道路を渡る時、走ってくる車の運転手を見て「止まってくれそう」などと思ったことがあるだろう。

しかし、もしこれが自動運転車の場合だったらどうなるのだろうか。同じように「アイコンタクト」で歩行者に意図を伝えるため、「目」を付けた自動運転車で安全性を高める実験が東京大学で行なわれた。

(出典:東京大学)
(出典:東京大学)
この記事の画像(7枚)

チャン・チアミン特任講師と五十嵐健夫教授らの研究グループは、「視線の提示によって交通事故を減らすことができるのか?」を調べるため、車体に「目」を付けた実験車両を製作。

(出典:東京大学)
(出典:東京大学)

実験ではこの車と、別の自動運転車のそれぞれを道路で走らせ、歩行者の前を通過・停止する様子をカメラに収めた。なお実験車両は人間が運転し、「目」も人間が操作しており、カメラ側を見ている場合は停車し、別の方向を見ている場合は通過した。

この動画を18~49才の男女各9人の計18人にVRゴーグルを使って見せ、道路を横断するかしないかの判断をさせて検証したという。

(出典:東京大学)
(出典:東京大学)

実験の結果、「目」がある車両は危険な道路横断を減らせる可能性が示されたという。

男性の場合、車が通過する状況にもかかわらず道路を渡ろうとする「危険な場合」は、普通の車が約49%だったのに対し、「目」があると約18%に減少。また女性の場合は、車が停止する状況でも渡ろうとしない「安全な場合」が、普通の車は約72%から「目あり」では約34%に減った。いわゆるアイコンタクトの効果で、危険な横断や無駄な停止が減る結果となったのだ。

表中の「エラー率」とは誤った判断をした割合。「安全な場合」とは車が停止しようとしているのに横断しなかった場合(出典:東京大学)
表中の「エラー率」とは誤った判断をした割合。「安全な場合」とは車が停止しようとしているのに横断しなかった場合(出典:東京大学)

ほとんどの被験者は「目」を気に入りましたが…

研究グループは、自動運転車には大きな期待が集まっているものの、歩行者など周囲との意思疎通に欠如があるとして、今回の研究が意思疎通を円滑にする一つの可能性を示しているとしている。

それにしてもインパクトあるデザインだが、もし実用化することになったらどうなるのだろうか? また、実験の参加者の感想は? チャン・チアミン特任講師と五十嵐健夫教授に聞いてみた。(※チアミン氏の回答は英語から翻訳)


――そもそも、なぜ自動運転車に「目」をつけようと思ったの?

チアミン特任講師​:

通常、運転手の合図(アイコンタクト)は人間のドライバーと歩行者との間での意思疎通に使われますが、自動運転車両は(アイコンタクトを)使うことができません。そこで、我々は車に「目」をつけました。

五十嵐教授:
ヒューマンコンピュータインタラクションの専門家として、自動運転車と人間とのインタラクションで何かできることがないか検討しました。車内の人間とのインタラクションの研究は多くありますが、車外の人間とのインタラクションの研究が不十分だと考え、その方法の一つとして目(視線)を取り上げました。


――実験に参加した人の感想を教えて

チアミン特任講師:
被験者のほとんどがこのアイデアを気に入りましたが、何人かは「目」に見られている事に対して心地悪さを感じていました。

(出典:東京大学)
(出典:東京大学)

――「目」によって「危険な横断」をする男性と「無駄な停止」をする女性が減ったという。男性はもともと女性より横断しがちで、女性は男性より停止しがち、ということ?

チアミン特任講師:
性別による差は想定していませんでした。この発見は非常に興味深く、今後さらに調査するつもりです。


――実用化までのハードルは?デザインはどうなる?

チアミン特任講師:
我々はVRを使いましたが、現実世界とは大きく異なることがあります。しかし、安全上の問題などがあるため実環境で実験を行うことは難しいでしょう。

五十嵐教授:
現状、「目」は手で操作しているので、自動運転のAIエンジンとつなげて自動で動くようにする必要があります。そのうえで、実車で実環境で有効性を確認する必要や、コストを下げる必要もあります。

デザインについても、気味が悪いという印象を避けられるようなデザインが望ましいでしょう。
 

(出典:東京大学)
(出典:東京大学)

とても興味深い実験だったが、この実験車両を見てあなたは、気味が悪いと思っただろうか? それともカワイイと感じただろうか?

「右に曲がります」など車が喋るようになって久しいが、次は歩行者の安全を守るため車にこのような「目」がある時代がやってくるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。