8月31日、大阪府の摂津市役所では職員らが黙とうを捧げていた。1年前に3歳の子どもが死亡した事件を振り返り、再発防止を誓った。

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バースデーケーキを前に喜びを見せる新村桜利斗(にいむら・おりと)ちゃん。2021年8月に亡くなった。同居していた母親の交際相手からの虐待で死亡したものとみられている。交際相手の男は、桜利斗ちゃんに熱湯を浴びせて殺害したとして起訴されている。

2021年8月に3歳で亡くなった新村桜利斗ちゃん
2021年8月に3歳で亡くなった新村桜利斗ちゃん

悲劇を繰り返さないために…摂津市の再発防止策

桜利斗ちゃんのケースを担当していた摂津市の対応について、大阪府の検証部会が指摘したのは「リスク評価の甘さ」だ。

当時、摂津市には母親の知人や保育所から、桜利斗ちゃんへの虐待を疑う情報が何度も寄せられていたものの、市は「母親とコミュニケーションが取れていることから緊急性はない」と判断していた。寄せられた情報を虐待防止に活かすことができなかったのだ。

家庭児童相談課は子どもの虐待対応の”最前線”。桜利斗ちゃんの事件後、市はそれまで5人の職員で対応していたところを8人に増員。虐待への対応を4人1組のチーム制で行うことにより、職員1人にかかる負担を減らした。さらに… 。

摂津市の職員:
市役所の家庭児童相談課です

事態が深刻になる前に異変を認知できるよう、幼稚園や保育所などの見回りを専門に行う「幼保ソーシャルワーカー」というポストを用意。精神保健福祉士の資格を持つ人を新たに採用した。定期的に市内の幼稚園などを見回り、直接、園の担当者から子どもの様子について聞き取り調査を行う。

(Q. あざが無いかなど、子どもの身体チェックをしてますか?)

園の担当者:
朝の登園の時に視診、触診は必ずしています。今はお昼寝やプールもある時期なので、着替える時には必ず確認するようにしている

「幼保ソーシャルワーカー」が配置された4月以降、摂津市では2021年の同時期と比べて園からの情報提供は2件から12件へと、6倍に増加。虐待に関する情報をより早くキャッチできるようになってきた。

園の担当者:
心強いですよね。ソーシャルワーカーに直接話しやすいし、来ていただくことで子どもの顔を知ってもらったりとか、様子を細かく知らせることができるので

重大な事案を未然に防ごうと変わってきた摂津市。職員の負担を減らす努力が続いているが、厳しい現状もある。虐待問題に長く関わってきた児童相談所の元所長・津崎哲郎さんは「行政だけによる虐待対応には限界がある」と訴える。

児童相談所の元所長 津崎哲郎さん:
行政の職員だけで対応する限界を超えていると思う。改善のためには行政が民間と連携し、民間のサポート体制を強化して、社会全体で対応する仕組みを構築していかない限り、問題は解決しないだろうと

虐待の相談件数”増えていない” 大阪市西成区の取り組みとは

全国の児童相談所で虐待の相談件数は増加し、大阪市でも増え続けている。そんな中、大阪市西成区では、虐待相談件数が10年前からほとんど増えていない。そこには「社会全体で対応する仕組み」のヒントがあった。

放課後の子どもたちが集まってくる民間の支援団体「こどもの里」。様々な事情を抱える家庭が多い西成の地で、45年間に渡って子どもたちの居場所となってきた。取材に訪れると、子どもたちが元気いっぱいに駆け寄ってきた。

子どもたち:
あんた誰~、あんた誰~!

こどもの里 スタッフ:
まず自分が名乗りなさい

誰でも無料で利用できるこの施設。運営は寄付などで成り立っている。利用する子どもたちはスタッフと一緒に遊んだり宿題をしたりと、まるでもう一つの家族のようだ。

(Q. 子どもの元気がなかったら分かる?)

こどもの里スタッフ:
なんとなく(そんな雰囲気を)出してきたり、話したそうに寄って来るとか、自分からイライラを出してきて、様子がおかしいな…と思ったら「何かあったん」ってこちらから声かけて話を聞く時もありますね。小さい頃から知ってる子どもたちが、中高生になってもまだこの場所にやって来ます

多くの時間を一緒に接するからこそ分かる、子どもたちの“わずかな変化”。救われているのは子どもだけではない。

(Q. 親にとってはどういう場所?)

子どもを預けている母親:
安心できる、すごく助かる。自分がしんどい時とか1人になりたい時とか、晩ご飯をお願いしたり。子どもだけじゃなくて親のことも考えてくれるので、誰にも相談できへんことは、ここに言ったりとかも全然あります

「こどもの里」以外にも、西成区ではこうした子どもの居場所が他の地域より多く存在してきた。子どもの居場所を運営する団体は行政との関わりも深く、保護や支援が必要な子供について情報共有がスムーズに進んでいる。行政任せではなく、地域住民が支援の中心となっている。

こどもの里 荘保共子理事長:
お母さんたちもしんどい訳だからね、すぐ「お母さん、どうしたん」って声を掛けることができるし。それは区だけじゃ無理でしょ。西成区がそうなっているのは学校の先生、地域の人を含めて、(子どもたちを)見ている人がお互いに連絡を取りながらやってるからこそ、できている

西成区の担当者も、民間との連携によって”深刻な事態”になる前に介入しやすいと話す。

西成区子育て支援担当課 宇野新之祐課長:
西成区は身近なところでSOS情報をキャッチできる体制が構築できているので、近年になって急に虐待の相談件数が増えるといったことがないのかな…と。保護者や子供の負担にならないように、自然な声掛けができている。それが、時期を逃さずに必要な機関の支援につなげていける

摂津市で起きた痛ましい虐待事件から1年。悲惨な事件を未然に防止するために、保護者や自治体に”任せきり”にしない、地域全体での「見守り体制」を構築することが求められている。

(児童相談所 虐待対応ダイヤルは「189」※通話料無料)

(関西テレビ「報道ランナー」9月1日放送)

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