伝統技術の、手すき和紙作り。紙のまち・愛媛県四国中央市では、この手すき和紙職人が2人にまで減っていた。
そんな中、2022年4月に大学を卒業したばかりの若者が、手すき和紙職人として新たに加わった。伝統の技を受け継ぎながら、自分のスキルを生かした和紙作りに挑む。

300人から2人に減少…23歳の若者が手すき和紙職人目指す

古びた窓から漏れる、紙をすく小気味良い水の音に、鳥の鳴き声が心地よく重なる。

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四国中央市新宮町に、2022年4月オープンした「多羅富來(たらふく)和紙」の紙すき工房。

多羅富來和紙 代表・大西満王さん:
水の動き方がきれいになって、きれいな紙ができた時が一番うれしいですね

工房の主は、新人の手すき和紙職人・大西満王さん(23)だ。

大西さんは、三島高校の書道部出身。毎年夏に行われる、書道パフォーマンス甲子園にも出場した。
紙のまちに生まれ、書道に関わったことで、大学で紙産業について学ぶかたわら修業を積み、手すき和紙職人の道を目指した。

多羅富來和紙 代表・大西満王さん:
手すき和紙が今の製紙業の発展の基になっているが、その手すき和紙が残り2軒ということで、このまま行けば四国中央市から手すき和紙がなくなってしまうっていうのが分かって

紙のまち・四国中央市。50年ほど前は手すき和紙作りが盛んで、300人ほどの職人がいたという。しかし、時代の流れとともに職人の数は減少。大西さんが工房を開くまでは、わずか2人にまで減っていた。

手すき和紙職人として安定した収入を得るのは、並大抵のことではない。
2022年で72歳になる、地元の手すき和紙職人・藤原さんも…

藤原製紙所・藤原俊二さん(72):
最初は正直言えば、反対したんですけどね。僕らで多分終わりだと思ってたのが、何とかどんな形にしてもつながっていくというのは、今まで先輩がやってこられたものを何とかつなげたというだけでも、うれしいことなんで

廃業した和紙工房で“修行”「父親がすいてるかと…」

周囲の理解を得て、手すき和紙職人への道を切り開いた大西さん。工房の確保について、修業先だった四国中央市の「紙のまち資料館」に相談した。紹介されたのが、四国中央市新宮町の日浦地区にある、手すき和紙工房だった。

工房を貸した高橋信也さん:
大西君が大学4年の、もう卒業するという春ごろだったと思うんですけど、突然ですけど「貸してください」「使わせてもらえませんか」という話から始まりました

ここは元々、高橋さんの父・只夫さんの和紙工房で、17年前に廃業したあとは家族の物置き小屋になっていた。

工房を貸した高橋信也さん:
(工房を閉めて)十何年経ってますから。親が使ってた道具とか機械とかが、ちゃんと動くんかなと。新規に交換しないといかんのかなというような、そんな心配がありました

工房には、コウゾやミツマタを煮て柔らかくする「釜」や、繊維を洗い流す「さらし場」、そして「ビーター」と呼ばれる、柔らかくなった繊維を細かくほぐして切断する機械も残っていた。

若い大西さんの熱意に押される形で、水の確保や部品の交換など、一緒に工房を復活させた高橋さん。大西さんが和紙をすく姿に目を細める。

工房を貸した高橋信也さん:
時々ね、父親がすきよんじゃないかと思う時があるんですよ。音が聞こえてくる時。同じです。すいているタイミングも同じだし。喜んでいると思います

強みの「書き手目線」 クラファンで新たな取り組みにも挑戦

すいた和紙を乾かす設備は、四国中央市の中心部にある実家に設備を構えた。

手すき和紙職人としてスタートしたばかりの大西さん。1日にすく和紙の枚数は、まだ300枚程度だ。

しかし、大西さんには他の職人にはない、自分の和紙に大きな価値を持たせる、「書道」のスキルがあった。

三島高校書道部だった大西さんは、現在、書道家としても活動。作品は大手新聞社主催の書道展に入選するほどの腕前だ。

多羅富來和紙 代表・大西満王さん:
自分ですいた紙を自分で実際に書いてみて、もうちょっと字のにじみをきれいにしたいとか、筆の引っかかりを良くしたいとか、自分である程度分かってくるので、そこが強味かなというふうに思っています。オーダーメイドで紙を作りだすという。
もうちょっと書き手というか、使っている人と距離を詰めて、こういう紙がほしいという要望に素早く答えていけたら

大西さんは、風前の灯火になっていた四国中央市の手すき和紙作りに、新たな息吹を吹き込もうとしている。工場見学に訪れた家族連れには紙すき体験をしてもらい、若い世代に和紙の魅力を知ってほしいと願っている。

また、大西さんは充実した和紙作りができる環境を整えようと、8月末までクラウドファンディングを活用して資金調達を行うなど、新たな取り組みにも挑戦している。

多羅富來和紙 代表・大西満王さん:
いまお借りしてる所に「すき桁(げた)」とか「すき簀(す)」があるんですけど、老朽化して修繕が必要な状態になっているので、ご支援いただいたお金で桁とか簀とかを新調していけたらというふうに思ってます。
自分の技術面もそうですし、積み重ねていかなければならないので、何年、何十年という月日にはなると思うんですけど、自分が歳とっていくことに連れて、紙も良くなっていくのを目指していけたらと思います

自分にしかできない和紙作りを目指して。新人手すき和紙職人は、きょうもリズミカルな水の音を奏でる。

(テレビ愛媛)