25年前に神戸市で起きた、14歳の少年による連続児童殺傷事件で、少年を審判した神戸家庭裁判所が、全ての記録を廃棄していたことが分かった。

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■廃棄された「少年A」の記録 被害者の父は

 1997年、神戸市須磨区で小学生5人が襲われ、2人が殺害された事件。当時14歳の少年が遺族にも非公開の少年審判を受け、医療少年院への入院が決まった。少年法改正の契機となり、刑罰の対象年齢は、「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられた。

 最高裁は事件の5年前にあたる1992年に、社会的な影響の大きい事件などの審判の資料について、事実上永久に保存する「特別保存」を義務付けていた。

 しかし、神戸家庭裁判所が、この事件の全ての資料を廃棄していたことが分かった。

 廃棄されていたのは、捜査資料や少年審判の処分決定書、少年の精神鑑定書など、多岐にわたるとみられる。

 殺害された、当時小学6年の土師淳君(当時11歳)の父・守さんは…

土師淳君の父・守さん:
最初はびっくりしました。特殊な事件ですので、資料は残していると思っていましたので、まさか廃棄されているとは思っていませんでした。こういう貴重な資料を廃棄するという、管理の悪さ、ひどさにあきれている。憤りを感じる

 神戸家庭裁判所は、廃棄された時期は分からないとして、「現在の特別保存の運用からすると、適切ではなかった」とコメントしている。

 守さんは、どのような経緯で廃棄されたのか、徹底した調査を求めている。

土師淳君の父・守さん:
誰かは分からないですけど、中途半端というかいい加減な判断でさっさと廃棄を実行してしまう体制そのものがおかしいですよね。責任を追及するのではなく、今後のことも考えてきちんと体制をつくるためにも、調査して結果を公表してほしい

 神戸家庭裁判所は廃棄された経緯について、「聞き取り調査などを行う予定はない」としている。一連の廃棄や裁判所の姿勢を、公文書管理の専門家は問題視する。

龍谷大学 福島至 名誉教授:
少年本人の生き方というか、その後の更生という問題も、現時点においても問題を投げかけているものです

龍谷大学 福島至 名誉教授:
その元の審判の資料が全く検証できなくなってしまうと、大きな損失だと思います。機械的に廃棄していくというシステムになっていたんだと。当事者意識を持って保存するという意識を高めてほしい

■なぜ「少年A」事件の資料は廃棄されたのか

 少年事件の記録は、最高裁の内部規定で、少年が26歳になるまで保存するよう定められている。この事件の「少年A」が26歳になった2008年までは、保存されていたものと思われる。

 最高裁は1992年に、史料となるべき記録は期間満了後も特別に保存すると通達している。この史料となるべき記録というのは「社会の注目を集めた事件、調査研究の参考となる事件など」を対象としている。「少年A」の記録が廃棄されたのは、この通達より後のことだった。

 神戸家裁は今回の件に「適切ではなかったと思われる」とコメントしつつ、廃棄された経緯について「聞き取り調査などを行う予定はない」としている。

 また最高裁も、神戸家裁の対応に見解を述べるのは差し支えるとした上で、「廃棄された経緯が不明なことについて問題があったとは考えていない。調査は検討していない」としている。

 龍谷大学の福島教授はこの問題について、基本的には保存を前提にしつつ、「裁判所の内部規定のみに委ねずに法律で明記すべき」と指摘する。

 紙で記録する時代は終わり、現在は多くの記録をデータにして残すことができる。保管場所の問題などで廃棄する必要はない。

 忘れてはならない事件の資料が、全て廃棄されている現実。その事態の重さを、裁判所は受け止めているのだろうか。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月20日放送)

関西テレビ
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