密着40日もうお友達
英国のエリザベス女王が96歳で亡くなった。女王の死去を受け73歳のチャールズ皇太子が新国王に即位した。エリザベス女王は70年という長い在位期間を通して英国内だけでなく世界中から愛されたが、チャールズさんはどんな国王になるのだろうか。
この記事の画像(5枚)今から36年前の1986年、僕は「花火で歓迎ダイアナ妃。密着40日もうお友達」という報道局制作なのにかなりふざけたタイトルの番組を作るため英国に4カ月滞在した。チャールズ皇太子とダイアナ妃の訪日を前に、40日間密着取材してお2人とお友達になり、訪日の際は花火を打ち上げて歓迎しようという、まさに「昭和」で「バブル」な番組だった。
バッキンガム宮殿は、日本の宮内庁記者クラブに比べてはるかにユルく、「密着したい」と申し込んだら「どうぞー」と許可してくれ、当時アナウンサーだった小出美奈さんと英国人のカメラクルーとともに連日夫妻を追いかけた。プロデューサーの指令は「お友達になれ」すなわち仲良くなって「何でもいいからチャールズかダイアナに番組向けにカメラの前で一言しゃべらせてこい」という無茶なものだった。
日本で言えば秋篠宮さまから一言もらってこいという話で全く無理だが、BBCのプロデューサーに聞いたら「沿道の人に紛れてハンディカメラで撮ればいい」というアドバイスをくれた。「バッキンガムからは叱られるが出入り禁止になるほどではない」というのでやってみることにした。
チャールズに一言しゃべらせろ!
今はスマホで誰でも動画を撮るが、当時はまだ携帯電話もなくようやくハンディカメラが出たばかりだったので、BBCプロデューサーの発想の斬新さには感心した。我々は英国中を夫妻に密着して回り、そしてランカシャーという街に行った時だった。皇太子夫妻が通る導線と、我々の場所がとても近い所があった。もしやと思ったら、ふっと夫妻が我々のカメラの前に立った。今だ!
小出さんがすかさず「日本に来られますね。日本国民はみな楽しみにしてますよ」
と言うと、チャールズ皇太子は「僕たちもとても楽しみにしています。日本は素晴らしい国だそうですね」としゃべってくれた。バッキンガム宮殿の広報の人が怒ってやめさせるまでの間、3分位だったろうか。残念ながらダイアナ妃は横で下を向いていたが、それでも大スクープだ。チャールズ皇太子が初めて日本のメディアにしゃべったのだから。しかも彼はニコニコして大変感じが良かった。
ちなみにその後バッキンガム宮殿から抗議文は届いたが特にお咎めはなかった。オーストリアのウイーンへ出張した時にはチャールズ・ダイアナ夫妻と記者との「懇談」にも呼んでもらった。ダイアナ妃は無口で「氷のような美女」という印象だったがチャールズ皇太子は気さくで、いろいろしゃべったのを覚えている。
名君エリザベスの後は…
どこへ行っても2人は大人気だった。日本ではダイアナ妃の人気がすごかったのだが、実は当時の英国ではチャールズ皇太子の方が人気で、地元ウエールズのカーディフという町では、州の花である黄色水仙を手にしたおばちゃんたちが、「チャーリー!」と黄色い歓声を上げていた。
ただこの後ダイアナ妃が亡くなり、不倫相手のカミラさんと再婚する頃からチャールズ皇太子の人気は下がっていく。96歳のエリザベス女王が生前退位しなかった理由はもちろん女王の人気もあるがチャールズ皇太子の不人気もあっただろう。というのは欧州の立憲君主制の国では、象徴天皇制の日本と違って君主が政治に不介入とは限らないので、高齢になると生前退位する人が多い。
日本以上に「王室いじり」が好きな英国のメディアは『「名君」エリザベスの後は「暗君」チャールズだ』という構図を作りたがるだろう。今年出版されるという息子のヘンリー王子の暴露本も気になるし、チャールズ新国王の前途は多難だ。だが自称「お友達」としては是非チャーリーに名君になってほしいと思うのだ。
【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】