日本の住宅文化の基礎ともいえる畳は、今や国産ではなく、中国からの輸入が8割ということをご存じだろうか。
備後地方に伝わる伝統の畳づくりの技法を、イグサ農家と大学で守る取り組みを取材した。

畳表(たたみおもて)のもと…イグサ栽培が存続の危機に

5月末の広島・福山市本郷町。青々と緑が広がる田んぼに植えられているのは、畳の原料になるイグサ。

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そんなイグサの田んぼで作業をしていたのは、畳表の製造卸売業を営む佐野商店の佐野達哉さん。していた作業は…

佐野達哉さん:
網をあげる作業です。イグサがどんどん伸びてくるので、イグサが倒れないようにかけた網の位置をあげています

成長すると170センチ程になり、7月上旬に収穫されるイグサ。備後地方は、日本屈指の高級畳表の産地。
しかし、イグサ栽培は今、存続の危機に直面している。

佐野達哉さん:
イグサを栽培しているのは、福山市は企業が2社、農家が尾道市と三次(みよし)市の2軒のみとなりました

十数年前には、福山市内の生産者がゼロになったこともあった。そんな備後イグサの存続に向け、立ち上がったのが佐野さんの父親・良信さん。

佐野達哉さん:
備後表(びんごおもて)は国宝や重要文化財に重宝されますので、さすがに産地の福山市に農家がゼロなのはまずいということで、栽培を始めたそうです

良信さんが手がけたのは、イグサ栽培だけではない。畳表の生産に使われる機械、織機の再生も手掛けた。

佐野達哉さん:
「動力織中継六配表(どうりょくおりなかつぎむはいおもて)」という織機で、六配(むはい)というのは幅の広い畳表で、最高級品としての畳表が織れる織機ですね

通常の畳表は端から端まで1本のイグサで織るが、「中継(なかつぎ)」という織では、2本のイグサを真ん中で継ぐ。この「中継」は、備後地方が発祥だ。

佐野達哉さん:
イグサの長い良いところだけ使えるので、青さも端から端まできれいな畳表が織れますので、それも含めて最高級品といわれていますね

その織り方の難しさや仕上がりの美しさから、「中継」の備後表は、宮城県の瑞巌寺(ずいがんじ)といった国宝や重要文化財などに使われている。

畳づくりの継承に思わぬ助っ人が…大学教授とコラボ

そんな備後表の存続に力を注ぐ佐野さん。今は心強い協力者がいる。佐藤圭一さん。福山大学工学部建築学科の教授だ。

佐野さんと佐藤さんは、2018年に畳の生産に関わる人たちと共に「備後表継承会」を設立。備後イグサによる備後表の保全と継承を目的に活動を始めた。その背景には、佐藤さんの危機感が…

福山大学・佐藤圭一教授:
先代や今の佐野さんが、もしかしたら5~6年前に備後表がなくなっていたのではないかと。備後表がなくなるというインパクトは、日本の国産の畳表がなくなるくらいのインパクトがあって、もっと言えば日本の畳文化がなくなってしまうんじゃないかというところまで行ってたと思います

そこで佐藤さんは、「福山大学備後地域遺産研究会」を立ち上げ、学生と共に、イグサの栽培から建築施工まで全プロセスの保全継承に取り組み始めた。
農家の倉庫にあった織機を再生して改良し、動く状態で保存。

そのプロセスも記録に残した。
さらに、手で織る中継表(なかつぎおもて)の織機も製作。

組み立て図なども残している。

織った畳で茶室を製作…伝統文化を守る

こうした織機で織った畳を設置したのがこちら。

佐藤圭一教授:
ここは育志菴(いくしあん)といって、福山大学未来創造館の茶室になります。

佐藤圭一教授:
職人さんたちに指導してもらいながら、学生たちが大学の織機で織った中継ぎの畳表です。

佐藤圭一教授:
自分たちでイグサを栽培するところから関わらせていただいて、我々建築学科なので建築まで持って行けたのは非常に感動しています

イグサの栽培から、畳表の製造まで研究を続けてきた学生たち。建築に携わる人が畳を知ることで、畳文化が広がることを佐藤さんは期待している。

佐藤圭一教授:
今、畳は中国産が8割を占めていて、殆ど輸入に頼っています。国産がいつなくなってもおかしくないような状態になっていると思います。
備後表というブランドは絶大なものがありまして、業界にとっても備後表を守るということが日本の国産の畳表を守ることにつながって、ひいては日本の建築文化の核心でもある畳文化そのものを、備後表を守ることによって残すことができるのではないかとおもっています

畳という身近なものまで国産品が存続の危機に陥る中、若い力の結集で伝統ブランドが受け継がれようとしている。

(テレビ新広島)

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