アフガニスタンでイスラム武装勢力タリバンが首都カブールを制圧し、実権を掌握してから8月15日で1年が経った。女性に対する抑圧は強まり、国際テロ組織アルカイダの最高指導者が国内に潜伏していたことも判明。タリバンの率いる暫定政権を承認した国はいまだなく、中央銀行の海外資産は凍結されたままだ。

経済難・食糧難が深刻化するなか、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)アフガニスタンの副代表を務める高嶋由美子さんと、広報責任者のピーター・キャスラーさんが取材に応じた。

UNHCRアフガニスタン 高嶋由美子副代表
UNHCRアフガニスタン 高嶋由美子副代表
この記事の画像(18枚)

「冬をどう越すのか分からない」進展見られず不安続く

UNHCRアフガニスタン 高嶋由美子さん(以下、高嶋さん):
アフガニスタンへ赴任するのは今回が3回目です。2001年に赴任したときは皆さん希望に燃えていました。新しい国で頑張っていこうという雰囲気が感じられたのです。しかし2014年に赴任した際は、経済が停滞し汚職がはびこり士気は低かった。今回2022年3月に赴任して感じたのは、閉塞感です。2021年の冬には、この冬をしのいだら何かが起きるんじゃないか、わずかな希望があったと思います。でも今、まったく進展がみられない。これからどうやって生きていくのか、人々は大きな不安を抱えて毎日を過ごしていると思います。

支援活動にあたる高嶋さん(提供:UNHCR)
支援活動にあたる高嶋さん(提供:UNHCR)

――国民の半分以上に支援が必要と指摘されている。実際の状況は?

高嶋さん:
アフガニスタンに9つの事務所を置いていますが、冬をどう越すのか分からない、という話を多く聞きます。アフガニスタンの冬は寒く、雪が1~2メートル積もる山岳地帯が多いのですが、暖かさをとる火をどう焚くか見通しがつかない。教育についても女子について注目されていますが、男の子だって学校に行くより、仕事をしなければ食べていけない状況です。

2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)
2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)

――もっとも伝えなければならないと感じることは?

高嶋さん:
私はアフガニスタンという国が大好きです。40年の間、紛争や戦争、そして自然災害があるなかで、人々がいかに強く生きてきたか。そうしたなかでも人々の優しさに触れてきました。1週間に1度、地域に行って帰還した人々の家を訪ねると、必ずお茶を出してくださいます。本当に何もないのに、自分たちが食べるためのパンを出してくれ、「よく来てくれたね」と話が始まる。人間味のある人々がここにいます。その人達に対して国際社会は何をできるのだろうと自問しています。貧困による栄養不足で子どもの体や脳が十分に成長しないスタンティング(=発育阻害)は、アフガニスタンの人々にとっては目の前にある大きな問題です。同じ人間として、なんでアフガニスタンに生まれたからそういうチャンスがないのか。この格差はおかしいと思いますし、日本に生まれたからには何かしたいと思っています。

2022年3月・東部ジャララバード(提供:UNHCR)
2022年3月・東部ジャララバード(提供:UNHCR)

深刻な貧困「本当に何も売るものがない」

――我が子を売るという決断をした家族も出ている。貧困の現状について。

高嶋さん:
地方家庭では、まず男性が食べ、その残り物を女性と子どもが食べるということがよくあります。女性達が食べるのは草などを煮出したもので、一日に一回食べられれば良いほうだ、という話がよく聞かれます。パンだけだとすぐ食べてしまうから水に浸して食べています。国内の80パーセントの人々が農業をやっていますが、耕作用の種を食べてしまって植えることもできない。土地や農機も売ってしまって、もう本当に何も売るものがないとみなさん仰っています。今年の冬をどうやって過ごすのかが皆さんすごく不安なところです。そうしたことが今の時代に起こっていること自体が本当に信じられないと思いますし、こんな世界ではいけないんじゃないかなと思っています。

2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)
2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)

――アフガニスタンの冬について。

高嶋さん:
11月中旬から多くの地域で雪が降り始め、1月2月まで積もります。家は土泥を使って作るのですが、雪の重みで崩れてしまうので、夏の終わりから秋にかけて、補強して準備をしなくてはなりません。しかし、その金がないという方も多いです。

国土の4分の3は山岳地帯(提供:UNHCR)
国土の4分の3は山岳地帯(提供:UNHCR)

また、6月に起きた地震の影響で住むところがない人も多くいます。地震で家を失った人々の支援をしていますが、山が多く道路が無いため、資材を運ぶのも困難。余震が続いているため、支援が滞っているところもある。ウクライナの状況から資材が高騰しているほか、そもそもの支援がアフガニスタンになかなか向かっていない。タリバンによる暫定政権には、多くの国が支援をしにくい状況もある。これからどうなってしまうんだろうと不安を感じています。

高嶋さんは週一度、国内各地の家庭を訪問(画面奥に高嶋さん 提供:UNHCR)
高嶋さんは週一度、国内各地の家庭を訪問(画面奥に高嶋さん 提供:UNHCR)

“焼け石に水”ではない 活動の意義は

――切迫しているにもかかわらず支援が減ってきているという状況があるのか?

