10月25日、衆院本会議で安倍晋三元首相の追悼演説を行った当日、野田佳彦元首相がBSフジLIVE「プライムニュース」に出演し、追悼演説に込めた思い、与野党のあるべき姿について語った。

伝えたかった“安倍晋三像”

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問
野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問
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反町理キャスター:
ものすごい拍手だった。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
議場の反応もとてもうれしかったが、実は終わった後に自民党総裁室に昭恵夫人をお訪ねした。私の今日の役目は演説だけではなく、演説原稿と議場に飾られていた花を夫人にお渡しするところまで。「主人も大変喜んでいると思います。原稿は仏壇に供えさせていただきます」と言っていただき、ようやく肩の荷が下りたようなほっとした気持ちになった。

新美有加キャスター:
今回の演説で最も伝えたかったことは。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
最初から最後まで全部、とても神経を使った。挫折を乗り越えてきたことからの優しさもあること。あるいは物事の決断において、強行採決のイメージがあるが、皇室典範特例法のように国益を考えて各党の意見を聞く、冷静な判断をするリアリストとしての側面。それが直接お会いして感じた安倍晋三像だったので、それが伝わるようにと。やはり国を背負って立つ責任感を強く感じる人だったと思う。

反町理キャスター:
野田さんが安倍さんを見ていて、ここは同じだ、ここは絶対相容れないといったことには何があったか。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
やはり政党が違うから、基本的に政治的な立場は違う。だが、国家を背負うことに対する責任感の重みをすごく感じていらっしゃる方だと私は強く思っていた。私も私なりにそういう政治家でありたいと思っており、もっとお互いにいろんなテーマについて闊達な議論をして、一致点を見つけ出していく作業をしたかった。

反町理キャスター:
それは与党であろうと野党であろうと一緒ですよね。総理だからということじゃなくて。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
そう。逆に今の政治では、ちょっと政党間の対立が激しく、それが国民の分断につながってしまう。時には一致点を見出す合意形成のための努力をもっとしなければいけないのではと思う。そんなことを感じながら原稿を書いた。

「一致点を見いだす政治を」

新美有加キャスター:
一致点を見出すという話。2012年の党首討論について、追悼演説では「最も鮮烈な印象を残すのは党首討論でした。私は議員定数と議員歳費の削減を条件に、衆議院の解散期日を明言しました。あなたの少し驚いたような表情。その後の丁々発止、それら一瞬、一瞬を決して忘れることができません」。これを受けた解散総選挙で民主党は政権を失い、その後の第2次安倍政権は歴代最長7年8カ月の長期政権に。それから10年。今の政治をどう見るか。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
当時はねじれ国会。党首討論では戦うことより、どう一致点を見出すかに心を砕いた。平場ではまとまらない議論を、党首同士で一挙に解決しようという思いでいつもやっていた。今はねじれ国会でもなく、与党が強すぎる。一致点を見出そうとする努力をせず、何となく一気呵成に物事を決めてしまう。丁寧さに欠ける。それは与党の責任だが、弱すぎる野党の責任でもある。一強多弱を克服し、もっと緊張感のある関係になれば、一致点を見出す政治が生まれてくる可能性がある。そこまで頑張っていきたい。

反町理キャスター(左)、野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問
反町理キャスター(左)、野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問

反町理キャスター:
多数派である与党が、かつてのように与野党の共通基盤、重なる部分をつくる努力をしていないと感じている?

