ニューヨーカーも驚くマスク集団
「ちょっと異様な集団ね」 小池知事は5月のUAE(=アラブ首長国連邦)出張、8月から9月にかけてのマレーシア出張以来、今年3度目の海外出張としてニューヨークを訪れた。
1回目、2回目の出張先と異なり、街を歩く人はほぼ全員マスクなし、マスクを着けている人を探すのが難しいほどだ。小池知事と都職員らが全員マスクを着けて視察している様子を「What?」と声を上げ、いぶかしげな表情で見るニューヨーカーも多く、小池知事は自らを“異様”と評した。
この記事の画像(7枚)コロナは「歴史の1ページに」
「ニューヨークにとっては歴史の1ページになりつつあるのかなと思いつつ、数に表れないだけの話かもしれない」薬局で手軽にワクチン接種、PCR検査場もほとんど無くなったニューヨークでアダムス市長と会談。「日本はロックダウンをしたのか」と問われ「それはしていない。マスクの着用も規則できまっているわけではなく、公衆衛生など都民は意識が高い。」と伝えたところ、市長は「Wao!」と驚いたという。
「海外からのお客様を受けるというのは東京にとって経済活性化に繋がっていくと思っています。皆さんから「国境はいつ開くんですか」、なんか鎖国してるみたいな、そういうニュアンスを持たれているようですけれども。
コロナもお互いそれぞれの闘い方をしたわけですけれども、やはり安心してお互いに観光できるようにしていくことは、どちらにとってもプラスのことになると思います。」 。東京都はニューヨークと観光振興分野で協力していくことで合意した。
廃線活用し空中公園 銀座にも?
「ウォーカブル(=歩ける)な街作りっていう意味ではその先例を確認できてよかった」 ニューヨークでは廃線となった高架鉄道を再利用した空中公園「ハイライン」がコロナ前は年間800万人が訪れた有数の観光地となっている。
廃線となった線路の周りには観葉植物ではなく自生していた草木が植えられ、その自然な姿とは対照的な「お面をつけた自由の女神」などユニークなオブジェを楽しむことも出来る。このハイラインがあるのは旧工場地帯で、そこにバーなどが出来たことからニューヨーカーの間で話題になり2005年に計画、翌年から3区画にわけて工事が行われたが、1区画目完成後には周辺地価が2倍以上、2区画目完成で3倍以上、現在は3区画目の工事中だ。
多くの雇用を生み出したとも言われ、様々な面で経済効果が大きい。都は銀座周辺を通る東京高速道路(KK線)を歩いて楽しめる空間として再生する計画をたてており、このハイラインを参考にする考えだ。
東京に比べ進むニューヨークの水辺
「随分、つぎ込んでるわね」 東京都と同じように川、海、運河のあるニューヨークでは、観光だけでなく通勤やビーチなどへの行楽の足としてもフェリーが活用されている。朝6時半から夜10時まで、最大20分間隔で運行され、運賃は一般利用で2.75ドル。
岸辺には遊歩道が整備され美しい景色が楽しめるとともに、車の渋滞に悩まされるニューヨーカーにとっては「早くて安い貴重な交通手段」として好評、さらに災害時には代替え交通手段にもなるという。小池知事は東京に比べ舟運や水辺の再開発が大きく進んでいる現場を見ながら「(ニューヨークは)つぎ込んでいる」とつぶやいた。
最大3億円 都のスタートアップ補助金
「東京と比べると、NYは世界のスタートアップの集積地だと思います。東京にくれば東京で自分の進めたい技術やサービスが花開くという思いをもっていただけるようなエコシステムをこれからも作っていきたい」
小池知事は起業家や創業直後の企業に事業を成長させるために支援を行う「アクセラレーター」という組織を視察。所有する森林の炭素貯蔵量測定しCO2排出量を相殺したい起業に販売する、竹繊維で環境汚染を解決するなどの環境系スタートアップのプレゼンを受け、都内でのスタートアップ、新規事業の育成に改めて意欲を示した。
「補助金は、つけ過ぎなほどつけてる」 東京都のスタートアップ補助金は、関係者からもこんな声もあがるほど種類も金額も多い。都はスタートアップに対し最長2年、最大3億円(単年度は1億5000万円)の補助金を出している。
担当者によると、東京都が採択したスタートアップのうち直近5年間で経営が成り立っていることが確認できたのは300社、時価評価額は5年間で2倍になった、とのことだが、補助金の問題点、費用対効果など検証し早急に改善する必要があるのではないか。
世界にきっちり打って出る
「こうやって世界にきっちり打って出る。このタイミングは逃しちゃいけないと思いますね。」 コロナを経てニューヨークで3年ぶりに開かれた日本食の展示会にはバイヤーを合わせるとおよそ1000社、1800人が参加。
和牛、豊洲市場から運ばれた日本の魚、果物、鰹節、日本酒、お茶、そば、お好みソースなど様々な食材がずらりとならんだ。小池知事は改めて円安のメリットに触れ「この円安は食の輸出に絶好の機会」と語気を強めた。
「円安でやりやすい」関税大幅増でも和牛にチャンス
「円安のおかげでやりやすいのは正直あります。関税の上乗せ分を為替で吸収できているから」色鮮やかな肉の塊を切りながら“円安実感”を話すのは和牛の輸出を行う男性だ。
アメリカは、日本やイギリス、ブラジルなどからの輸入牛肉について「低関税輸入枠」を設けているが、輸入が枠を超えるとほぼゼロだった関税が26・4%に引き上げられる。今年3月末、アメリカは日本産牛肉への関税を引き上げたが、それだけ大幅に関税が引き上げられても、円安のおかげで販売しやすいという。
「新しいところでは代替え肉も注目されています」 展示会に協力するJETROニューヨークの高橋英行次長は“今年らしさ”として大豆から作られた代替肉が出展・注目されていることも挙げた。“ミートショック”とも言われる肉の価格高騰も影響しているのだろう。
小池知事の“脱コロナ宣言”?
「いろんな世界の流れと日本の現在地を確認しながら進めていく。マーケティングの極みじゃないですかね。国家としてのね。東京はしっかりとその辺のメリハリつけて、得意なところをやっていきたいと思っています」
フジテレビのカメラの前で“脱コロナ宣言”とも思える言葉を残し出張を締めくくった小池知事。出張に出た15日に、都は新型コロナの警戒度を感染状況・医療提供体制とも最も深刻なレベルから1段引き下げたが、まだ上から2番目で感染者数は高い値のまま。
新型コロナ経口薬の一般流通は始まったものの、未だ“適切な”マスクの着用などコロナ対策への協力を呼びかけている。小池知事は、3回の海外出張を通して確認した東京の「現在地」をどう都民に伝え都民の生活をどう「切り替えて」いくのか、明確な発信と対策が求められている。
(フジテレビ社会部・都庁担当 小川美那)