早口で甲高い関西弁の人

泉房穂・明石市長の記者会見に一度だけ出たことがある。早口の甲高い関西弁でまくしたてる強烈なオッチャンだった。といっても僕より4つ年下なのだが。とにかく果てしないエネルギーとパワーを発散している人だった。

だから記者会見は大変面白かった。冒頭いきなり「最大の敵はマスコミ」と切り出した後は「こども家庭庁は作らない方がいい」「国民はもう十分に負担しているのに何でこんな低福祉なのか」「国土交通省は半分にしろ」など「泉節」がさく裂した。

泉氏のHPによると明石市は18歳までの医療費無料、第2子以降の保育料無料、満1歳までのおむつ無料など所得制限なしの子育て施策を充実させ、9年連続で人口が増えた。

土木を削ってこどもを育てる

どうやってその財源を産み出したのかに関心があったのだが、泉市長によると土木費の半減、余っている公営住宅の削減、市の職員の数や手当の削減などで子供に関する費用を倍増させたという。たとえば下水を太くするのに20年で600億円の予算があった。想定被害は10軒の床上浸水。つまり1軒につき60億円のお金をかけている。これは多すぎるので450億円削減したという説明だった。

なるほどと感心したが、もし想定外の大水害で甚大な被害が出たら大変な事になるだろうし、それ以外にもいろいろ文句を言う人もいるんだろうなと心配になった。

市職員への暴言が発覚し、辞職を表明した泉市長(2019年)
市職員への暴言が発覚し、辞職を表明した泉市長(2019年)
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泉氏は2019年に市の職員への暴言が発覚していったん辞職したが、出直し市長選に立候補して当選し復活した。その後も市会議員に「もう議員辞めてまえ」と発言するなど「お騒がせ」で有名だった。今回問責決議を出そうとしていた会派の議員に暴言を吐いた泉氏はあっさり政界引退を表明し周囲を驚かせた。

強烈なオッチャンは必要か

泉氏の業績についても賛否があるし、一連のパワハラ発言は世間には受け入れられない。一方で明石市民からは泉氏の引退を惜しむ声が出ているという。確かに市民からみれば泉氏の暴言は政治家や市の職員に向けられたもので、市民に向けられているものではない。「口は悪いがよく仕事するオッチャンをなんで辞めさせたんや」と思う人もいるだろう。

明石市民からは泉氏の引退を惜しむ声も…
明石市民からは泉氏の引退を惜しむ声も…

政治の世界にはこういう「強烈なオッチャン」が必要ではないかとも思う(もちろんオバチャンでも可)。官僚や議員が決めたことを見事にひっくり返すような乱暴な人がいないと世の中は変わらないからだ。

独自の政治を行っている地方自治体はたくさんある。その成功例は大阪維新の会だろう。維新が大阪の国政選挙であれだけ強いのは、やはり府政、市政に対する大阪の有権者の評価が高いということだ。

国が地方の政策を取り入れることもよくある。石原慎太郎都知事のディーゼル規制はそうだし、まあ美濃部亮吉都知事の老人医療費無償化という悪い例もあるが。ただ力のある首長が地方の小さなサイズで実験的に行政改革をし、国がそれに追随するというのは、意味あることだ。

泉氏はそういうことのできる力のある首長だったので、いなくなるのはちょっと残念だ。ただ経歴を見ると彼にとって政治家というのは選択肢の1つに過ぎないようだ。だから今後は別のアプローチでこどもや障害者対策など「人にやさしい社会」を目指すのだろうから、政治家引退といってもあまりガッカリしなくてもいいのかもしれない。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

記事 319 平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。