものと考えられますが、詳しいことはまだわかっていません。

「苦く酸っぱい感じで正直まずかったです」

――「トロポミオシン」は「筋肉を構成するミオシンを構造的に束ねる役割を持ったタンパク質」。もう少し分かりやすく説明すると?

ミオシンというタンパク質を支える働きであると考えられています。ミオシン単独では強度がでないので、そのミオシンと結合して、より強い構造にしているタンパク質であると考えられます。


――「トロポミオシン」は、私たちに馴染みのあるものでいうと、どのようなものに含まれていて、どのような役割を果たしている?

「トロポミオシン」は、地球上の生物すべてが持っている重要なタンパク質です。もちろん、私たち、ヒトにも含まれています。筋肉に加えて、細胞骨格と呼ばれる、細胞内の骨の強度を出すのにも使われています。

電子顕微鏡で確認された“塊”(提供:島根大学 秋広高志助教)
電子顕微鏡で確認された“塊”(提供:島根大学 秋広高志助教)

――美味しい味はしなかったということだが、どのような味だった?

苦く酸っぱい感じでした。正直、まずかったです。

“美味しそうに見えるスープ”を作ることも

――しじみ以外の貝でも白くにごり、原因物質がトロポミオシンであることを確認。こちらはどのように受け止めればよい?

今のところ、調べた貝すべてが白くにごっているので、ほとんどすべての貝が白くにごるものと考えています。


――今回の研究結果はどのようなことに生かされる?

「トロポミオシン」自体は、美味しさには関与していないことが分かりました。しかし、しじみ汁の白いにごりを見ると、美味しいスープであると人間は認識しますので、舌だけでなく、目でも旨味を感じているのです。

例えば、とんこつラーメンが透明だったら、美味しそうと感じるでしょうか。そこで、今後は“透明なスープ”に、しじみの「トロポミオシン」を加えて、にごらせることで、“美味しそうに見えるスープ”を作ることができるのではないかと考えております。

また、「トロポミオシン」は熱にとても強いタンパク質です。薬を作ったりする場合に、耐熱性のタンパク質が必要な場合があります。長い間、耐熱性タンパク質の合成方法について研究がされていますが、新たに「トロポミオシン」を加えて、耐熱性タンパク質の開発の基礎的知見を得られるのではないかと考えられます。

しじみのすまし汁(提供:島根大学 秋広高志助教)
しじみのすまし汁(提供:島根大学 秋広高志助教)

しじみの汁が白くにごる原因である物質「トロポミオシン」。意外にも美味しさには関与してなかったが、白いにごりがあると美味しそうと感じてしまう人も多いだろう。この物質を使った、「美味しそうに見え、実際に美味しいスープ」が開発されることを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。