週刊誌の表紙がスパイ容疑の証拠になるのだろうか?

トランプ邸をスパイ容疑で捜索…押収品の写真公開

米司法省は、トランプ前大統領のフリリダ州の私邸をスパイ容疑などで捜索したが、その際の押収品の写真が30日公表された。

トランプ邸からの押収品
トランプ邸からの押収品
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写真には、じゅうたんの上に広げられたさまざまなファイルの中に「機密」や「最高機密」という文字が見られたが、表紙だけで機密書類そのもののは写っていない。

それよりも目を引いたのは、画像の右端に半開きの段ボールの箱に6枚の額が重ねられており、一番手前のそれは週刊誌TIMEの表紙を装丁したもののように見えることだ。

トランプ邸からの押収品
トランプ邸からの押収品

米国のマスコミもこれに気づいて調べた結果、TIME誌の2019年3月4日号の表紙であることが分かった。

その表紙は、大統領執務室のトランプ大統領(当時)の背後の窓から民主党の大統領候補に名乗りをあげた15人が覗き込んでいるというもので「トン、トン…」と窓をノックする擬音が文字化されていた。

TIME誌2019年3月4日号
TIME誌2019年3月4日号

当時米国では2020年の大統領選へ向けて野党民主党の候補者選びが始まるところで、彼らがトランプ大統領に交代を促してホワイトハウスの窓を「トン、トン…」とノックしているという趣旨の表紙だった。

トランプ氏はこれまで35回TIME誌の表紙になっているが、この表紙がなぜ額装されて保存されてたのか、あるいは段ボールの残り5枚の額もトランプ氏の表紙の額装なのかどうかは分からない。

「TIME誌」の額装を押収する意味は何なのか…

それよりもこの表紙がどのような意味で司法省の捜索で押収されたのか、米国のマスコミも理解できないようでこれまでのところそれを解明した記事は見当たらない。

司法省は今回「スパイ容疑」「司法妨害」「証拠隠滅」の3容疑でトランプ氏の邸宅を捜索したわけで、捜索令状もその容疑を裏付ける証拠品の押収を認めているはずだが、TIME誌の表紙がその3容疑をどう裏付けるのか私には考えが及ばない。

この写真についてトランプ前大統領は31日、自ら主宰するSNS「トルース・ソシアル」に次のような談話を発表した。

トランプ前大統領
トランプ前大統領

「FBIのマール・ア・ラゴの捜索はひどいものだ。床に書類を乱暴にばら撒いて(多分私がそうしたと見せかけたのだろうが)それを写真に撮って公表するなんて。機密文書だと思ったのだろうが、幸いなことに私は機密解除していたのだ!」

大統領には「機密」を解除する権限も

合衆国大統領は情報を「機密」指定したり解除する権限を有するので、例え機密文書を機密の適用範囲外の私邸に持ち帰っても、自動的に機密指定が解除される「Standing Order」という内規で許されると解説するメディア(ニュースサイトIndependent Sentinel8月13日)もあり、歴代のオバマ大統領やクリントン大統領も機密文書を私邸に持ち帰っていたという証言もある。

トランプ大統領の私邸で見つかった文書にそうした内規が適用されるのかどうか、今後司法省とトランプ側で厳しい法律論争が交わされることになると思われるが、それとは別に私には押収品の中のTIME誌の存在が気になるのだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。