政権発足から約10カ月、比較的高い数字で推移してきた岸田内閣の支持率が急落している。政権の根底にある課題や問題点とは何か。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、支持率急落の原因と今後の打開策を徹底議論した。

「聞く力」は当たり前 「無策無敵の内閣」は変われるか

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新美有加キャスター:
FNNが8月20日、21日に行った世論調査では、4つの項目に厳しい声。旧統一教会問題で「説明が納得できない」は81.2%、やはり旧統一教会問題への説明不足が支持率低下の原因か。

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授:
恐らくそう。物価高は前回比で改善、コロナ対策の「評価しない」増加も3.8ポイント。これまで「聞く力」として実行力のなさも逆にプラスに捉えられていたが、旧統一教会問題にすら何もできないのかという批判。官邸からも知恵が出ない。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
「聞く力」なんて当たり前で、聞いた上でどう決断するか。皮肉なのは、実行力を初めて目に見える形で示したのが国葬決定と内閣改造の前倒しだが、両方が裏目に出ていること。準備不足。例えば国葬の問題も、裏で野党に話し表では国会で話し、と入念な準備のもと決断すればよかった。

反町理キャスター:
日本維新の会の馬場代表が「無策無敵の内閣」という言葉を国会で使った。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
うまいことを言うなと。岸田さんは総裁選、総選挙、参院選を勝つまではとにかくエラーをしないことが第一だった。いわゆるハネムーン期間は3カ月100日と言われるが、コロナ第6波やウクライナの問題もあり、それが異例に長かった。それが終わり、ここからが正念場。

旧統一教会をめぐる岸田首相の対応には、想像力と歴史観が欠如

新美有加キャスター:
旧統一教会をめぐる対応。8月2日、茂木幹事長は自民党として組織的な関係がないことを確認したと述べた。内閣と党役員人事の刷新後も、閣僚などから教団との接点が相次いで明らかに。24日、岸田総理が、党としてもう1段踏み込んだ実効的な体制と国民の不信を払拭する方策を指示していくと発信。現在、自民党ではアンケート調査を実施中。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
一気にこの対応をしていれば全然違っていたが、少しずつやった。国民が敏感に感じるところへの認識の甘さ。

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授:
自民党は、党本部としてあまり議員の懐具合や選挙事情に首をつっこまないという点に原因がある。党内の了解を得るために時間は必要だったかと。甘いかもしれないが、自民党からするとすぐには対応できなかっただろうと思う。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授
谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
この手の危機では初動として必要なことが3つある。過小評価をしない、隠さない、速やかに手を打つ。内閣改造繰り上げで速やかにしたつもりだったが、見事に過小評価をしてしまった。想像力の欠如、歴史観のなさ。まずはこの際、洗いざらい言うこと。その上で「ここまでは防げないのではないか」という国民の良識に委ねる。

反町理キャスター:
自民党だけで済むかどうか。立憲民主党は23日、党内調査の結果を公表。枝野幸男前代表ら14人に旧統一教会との接点があった。旧統一教会とは認識しておらず、今後は一切関係を持たないように徹底していくと。数においては桁が違うが、ガバナンスコードとは自民党だけの話か。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
立憲にも当てはまる。立憲もこれ以上問題が出て来ないことが絶対の条件になる。だが、先ほど岸田さんについて想像力、歴史観が足りないと話した際、念頭にあったのはリクルート事件。野党の政治家も未公開株を受け取っていたが、実際に批判を浴びたのは自民党ばかりだった。自民党が先頭を切って最も厳しいガバナンスコードを作るぐらいの勢いでいかなければ。

反町理キャスター:
与野党間でルール作りの競争のようになるかもしれない。かつての森友・加計学園の問題のように、国会において与党が何を言っても、野党はずっと「疑惑は解明されていない」と言うようになるか。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
政策遂行の場合でも、そっちの問題を解決しないでやるのかという話になり、足かせになる。実態を正直に明らかにしたと思われる調査を見せないと、なかなか先に進まない。真剣に取り組んでほしい。

賛否両論の安倍元首相の国葬 岸田首相は堂々と説明を

新美有加キャスター:
7月8日に安倍元総理が襲撃されて亡くなり、14日に国葬の考えを岸田総理が述べた。理由として、憲政史上最長の内閣の重責を担ったこと、内政・外交で大きな実績を残したこと、海外首脳らからの追悼の意が挙げられていること。22日に閣議決定したものの、賛否ともに噴出している現状。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
政治家の評価は相対的なもの。特に安倍さんの場合は国論を二分することをやり、半分の人は反対する。それでもなお国葬は必要か。憲政史上最長の内閣だったこと、諸外国が喪に服したことも基準にはなるが、絶対的な基準にはなり得ない。ならば内閣・自民党葬なら穏やかに進んだのでは、となってしまう。

反町理キャスター:
では、国葬にした背景には政治的な思惑、保守層取り込みなどがあると?