高嶋さん:
なかなか注目が集まらないというのが大きな要因と思っています。本当に大変なことが起きているにも関わらず、ニュースになりにくいのかなというのが大きい。いま何とかしなければもっと酷いことになってしまう。どうやって打開していくのか難しいところもあります。

2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)
2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)

アフガニスタンの人々は強い人々です。いままでも、しなやかに強くたくさんの困難を乗り越えてきました。そのような人々に対して、私たちはアフガニスタンを忘れていないよ、と皆様から伝えていただければと思います。国連の人道支援活動も、国民の半分が人道支援の必要な状況においては、焼け石に水と思われるかもしれません。でも、アフガニスタン国内でアフガンの人々に寄り添って一緒に活動すること、そして人口の半分が女性であり、女性の参加なしには平和は訪れないということを、私どもの活動を通して暫定政権に伝えていくことは大切なことだと確信していますし、国連がアフガニスタン国内で活動する意義でもあると思います。

2022年3月・南部カンダハル(提供:UNHCR)
2022年3月・南部カンダハル(提供:UNHCR)

先日、ジャララバード(アフガニスタン東部)に行った際に、中村先生の記念公園にお花を添えてきました。平日なのに多くの人々が中村先生の功績をたたえていました。ジャララバードの街には何軒かお店の名前が「中村」というのがあるぐらい、アフガンの人々の日本に対する印象はとてもいいのです。日本の皆様にも、ぜひ同じ人間としてアフガンの人々のことを気にかけていただければと思います。アフガンの人々から学べることがたくさんあります。そしていつか格差のない世界になっていければと思います。

2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)
2022年6月・西部ヘラート(提供:UNHCR)

支援は「時間との戦い」 行き渡らないと“恐ろしい選択”も…

一方、UNHCRアフガニスタンの広報責任者、ピーター・キャスラーさんは、支援活動は時間との戦いだと強調する。

UNHCRアフガニスタン シニアコミュニケーションオフィサー ピーター・キャスラーさん
UNHCRアフガニスタン シニアコミュニケーションオフィサー ピーター・キャスラーさん

――支援の現状について。

UNHCRアフガニスタン ピーター・キャスラーさん(以下、キャスラーさん):
2021年8月15日より前から、アフガニスタンは世界で最も貧しい国のひとつでした。現在は国際的な援助が減り、暫定政権には制裁が課されています。食料や燃料価格の上昇は、状況をさらに悪化させました。ことし支援を必要としているアフガニスタンの人々は約2400万人。UNHCRはアフガニスタンの職員を増員し、支援を届けるため急いでいます。

政変後UNHCRによる最初の空輸による救援物資が到着(2021年11月2日・カブール   提供:UNHCR)
政変後UNHCRによる最初の空輸による救援物資が到着(2021年11月2日・カブール   提供:UNHCR)

――人権の状況について。

キャスラーさん:
人権については暗たんたる状況で、懸念すべきものです。女子校は7年生以上から閉鎖され、女性の雇用も、移動の自由すら制限されています。この状況が速やかに覆されない限り、今後何年にもわたり悪影響を及ぼし続けます。医療も教育も経済も、女性なしには機能しません。暫定政権がそのことを認識し、世界中のほとんどの国で認められている権利を女性に与えることが重要です。私たちは女性達にプログラミングを教えるほか、ニワトリの孵卵器(ふらんき)やソーラーパネルを提供するなどしています。

UNHCRによる支援活動(2022年6月・西部ヘラート 提供:UNHCR)
UNHCRによる支援活動(2022年6月・西部ヘラート 提供:UNHCR)

――11月からは冬を迎えるが?

キャスラーさん:
現地は標高1500メートル以上の山岳部が多く、気温はマイナス15度まで下がります。人々はすでに栄養失調に陥っていて、泥やレンガで作られた家の断熱は十分ではありません。伐採が進んだ地域では薪を探すのも困難で、人々は乾燥した糞尿や動物の糞を探し、それを燃やしています。冬はあまりに寒いため一日中家の中で過ごすのも珍しくありません。ペットボトルやポリ袋など、あらゆる種類のプラスチックも燃やされていて、呼吸器系の疾患も懸念されます。多くの子どもたちが、食べられるものや、燃やせるものを探すためゴミを漁っています。親が子どもたちをゴミ捨て場に送り出しているんです。

UNHCRによる支援活動(2021年10月・カブール 提供:UNHCR)
UNHCRによる支援活動(2021年10月・カブール 提供:UNHCR)

本当に時間との戦いだと思います。毛布やビニールシート、テント、現金など、あらゆるものを提供しなければなりません。アフガニスタンに十分な人道的援助が行き渡らない場合、家族は恐ろしい選択をすることになります。金銭を得るために娘を嫁がせたり、他の子どものいない家庭に息子を売ったり、あるいは自分の臓器を売ることを考えるようになるでしょう。

【取材:FNNバンコク支局長 百武弘一朗】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(18枚)
百武弘一朗
百武弘一朗

FNN プロデュース部 1986年11月生まれ。國學院大學久我山高校、立命館大学卒。社会部(警視庁、司法、宮内庁、麻取部など)、報道番組(ディレクター)、FNNバンコク支局を経て現職。