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
強く感じます。特に最近ではやはり国葬。自分の人生観に基づいて私は出席した。ただプロセスには問題があった。各党が関与した形で協議を進め、総意を作るプロセスがなかった。国権の最高機関である国会を完全に無視して政府だけで決めるやり方は粗雑すぎ、拙速すぎた。吉田元総理の国葬では、あの大宰相の佐藤栄作総理が出席してくれと野党に頭を下げて回った。そういうことが全くなかった。ストレートには書けなかったが、そういう思いも込めて皇室典範特例法の経緯を書かせていただいた。

反町理キャスター:
一方、野党はどうか。安倍政権のころから対決的な姿勢を作る部分が多くなかったか。泉代表になっても、最初は提案型と言いながら参議院選挙が負ければ、また対決型に戻っているように見える。対決型か提案型か、どちらを目指すべきなのか。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
どちらも必要。二者択一ではない。野党は政権をチェックする役で、政府の怠慢やミスは厳しく批判するのが役割。国民のために必要な機能。一方、政権をとったら何をやるかというイメージが国民に伝わった上での批判でなくてはいけない。今の立憲民主党はいろんな気づきを持っている政党だと思うが、骨太な政権構想力をかつての民主党よりも欠いている。泉代表はそれをよくわかっており「次の内閣」を作った。外交・安保に玄葉光一郎さんなど、骨太な政策を作れそうな人を選んでいる。これは乞うご期待ということ。

反町理キャスター:
立憲の政党支持率は現在、各社の世論調査で4~6%。6%の人たちを相手に政治をしているのか。2007~2009年ごろの民主党は、支持層の外の人たちに対して働きかけていた印象がある。政治家として意識する範囲について。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
弱くなればなるほど、選挙が厳しくなればなるほど、コアな支持層を失いたくないと守りに入ってしまう悪循環がある。目指すは自民党とライバルになる国民政党で、コア支持層もしっかり固める一方、自民党からも支持を取りに行かなければいけない。真ん中の無党派層は自民党に負けないぐらい取りに行く、という構えでいかなければ強くなれない。

「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」に込めた思い

新美有加キャスター:
今回の演説で明かされた、安倍元総理の親任式控え室でのエピソード。「『野田さんは安定感がありましたよ』『あのねじれ国会でよく頑張り抜きましたね』『自分は5年で返り咲きました。あなたにもいずれそういう日がやってきますよ』温かい言葉を次々と口にしながら、総選挙の敗北に打ちのめされたままの私を、ひたすらに慰め励まそうとしてくれるのです」。野田さんは当時、素直に受け止めきることができなかったとも吐露されていたが、この優しさに気づかれたのはいつごろだったか。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
何回も思い返すことがあり、だんだんと。やはり鮮烈なイメージだった。そもそも控え室を同じにするって残酷ですよ。同じ党ならいいが、勝った人と負けた人が秘書官もつかずに同室で2人きり。それは重たい空気なんです。さすがに安倍さんもいたたまれなくなり、気を使われたと思う。どちらかというと早口でいろいろ話されるじゃないですか。あの感じで次々と速射砲のように励ましてくれて、恐縮至極というか。

反町理キャスター:
もう1つ、「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」。非常に短いが、安倍さんに対する思いがこもっている。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
演説でも申し上げたが、もう1回火花散るような激論をやってみたかったと、失って今さらながら改めて思う存在。単なる論敵ではなく、私は総大将として、率いているいろんな人たちの政治生命も賭けて戦った相手。安倍さんは幹事長のときに選挙で議席を減らしたが、そこから学び、選挙のやり方、凄みはすさまじかった。それに負けっぱなしで、やっぱり借りは返したかった。

新美有加キャスター:
視聴者の方からのメール。「なぜ立憲民主党におられるのですか。自民党もしくは無所属のほうが野田さんのカラーに合っているのでは」というご意見。いかがでしょう。

野田佳彦 元首相 立憲民主党最高顧問:
私は一度も自民党に入ったことはない。これからも入らずに、二大政党を目指す。それを実現しなければ死んでも死にきれないと思っている。残念ながら同じ党にいて、耐え切れなくなり、居場所がなくなって自民党に行かざるを得なくなった人もいる。それは政策実現のための彼らなりの判断だと思う。だが、痩せ我慢かもしれないが、ライバルとなる政党をつくっていかなければ、永遠に緊張感のある政治はできないと思う。私はその役割を果たしていきたい。

(BSフジLIVE「プライムニュース」10月25日放送)