静岡県牧之原市の幼稚園で3歳の女の子が送迎バスに置き去りにされ、熱射病で亡くなった。

小さな子どもが送迎バスに取り残されて死亡する事故は2021年7月の福岡県でも発生し、当時5歳の男の子の命が失われている。この事故を受け、同じ福岡県で電子機器の開発を行う株式会社サイバネテック社は「置き去り検知システム」の開発に取り組んでいる。

編集部では今年1月、このシステムの仕組みや検証の様子を取材している。それから半年以上が経過したが、開発はどこまで進んでいるのだろうか? 前回の記事を再構成し、改めて開発状況などを取材した。

運転席の後ろ側に取り付けた送信機(出典:サイバネテック)
運転席の後ろ側に取り付けた送信機(出典:サイバネテック)
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「人検知」などの情報をバス内の送信機から外部の受信機に送信

同社のシステムは車内の状況を知らせる「送信機」をバスに取り付け、幼稚園の事務所などに設置した「受信器」からモニタリングを行う仕組みで、昨年12月と今年1月に、近くにある幼稚園の協力を得て実証実験を実施した。

(出典:サイバネテック)
(出典:サイバネテック)

送信機では「人感センサー(座席に人がいるか検知)」「加速度センサー(走行状況を知らせる)」「温度センサー(車内の気温を測る)」「圧力センサー(運転席に人がいるか検知)」の4種類のセンサーについて、これらの情報を一定周期で受信機に無線で送信。

さらに、車内での緊急事態を伝える呼び出しスイッチも搭載している。

車内に設置する送信機・圧力センサー(出典:サイバネテック)
車内に設置する送信機・圧力センサー(出典:サイバネテック)
パソコンにつなげて車内をモニタリングする受信機(出典:サイバネテック)
パソコンにつなげて車内をモニタリングする受信機(出典:サイバネテック)

受信機は、パソコンと接続することで車内の様子をリアルタイムで状況を把握することが可能。例えば、バスの停車中に運転席に人がいて、他の座席に反応がなく温度も正常なら、パソコンの表示は全て緑色になる。

運転席に人がいて他の座席は無人、車内温度も正常時の表示(出典:サイバネテック)
運転席に人がいて他の座席は無人、車内温度も正常時の表示(出典:サイバネテック)

これが、停車中の運転席に人がおらず、座席に人がいて車内温度が上昇していると、赤や黄色の表示に切り替わり、置き去りの可能性があると注意を促すメッセージが表示されるのだ。

運転席が無人、座席エリアだけ人がいる可能性があり、車内温度も上昇しているため注意を促すメッセージが表示されている (出典:サイバネテック)
運転席が無人、座席エリアだけ人がいる可能性があり、車内温度も上昇しているため注意を促すメッセージが表示されている (出典:サイバネテック)

また送信機の呼び出しスイッチを押すと、受信機側のパソコンからアラーム音が鳴り、置き去り発生時には外部に状況を知らせる手段になる。

呼び出しボタンが押された状態 (出典:サイバネテック)
呼び出しボタンが押された状態 (出典:サイバネテック)

1月12日の実験では、園から100mほど離れた場所で、バスに1人残った園児が呼出ボタンを押すと、受信機に繋がったパソコンから、注意を促すメッセージとアラーム音が鳴ることを確認。周囲に緊急事態を伝えることに成功した。

ちなみに、同社によると受信機と送信機が5kmほど離れていても通信可能なことを確認しているという。

拒否感を持たれないようにシンプルな仕組み

このような装置で少しでも防げるのであれば一刻も早く使ってもらいたい。実用化までのハードルなどをサイバネテックの担当者に聞いてみた。


――このシステムを作ろうと思い立ったきっかけは?

2021年7月に近隣の中間市で起きた送迎バスの園児置き去り事故がきっかけです。福岡県では2007年にも北九州市で同様の置き去り事故が起きております。過去に同様の事例があったにもかかわらず事故が起きてしまいました。

管理体制を徹底し事故を防ぐことも大事ですが、万が一起きた場合に早期に発見、対応できるような仕組みを考えることも必要ではないかと思い、本システムの開発に着手いたしました。


――開発で心がけたことは?

電子機器に馴染みのない方が「難しそう」「よく分からない」といった拒否感を持たないように送信機は車に設置するだけ、受信機もPCと接続してソフトを立ち上げるだけで簡単に使用できるようなシンプルな構成を目指しました。また導入コストも極力低コストになるように配慮しています。


――監視カメラや会話機能はない?

置き去りが発生する状況はエンジンが停止している場合が多いはずです。その際、本システムは車のバッテリーからの電力供給のみに頼ることになりますので、カメラ等の設置は難しいかなと判断しました。

また音声、映像のデータをリアルタイムでクリアに無線で伝えるためにはそれなりの環境も必要になります。コスト面からも弊社が目指す方向性とは一致しないとの判断から今回の試作では採用しませんでした。


――通信の仕組みは?

電波法の規格に適合した特定省電力無線ユニットを組み込んでおり無線通信を行います。弊社システムは敷地内駐車場に停車中のバスと事務所間での通信を想定しており、長距離通信は現時点で対象にしていません。

通信距離ですが、最新の評価で見通しであれば5km程度まで通信できることを確認しておりますので、敷地内という条件であれば十分な距離かと考えています。


――送信機はどこに設置する?

今回の実証実験では極力座席エリア全体をカバーできるような位置(運転席の裏のスペース)に設置しました。ハイエースタイプの送迎バスでしたら最後部の座席でも問題なく検知はできました。送迎バスにも様々なタイプがあるのでどこに設置することが効果的か等も今後の実験を通じて確認していきたいと思っています。


――実証実験で、幼稚園の先生や園児の反応は?

現場の先生方からはシステムについて「バスにいなくても車内の状況が確認できるのが便利」「みんなが車内の状況を共有できる」といった感想を頂き、人による監視体制の徹底+電子技術を活用することでより効果的な対策につながるのではというイメージを共有頂けたのではないかと思います。

最大4台まで同時接続可能に

開発中にまた悲しい事故が繰り返されてしまったが、現時点での開発状況を聞いた。

――1月の実験から今(9月)まで「置き去り検知システム」はどんな改良が行われた?

前回の実験時に指摘がありましたバスが複数台運用される場合(試作は1対1通信)を想定して、受信機1台に対して送信機(バス側)が最大4台まで同時接続できるようにソフトを改良しました。


――いつ実用化できる?目処は?

運用上での課題も多く残念ながら現時点でも実用化は未定となります。


――静岡県でまた子どもが亡くなる事故が起きてしまったが…

今回の事故を受けて感じたことは、もしかしたら保育現場において保育士さんをはじめとしたスタッフの人手不足問題は思っている以上に深刻な状況なのではないかということです。繰り返される「置き去り事故」の本質を捉えた上で、社会的問題として検証すべきではないかと感じています。

園児への説明の様子(出典:サイバネテック)
園児への説明の様子(出典:サイバネテック)

置き去り事故を防ぐため多くの施設では、車内チェックやアプリの活用など、様々な方法をとっているだろう。小さな命を守るために、こういったシステムの少しでも早い実用化を期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。