10月12日、「イプシロンロケット6号機」が打ち上げられた。このロケットには、福岡のベンチャー企業が、地元の町工場などとともに作り上げた小型衛星2機を搭載。小型衛星は“チーム福岡”で生まれた衛星だった。

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カウントダウンが始まり、「3、2、1、0!」
福岡の夢も乗せたロケットが打ち上げられた。

ベンチャー企業が小型衛星開発 雲があっても夜間でも詳細に地上撮影

打ち上げの6日前。取材班が訪れたのは、大西俊輔社長が率いるベンチャー企業「QPS研究所」の本社だ。今回、ロケットに搭載された小型衛星を開発した。

エンジニアでもある大西俊輔社長
エンジニアでもある大西俊輔社長

QPS研究所・大西俊輔 社長:
これがちょうど6分の1の模型で、ここがパラボラアンテナで、ここから電波が出て、地上から跳ね返ったものを受信して画像にする

九州大学出身で、エンジニアでもある大西社長に見せてもらったのは、人工衛星の模型。実際の大きさは1.5メートルほどで、小型だが、その性能は折紙付きだ。

QPS研究所・大西俊輔 社長:
地球を見る衛星であることと、電波を使って電場で画像化するレーダーの衛星。
雲の影響を受けないので、雲があっても撮ることができる。悪天候で撮れるし、昼夜問わず撮れるので、いつでも撮ることができる。そういった衛星になります

カメラで地上を撮影するのではなく、高性能レーダーで地上を観測する。その精度は、住宅や車を判別できるレベルだ。しかも雲などに妨げられず、夜間でも観測が可能なため、災害などの際に威力を発揮するという。

宇宙から、雲の有無や昼夜に関わらず、詳細な画像が撮影できる
宇宙から、雲の有無や昼夜に関わらず、詳細な画像が撮影できる

2022年8月に石川県で発生した豪雨時の画像は、2021年に打ち上げられた衛星によるものだが、夜間にも関わらず、川があふれる様子がしっかり捉えられている。

夜間の豪雨でも地上の様子が判別できる
夜間の豪雨でも地上の様子が判別できる

QPS研究所・大西俊輔 社長:
いつでもリアルタイムで状況が分かるとなれば、今、どういった災害状況なのかが分かります。人命を救助するスピードが、よりアップする。そうなると、皆さん安心して暮らせる世界になるんじゃないかなと思います

会社の目標は、今後、数年で合計36基を打ち上げること。そうすることで、地球上のほぼ全域をリアルタイムで観測することが可能になるという。

地元の中小企業の技術を結集 宇宙空間にも耐えうる最高の部品を

この壮大な計画を支えているのが、地元の中小企業だ。
バネを製造する町工場の峰勝(みねかつ)鋼機。製造しているバネは、車のサスペンションから洗濯ばさみのバネまで、大小様々なバネを作っている。

峰勝鋼機・林哲志 会長:
バネの原則は、規格品というのは原則ありません。オーダーメードなので、1本から作りますし、100本、1000本と色んなランクがあるんですけど、要するに受注生産でやるような品物をやっています

63年続くこの会社のネジは、ひとつひとつ職人の手作りだ。
精密で頑丈なネジは、顧客から絶大な信頼を得ている。会社の方針は、「頂いた仕事は安易に断らない」。2009年にQPSから衛星の部品を依頼され、開発してきた。

衛星の部品について解説する峰勝鋼機・林哲志 会長
衛星の部品について解説する峰勝鋼機・林哲志 会長

峰勝鋼機・林哲志 会長:
今回アンテナに使われているバネの模型です

――どの部分がバネ?
峰勝鋼機・林哲志 会長:

この部分がバネになってます。簡単に言うと、畳まれている状態のものが、バネの力で広がるという

この会社で作った36枚のバネが、折り畳まれた状態で打ち上げられ、宇宙空間でまるで花が咲いたように開くという仕組みなのだ。

峰勝鋼機・林哲志 会長:
我々は、QPSさんの方から非常に高い要求をされました。板厚が薄くて、そしてなおかつ4メートルの品物にも関わらず、寸法がミクロン単位の数字の考査の要求ということで、それを守るのが非常に難しかった

最も苦労したのは、宇宙空間という環境への対応だ。

峰勝鋼機・林哲志 会長:
宇宙空間というのは、一番高い温度が200度くらい、マイナスは零下50度くらい。その幅の中で、金属が永久に歪みを起こさない。材料の選定、材質の選定、ここら辺が非常に苦労しました

宇宙空間では修正不可能というプレッシャーの中、自分たちがこれまで培ってきたものづくりの技術を結集して、最高の部品を作り上げたという。

峰勝鋼機・林哲志 会長:
自分たちが作っているのが、こういう素晴らしい業界で使われるというのは、我々の物づくりに対する意識、これをさらに強くさせるものでもある。
また技術開発、これに対しても取り組んでいきたいなという思いがあります

ついに打ち上げ 思いを乗せたロケットは… それでも前進あるのみ

そんな福岡の人たちの、夢と思いが詰まった人工衛星。
ついにロケット「イプシロン」で地上を離れた。しかし、打ち上げから数分後、ロケットが目標姿勢からずれた。その結果、地球周回軌道に衛星を投入できないと判断され、打ち上げは失敗。人工衛星は、宇宙空間に届かなかったのだ。

この様子を福岡で見守った大西社長。へこたれはしない。

QPS研究所・大西俊輔 社長:
まずは3、4号機の結果を知るということと、この先にある5、6号機の打ち上げ成功に向けて進んでいくというところに気持ちを切り替えてやっていこうと思っています

福岡の企業の英知を結集した人工衛星の開発。今回は宇宙には届かなかったが、今後、宇宙開発はもちろん、さまざまな場面でその知識と技術が生かされることは間違いない。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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