4対4で激しくぶつかり合う「車いすラグビー」。日本代表は、6月に初の世界ランキング1位になった。
そんな選手たちの足となる車いすを整備し、日本代表を陰で支えるのは“整備士”だ。
選手の大きな信頼を得ている、福祉施設に勤める佐賀市の男性を取材した。
“日本で3本の指に入る整備士”は福祉施設の職員
日本代表が多数所属する車いすラグビーチーム「福岡ダンデライオン」。佐賀市大和町に住む川﨑芳英さん(52)は、ここで車いすの整備士として活動している。
この記事の画像(12枚)川﨑芳英さん:
これ結構きついですね。一日分の力、全部使ってしまう。なんか独り言ぼそぼそ、すみません(笑)
練習前、タイヤに空気を入れたあと、床にあわせて1mm単位でキャスターを調整する。
普段は、障害者福祉施設の職員として働く川﨑さん。整備士になるきっかけは、当時勤務していた施設で運動指導員をしていた時だった。
福岡ダンデライオン所属 元日本代表・堀貴志選手:
当時、僕たちが使っていた体育館の職員さんで、ちょうど見に来ていて、「なにかあったら手伝うよ」って声をかけてもらって。「じゃあ、パンク修理お願いしてもいいですか?」と
4対4で行われる車いすラグビーでは、ひざの上にボールを乗せたら10秒以内にドリブル、またはパスをしなければならない。
車いす同士のタックルも認められているため、選手同士の激しい衝突が多く、パンクはつきものだ。
しかし、川﨑さんは趣味のバイクいじりを生かし、パンク修理はお手のものだった。
福岡のクラブに携わって8年。メンバーからの信頼はバツグンだ。
福岡ダンデライオン所属 元日本代表・堀貴志選手:
まさか日本で3本の指に入る整備士になるとは。もはや1本かもしれん
仕事以外のほぼ全てを整備士として活動
試合や合宿にかかる費用はチームが負担するが、整備士としての活動はあくまでもプライベート。仕事以外のほぼ全てを整備に捧げる。
川﨑芳英さん:
競技者になったら、自分たちを越えるようなスピードでコートを走り回る。そういうのを見たら辞められない。楽しくて
川﨑さんには、整備士としてのプライドを持つようになった経験がある。2016年、日本代表チームから声がかかり、合宿に参加した時のことだった。
川﨑芳英さん:
風当たり強いですよ、選手からの。「お前に何ができるの」って言われますよ
整備士はパンク修理だけでなく、選手の障害に合わせて、一人一人、個別に車いすの部品の交換から調整までしなければならない。1mmのずれがプレーに大きく影響するため、選手から信頼されなければならない。
川﨑芳英さん:
めっちゃ悔しい。確かに言われることは分からなくもない。単純に調整をするだけなら、誰でもできる
川﨑芳英さん:
でも、その人が今求めているのが何かは、ずっとその人の車いすを見て、いつ買ってどれくらい部品を変えたとか、プレースタイルとか、そういうのをちゃんと分かってないと、実際に必要とされている修理はまずできない
日本代表も全幅の信頼「なくてはならない」
川﨑さんは現在、福岡ダンデライオンと日本代表チームを兼任。5年ほど付き合いがある日本代表の乗松聖矢選手は、川﨑さんに信頼を寄せている。
福岡ダンデライオン所属 日本代表・乗松聖矢選手:
信頼はすごくある。川﨑さんだったら、要望を端的に伝えれば、全て自分の思うような仕上がりで調整してもらえるので。慣れている人以外には任せたくないというよりも、任せるんだったら川﨑さんがいい
また、川﨑さんが必要とされるのには他にも理由があった。
川﨑芳英さん:
今から日常の車いすの点検です
フリーの時間を活用して自ら始めた日常の車いすの点検や、転倒した選手のサポート、一部の選手のトイレの付き添いなど…障害者福祉施設で33年勤めた経験と持ち前の気配りで選手を支え続け、2022年6月に日本代表は初めて世界ランキング1位をつかみ取った。
福岡ダンデライオン所属 日本代表・乗松聖矢選手:
なくてはならない存在です
福岡ダンデライオン所属 元日本代表・堀貴志選手:
川﨑さんなしには考えられない
そして日本代表は、パラリンピックと並ぶ重要な大会、世界選手権に臨む。
福岡ダンデライオン所属 日本代表・乗松聖矢選手:
川﨑さんと臨む大会では、今までで一番大きな大会。金メダルを最後、首にかけてあげることができれば
川﨑芳英さん:
任せてください。整備をばっちりやっていきます
(サガテレビ)