私たちが日常的に使用しているスマートフォンが太陽の活動によって使えなくなるかもしれない…。

災害予測に必要なデータが不足

総務省は、100年に一度起こる最悪の太陽フレアが起きた場合、停電の発生、GPSやスマホなどの通信に影響が及ぶとして、太陽の活動が活発化する2025年にむけて宇宙天気予報を充実させる方向で検討に入っている。

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最新の研究によると、100年に一度級を超える巨大爆発も過去に繰り返し発生したしていたことが明らかになりつつある。

では、過去最大規模の爆発が今の時代に発生するとどうなるのだろうか?
実は、この問題への回答は難しい。

その理由は、過去に起きた太陽嵐の最大値を推定できないからだ。

こうした中、ある調査チームに注目が集まっている。

“南極の氷”で過去に起きた磁気嵐の影響を調査

2022年4月、日本有数の豪雪地帯の富山県立山の雪深い山奥に、名古屋大学・宇宙地球環境研究所准教授・栗田直幸さんの調査チームがいた。栗田さんの専門は、地球惑星科学(地球化学、気象・気候学)だ。

氷の掘削作業を行う栗田さんの調査チーム
氷の掘削作業を行う栗田さんの調査チーム

栗田さん一行は、11月に出発する「第64次南極観測隊」に参加して南極大陸の氷を掘削し、南極の氷から過去に発生した太陽嵐を復元することを計画している。今回は、その掘削訓練を立山で行っていた。

特殊な機械で地表奥深くの氷を採取
特殊な機械で地表奥深くの氷を採取

過去に発生した巨大太陽嵐の痕跡は、南極などの氷床に残されている。

太陽の表面で爆発が発生すると、大量の粒子が宇宙空間に放出される。そして、この粒子が地球の大気と衝突すると宇宙線生成核種と呼ばれる化学物質が生成され、降雪などによって氷床に運ばれる。

そのため、南極の氷には過去に発生した太陽嵐の履歴がタイムカプセルのように保存されている。

採取した氷をすぐに計測して記録する
採取した氷をすぐに計測して記録する

2025年に向けて太陽活動が活発化する中、南極の氷から太陽嵐の規模を復元する仕組みが確立できれば、将来起こりうる最大級の磁気嵐を推定でき、スマホや通信への影響を軽減できるようになる。

2024年には磁気嵐のリスクデータを入手

栗田さんが所属する名古屋大学の宇宙地球環境研究所(ISEE)では、過去から現在までに発生した太陽嵐の実態の解析に取り組んでいて、平安時代に発生した巨大爆発の復元にも取り組んでいる。

栗田さんの調査チームは、第64次南極地域観測隊に参加して南極氷床上で氷掘削作業を行い、宇宙天気の観測が始まった1950年代から現在までの期間、南極の氷に記録されている太陽嵐のデータを取得することを計画している。

これら新たに採取するデータを既存の宇宙天気観測の結果を比較することで、氷データから太陽嵐の規模を推定することが可能になる。

名古屋大学 栗田直幸准教授
名古屋大学 栗田直幸准教授

名古屋大学 栗田直幸准教授:
南極大陸の沿岸域と内陸部の2カ所で氷の掘削作業を行い、約70年前にあたる1950年代に、どのくらいの量の太陽の粒子が地球上に降り注いだのかについて、データをとることにしています。

太陽活動が最大となる2025年をこれから迎えるにあたり、今回の調査によって太陽活動が地球気候に及ぼす影響をより理解することができると期待しています。

データは世界的にも応用できると見られているため、栗田さんの調査チームの研究に注目が集まっている。

訓練の場所は日本有数の豪雪地帯だが、南極大陸はさらに極限世界が広がる
訓練の場所は日本有数の豪雪地帯だが、南極大陸はさらに極限世界が広がる

〈名古屋大学 宇宙地球環境研究所 栗田直幸准教授〉
第60次南極観測に参加。過去には極域から赤道域までの広域で観測活動を実施。専門は、地球惑星科学(地球化学、気象・気候学)。現在は、太陽活動が地球気候に及ぼす研究を進めており、過去の太陽活動の復元研究も実施している。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局国際取材部デスク
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長などを経て現職。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。