10月10日に閉幕した全国和牛能力共進会、通称「全共」。

約50年ぶりとなる地元開催で、鹿児島は9部門中6部門で首席を獲得。最高の栄誉とされる内閣総理大臣賞も受賞し、事実上の「和牛日本一」の栄冠に輝いた。

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その圧倒的な強さはどこから来るのか。秘密に迫る。

種牛として活躍できるのはわずか4頭前後

宮崎に近い曽於市の鹿児島県肉用牛改良研究所。ここは種牛の能力を調べ、その優れた遺伝子を鹿児島県内の和牛生産農家に分配する役割を担っている。

鹿児島県内で毎年5万頭生産されるという雄牛。そのうち、ここで種牛として活躍できるのはわずか4頭前後だという。

鹿児島県和牛改良研究所 西浩二室長:
まず、ここに入ってくる時点で「一握り」。さらにその中から振り落とす

今回の全共の若オス部門では、白浜喜(しらはまよし)が最高賞にあたる首席を取った。

鹿児島県和牛改良研究所 西浩二室長:
あの瞬間は「やった!取ってくれた!」という気持ち

過去大会も含めて、全共で鹿児島が多くの首席を獲得してきた若オス部門。前回、2017年の宮城大会でも金華勝(かねはなかつ)が首席となった。

田中慎介記者:
宮城全共で首席を取った金華勝です。首回りの肉が太くなり、ものすごい貫禄です

成長し、首回りの肉が太くなった金華勝
成長し、首回りの肉が太くなった金華勝

種牛として成長を続ける金華勝。市場の評価も高いという。

鹿児島県和牛改良研究所 西浩二室長:
今後の鹿児島黒牛を担ってくれる牛になるんじゃないかと思う

和牛生産の礎ともいえる優秀な種牛の存在が、鹿児島を支えている。

30年前から取り組むデータ分析

サシに象徴される枝肉の向上も進んでいる。今回の全共では、枝肉を審査する部門の1つで鹿児島は首席を獲得した。

高い評価を得たポイントは何だったのか、専門家はこう語る。

全国和牛登録協会鹿児島県支部 情報分析課 今村清人課長:
ロース芯といわれるところがきれいで脂肪交雑(脂肪のサシ)も細かく入って、いわゆる「サシが入っている」枝肉

霜降りの度合いを示す脂肪交雑も含めて高い評価を得た。肉質向上のために、鹿児島がほかの県に先がけて取り組んだのがデータ分析だ。

肉の量や質は、オス牛からの遺伝などで決まる。あるオス牛から生産された子牛の肉質や肉の量を、鹿児島では約30年前から数値化している。

今では多くの県で行われている手法だが、今回、鹿児島チームを統括した坂元信一さんは、和牛の生産頭数日本一を誇る鹿児島の強みを話す。

全国和牛登録協会県支部 坂元信一副支部長:
100件のデータでの推測と100万件のデータでの推測では、正確性、正確度で大きな差が出る

長崎全共で“敗北” 調教技術を磨く

坂元さんは鹿児島躍進のきっかけをこう語る。

全国和牛登録協会県支部 坂元信一副支部長:
長崎が大きなターニングポイントになった

2012年に長崎で開かれた全共。実は、この大会で鹿児島が獲得した首席はわずか1部門のみ。ライバルの宮崎に大きく差をつけられた。

全国和牛登録協会県支部 坂元信一副支部長:
長崎全共の反省として、審査会場に牛が立った時に動き回らないようにしないといけない。その辺のことを考えたら調教が必要

牛の立ち姿も大きな評価ポイント
牛の立ち姿も大きな評価ポイント

牛の立ち姿などが大きな評価ポイントになる全共。坂元さんは牛の調教で国内屈指の技術を持つ岡山県の宮本弘さんを招き、講習会を開いた。

ロープ1本で牛を立たせる宮本さんの技術は、講習の参加者を驚かせるものだった。

ロープ1本で牛を立たせる優れた技術
ロープ1本で牛を立たせる優れた技術

Q. 鹿児島県全体の調教技術は、長崎全共の時と今では違う?

全国和牛登録協会県支部 坂元信一副支部長:
全く違うと言っていい。2017年の宮城全共、今回の鹿児島全共、大きく変わってきている

こちらは、今回の全共で内閣総理大臣賞を受賞した鹿児島の牛。前足と後ろ足をそろえ、スッと頭を上げる。

前足と後ろ足をそろえ、頭を上げる立ち姿 内閣総理大臣賞を受賞(2022年、鹿児島全共)
前足と後ろ足をそろえ、頭を上げる立ち姿 内閣総理大臣賞を受賞(2022年、鹿児島全共)

宮本さんの調教技術の一端は、鹿児島の和牛農家に受け継がれていた。

全共から約2週間後の10月22日、鹿児島市で開かれた和牛の特売会。通常価格の3割引で販売され、大勢の買い物客でにぎわっていた。

来店客:
もちろん(和牛日本一の)ニュースを見ました。神奈川から来たので、ぜひお土産に買って帰ります。鹿児島が認められているんだなとすごくうれしい。鹿児島の誇り

日本一の効果が徐々に現れているようだ。

伝統や技術、それに科学的なデータの蓄積で勝ち取った和牛日本一の称号。

これからも鹿児島の和牛の良さを国内外に広めていくために、そして次の全共でも日本一を取るために、鹿児島では関係者の努力が続けられる。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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