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
そういう指摘もあるが、敬意の表し方を総合的に考えたということでいいと思う。ひとつ、野党も出席できる環境作りをどれだけしたかは問われる。

反町理キャスター:
亡くなって1週間経たないうちに国葬を決めたタイミングは。

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授
中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授:
選挙演説中に撃たれたことで、民主主義の犠牲者をちゃんと弔わなければ民主主義に傷がつくという論調があった。岸田総理は野党も納得してくれると考えたと思う。ただ保守派を取り込むとか、政治的な思惑の点で冷静な判断ができなかった可能性もあるかと。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
タイミングはよかった。国葬の適不適の論点とは別に、遅くなればなるほど保守派は岸田さんを突き上げる。ただ反対派に対し、国葬のある9月27日までの間、少なくとも現時点までは丁寧にプロセスを踏んだ形跡が認められない。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
なぜ国会に出て説明しないのか、何を恐れているのか。堂々と言えばいい。

リベラルな印象の岸田首相、実は相当保守的な部分も

新美有加キャスター:
岸田内閣の支持率回復に向けた、今後の見通しや課題について。見本として、5年5カ月続いた小泉内閣では田中真紀子外相の更迭などから最低となったが、北朝鮮訪問、内閣改造、拉致被害者の帰国などで回復。第2次安倍内閣では加計学園問題を受けて最低となったが、内閣改造、北朝鮮問題と少子化を焦点とした国難突破の解散、選挙公約だった経済政策パッケージを打ち出して回復。

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授:
私は小泉内閣と安倍内閣では支持の構造が相当異なっていたと見る。小泉内閣は郵政民営化や抵抗勢力と戦うといったフレーズで無党派層にアピールし、高投票率で勝っていた。安倍内閣は岩盤支持層をきちんと固め、公明党とも一緒に組織戦をやり、低投票率で勝っていた。では岸田内閣は。

反町理キャスター:
谷口さんの研究室と朝日新聞の調査で、安倍元総理と岸田総理の政策方針を国政選挙ごとに比較した資料。憲法改正、防衛力強化、集団的自衛権の行使容認についての流れを見たとき、岸田さんの岩盤はどこにあると考えるか。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
むしろ安倍さんの岩盤はそれほど強かったのか。岸田さんは宏池会だからリベラルで、安倍さんは清和研だから保守という図式が世間で通用しているが、私はそんなに変わらないと見ている。選挙の出口調査を見ても投票率の構造は変わっていない。

反町理キャスター:
岸田さんには実は保守的な部分も十分あるということは、国民に伝わっているのか。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
伝わっていない。右は安倍さんにやってもらい、自分は左の方にという役割分担ができなくなった今、岸田さんは左右どっちに踏み込んでいこうかという局面。

政権の命運を左右する原発政策 岸田政権はチャンスをものにできるか

新美有加キャスター:
岸田政権の原発政策。2023年夏までに最大17基の原発再稼働、次世代型原発の開発・建設の検討を発表。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
旧統一教会の問題がある中、むしろ喫緊の課題であるエネルギー問題を一気に転換するチャンスと踏んだのかも。憲法改正や防衛費の問題にしても、重要な問題について強硬なことをやらないイメージがある点でチャンス。そこまで腹が据わっていたら大したもの。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員
橋本五郎 読売新聞特別編集委員

中北浩爾 一橋大学大学院社会学研究科教授:
原発の問題は大きな転換。地元同意のハードルも高く道のりは長いが、これをやり切れるかが、政権の命運を左右する。世論の反発を買わないよう、国民生活に関係する政策だという打ち出し方ができるか。

谷口将紀 東京大学大学院法学政治学研究科教授:
原発政策に関しては内閣成立時から狙っていたと思う。事故以来、再稼働賛成の世論が一番増えたのが現在。ただ下準備の段階で、ちゃんと根回しなどをしてきたか。

反町理キャスター:
見通しが立った中でやっているのか。政権の側からの説明はまだ出ていない。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
再生可能エネルギーの進捗状況、地球温暖化の問題、計画停電を強いるわけにはいかないこと、その中で今とり得る方策、順々に説明すればいい。車座方式で国民に呼びかける気持ちでやってくれたら。

BSフジLIVE「プライムニュース」8月29日放送