ロープを使って人命を救助する技術「ロープレスキュー」。その技術を競う国際大会で、日本チームとして初優勝を果たした消防士が、岡山県総社市にいる。ロープレスキューにかける思いを取材した。
西日本豪雨でも役立った「ロープレスキュー」とは
「要救助者1名。 足首の痛みを訴えている。自力歩行不可能、担架で上げる」
訓練を行う隊員たちが、声を掛け合う。

強靱(きょうじん)なロープや金具などを使い、救助活動を行うロープレスキューは、足場が不安定で高低差がある現場などから、要救助者を助け出す技術だ。ヘリコプターや車が入れない場所でも活動できる。

2018年7月、岡山県にも甚大な被害をもたらした西日本豪雨でも、ロープレスキューの技術が大いに役立った。被災した家などを守るため、住宅の屋根に上りブルーシートをかける作業を行った。
Japan West 9PM・林田章宏さん:
自分たちが日頃身に付けている技術を、地域住民のために使う時だという思いでやっていた
中四国の消防士で構成されたロープレスキューチーム「Japan West 9PM」。ロープレスキューでの救助の基本は5人1組で、それぞれの隊員が、目の前の状況に対して臨機応変に対応する力が求められる。
世界との差を痛感…挫折乗り越え 消防士の活動続けながら世界大会で優勝
大きな声でチームを鼓舞するのは、リーダーの林田章宏さん(46)だ。

Japan West 9PM・林田章宏さん:
海外の大会を経験した。そこからすごくカルチャーショックを受けて、自分自身のロープの技術に対する取り組みが動き始めた
林田さんがロープレスキューを知ったのは、2004年、消防の専門雑誌を目にしたことだった。高い技術に興味を持ち、兵庫県で開かれた講習会に参加、その奥深さに引き込まれた。
林田さんは、総社市で消防士として活動しながら練習を重ね、国際大会に参加するなどして、実践的な救助技術を磨いてきた。

Japan West 9PM・林田章宏さん:
自分の身に付けた高度な技術が、総社市の消防本部に還元されて、その技術を実災害の中で生かしていきたいというのが、一番の自分自身を突き動かす原動力
9月、救助技術の世界一を決める大会「GRIMPDAY」がベルギーで開かれた。林田さんにとっては2回目の挑戦だ。2017年にも出場したが、結果は30チーム中23位と、世界との差を痛感させられた大会でもある。

Japan West 9PM・林田章宏さん:
評価の大半が「丁寧だけど複雑だし遅い」だった。そこから自分たちで改善点を見つけて、少しずつ修正しながら取り組んできた
自分たちの、今の技術力を測る上でも貴重な大会。林田さんは、チームを指揮するリーダーとして出場した。
大会は4日間にわたって開かれ、林田さん率いる日本チームの結果は…。

「Japan!」
1位として呼ばれ、大きな歓声が上がる。世界19カ国から集まった24チームの中で見事優勝し、世界の頂点に立った。
Japan West 9PM・林田章宏さん:
優勝という結果を得ることができたのは、非常にうれしかったという言葉に尽きる
「終わりのない学び」 培った技術を後進に
総社市消防本部に勤める林田さんは現在、組織の体制作りを担う警防課に所属して、デスクワークが中心となっている。災害現場に出る機会は少なくなったが、地域の安全を守るという思いは変わらない。

Japan West 9PM・林田章宏さん:
海外などで学んだ技術を、総社市の消防が活動する現場で、実際に傷病者など助けを待つ人に、より安定して的確に救助活動ができるようつなげていきたい
そんな林田さんが仕事の合間に向かった先は、敷地内にあるロープレスキューの訓練棟。林田さんは、自身が培った技術の継承にも力を入れている。

Japan West 9PM・林田章宏さん:
担架から離れる瞬間に一瞬荷重が抜けるから、担架が動く。実際の人だったらもっと揺れる

総社市消防署・吉富真吾さん:
正直、優勝の一報を聞いた時は信じられないというか、すごいなという、それだけだった。我々にとっては兄貴的なリーダーというか、救助の組織で言えば先駆者ということで、いろいろなものを総社に還元してくれた先輩

まだまだ日本ではメジャーではないロープレスキューの技術を、日本のスタンダードにしていきたいという林田さんの思いは、確実に受け継がれている。
Japan West 9PM・林田章宏さん:
これから複雑多様化するような災害が想定される中で、その現場に出動する私たちの救助技術もアップデートしていかなければならない。終わりのない学びというか、終わりのない課題をずっと追いかけているものだと思う
災害で悲しむ人を一人でもなくすために。林田さんたちは、きょうもその技術を磨き続ける。
(岡山放送)