「こんにちは。ごゆっくりご覧ください」

福岡市にあるアパレルブランド。数日後に「無印良品」で行われるポップアップストアに向け、姉妹で接客の練習に余念がないのは、姉の平嶋沙帆さんと妹の萌宇さんだ。

姉の平嶋沙帆さん(右)と妹の萌宇さん(左)
姉の平嶋沙帆さん(右)と妹の萌宇さん(左)
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「口元が見えない」コロナ禍で接客に苦心

平嶋沙帆さん:
(店員役で)ワンピースお好きなんですか?

平嶋萌宇さん:
(客役・手話で)あまり着ないから、挑戦したいと思っているんですね

2人の接客練習のやりとりは手話。

平嶋萌宇さん:
(手話で)私の名前は平嶋萌宇です。私は生まれたときから、耳がほとんど聞こえていません

福岡市出身の平嶋萌宇さん(19)は生まれつき聴覚障がいがあり、小さいころから家族や友人とのコミュニケーションには手話を使ってきた。現在大学1年生の萌宇さんだが、今回、姉の沙帆さんが勤務するアパレルブランドで2日間限定の販売員として働くことになったのだ。

平嶋沙帆さん:
妹が日常生活の中で困っていることの1つとして買い物があったので、聞こえない方にもいろんなことを知った上で買い物をしていただきたい、という思いがあります

平嶋萌宇さん:
(手話で)これをきっかけに、もっと手話が広まったらいいなと思うし、聞こえない人にも、もっと可能性があるということを、この企画を通して多くの方に知ってもらえたらいいなと思います

当日は耳が聞こえる客への対応も行うため、その練習を行った。萌宇さんが「何かお探しですか」のカードを見せると…。

お客さん役:
何か探しているわけじゃなくて

平嶋萌宇さん:
(手話で)なんて言ってるか分からない…

コミュニケーションが上手く取れない。

平嶋萌宇さん:
(手話で)口元が見えない。マスクをしているので、何を言っているのかが想像ができない。なので、1人で全部これをするのは大変だなって

身振り手振りでやりとり…来店客「思いで伝わった」

そして、いよいよ当日。無印良品の入り口には姉妹のポスターが掲げられ、カラフルな洋服が店頭に並ぶ。展示会の真ん中に置かれていたのは、姉妹で考えて作ったオリジナルのTシャツだ。

平嶋沙帆さん:
「歩む」という意味の手話なんですけど、自分らしく生き続けてほしい、今から歩み続けるという意味を込めて「歩む」っていうワンポイントを付けて作りました

耳が聞こえる人も多く来店したが、SNSで手話販売を行うことを宣伝していたこともあり、聞こえない人も次々と買い物に訪れた。

平嶋萌宇さん:
(手話で)どうですか?大きいですか?

客:
(手話で)結構、長いですかね?

平嶋萌宇さん:
(手話で)これ男女兼用だから、大きめなんですよね。なのでSサイズ着てみますか?

客:
(手話で)わかりました!お願いします!

服の素材やサイズなど、手話で密にコミュニケーションを取りながら接客を続ける。

来店客の女性:
(手話で)お店の方に質問するのは遠慮してしまう点があるので、手話ができる人がいるだけでも、安心して話かけられる

来店客の女性:
(手話で)手話があるので、いつもよりわからないことがあっても、すぐに対応してくれるという点で、すごくいいなと思いました

一方、耳が聞こえるお客さんには、なかなか声をかけられない。しかし、「サイズはどうですか?」と徐々に話しかけるように。手話が使えない客も身振り手振りで、萌宇さんと一生懸命に会話する。

来店客の女性:
上手でした。普通の買い物と一緒でした

来店客の女性:
一生懸命、目を見て表現してくれるというところで、思いで伝わった感じですね

勇気を与えるような存在に 手話と社会をつなぐ

2日間行われたポップアップストアには200人以上が訪れた。

平嶋萌宇さん:
(手話で)まだまだだと思いますけど、できることは全部できたと思います。手話を使っているときに見られるのは、どうして見られないといけないのかなと感じたこともありますが、自分の聴覚障がいを肯定してくださる人にたくさん出会うことができたので、いま自分はこうやってポジティブに考えることができたと思います。私も頑張って、あんな風になれるかなと思っていただけるような存在に、いつかなれたらいいなと思っています

自分と同じ耳が聞こえない人にも買い物を楽しんでほしいと、手話での接客に挑戦した萌宇さん。

大学卒業後は、日本で開催される聴覚障がい者のための総合スポーツ競技大会「デフリンピック」に関わり、手話と社会をつなぐ仕事を目指している。

(テレビ西日本)

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