老いや認知症をテーマに演劇をする岡山の劇団「OiBokkeShi(オイボッケシ)」。認知症患者などが出演する新しい舞台が、7月に岡山・奈義町で上演された。演劇を通して伝えたかったこととは。

老いや認知症がテーマの劇団 新作の舞台は…

7月17日、劇団「OiBokkeShi」の新作の幕が上がろうとしていた。
96歳の看板俳優とともに舞台に立つのは、認知症の人や介護する人、さらに脳性まひの女性やコミュニケーションが苦手な若者などで、ほとんどが演劇経験はない。

劇団「OiBokkeShi」の新作には認知症患者なども出演
劇団「OiBokkeShi」の新作には認知症患者なども出演
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老いや認知症をテーマに、数々の作品を世に送り出してきた劇団の主宰・菅原直樹さん(39)は、これまで誰も見たことがない舞台に挑戦した。

菅原直樹さん:
認知症だったり、障害だったり。それぞれ生きづらさを抱えているのではないか。僕自身も感じているところがあるが、そういった皆さんに参加してもらって、舞台の上で自分たちの居場所をつくれたらいいかなと思った

「舞台の上に自分たちの居場所を」と語る菅原さん
「舞台の上に自分たちの居場所を」と語る菅原さん

竹上康成さん(68)と妻の恵美子さん(70)も、初めて演劇に参加する。恵美子さんは認知症で、2013年から康成さんが自宅で介護している。

出演者の竹上康成さん(右)と妻・恵美子さん(左)
出演者の竹上康成さん(右)と妻・恵美子さん(左)

2人は中学校の元教師で、恵美子さんは英語を教え、優しくて生徒から人気の先生だった。
康成さんは、病院で恵美子さんの診断結果を聞いた日のことが忘れられない。

竹上康成さん:
彼女が、「お父さん、大丈夫だから。私は楽天的だから大丈夫だから」と慰めてくれた。それはもっとつらかった

竹上康成さん:
後悔した。「もっと早く気が付いていれば、何かできることがあっただろう」と思って…

「何でもあり」の演劇 認知症の妻と出演

2021年春、康成さんは、菅原さんに「演劇に出てみないか」と誘われた。

竹上康成さん:
「この人(恵美子さん)も一緒だけどいいですか」と言ったら、「あぁ、いいですよ」と。うれしかったなぁ…。「何でもあり」という発想は、すごく新鮮だった。菅原さんはどういうふうに言っても、行動しても、受け入れてくれた

演劇の舞台は、とある町の民宿。映画撮影の下見にやって来た監督と、エキストラ出演する町の人たちが繰り広げる物語だ。
康成さんと恵美子さんは夫婦の役で、恵美子さんは認知症という設定。せりふが覚えられなくても、康成さんの問いかけに応えれば、ストーリーが進むように工夫されている。

竹上康成さん:
お母さん、変わってないな

竹上恵美子さん:
変わってないよ。全然変わってない

恵美子さんは認知症という設定
恵美子さんは認知症という設定

菅原直樹さん:
はい、OKです。とてもいい感じですね。素晴らしいです

竹上恵美子さん:
面白いですね。楽しかった

稽古では笑顔を見せていた恵美子さんだったが、病状は悪化していた。
恵美子さんは2022年春、施設に入ることになり、しばらく稽古場に来ることができなくなった。

病状が悪化し稽古に参加できなくなった恵美子さん
病状が悪化し稽古に参加できなくなった恵美子さん

竹上康成さん:
みんな会いたがっているけんな。また、みんなと一緒に劇しような、お母さん

「いつもの“自分のまま”でいい」

7月17日、本番当日。楽屋にやってきた恵美子さんは、仲間に拍手で迎えられた。

本番に向けてメイクする恵美子さん。

竹上康成さん:
きれい、きれい。やったな。よかったな。これで出られるぞ

“エキストラの宴”が開演。舞台袖で待つ康成さんと恵美子さん。2人の出番がやってきた。

竹上康成さん:
ひょっとして、この民宿にもご迷惑かけることになると思うので、よろしくお願いします

無意識に手拍子する恵美子さんに合わせ、脚本には歌のリズムを取るシーンが加わった。

康成さんは、舞台で1人。妻の病気を語る大事なシーンだ。

竹上康成さん:
ある日、妻は言うんです。「帰りたい!」って。私が「家にいるよ、家に帰っているじゃない」と言ったんです。そうしたら…怒りだして…けんかになって

妻の病気について語る康成さん
妻の病気について語る康成さん

その時、舞台のそでにいた恵美子さんが、康成さんに駆け寄ろうと舞台に出てしまった。

他の役者:
ありゃ、みっちゃん出てきたで

そんなハプニングも、他の役者や観客は受け入れる。

観客たちはハプニングが起きても受け入れる
観客たちはハプニングが起きても受け入れる

監督役の役者:
“いつもの皆さんのまま”でいいんです。あなたも、あなたも、あなたも…さあ、皆さん、自信を持って、楽しんで演じましょう!

菅原直樹さん:
この奇跡に皆さん立ち会っていただき、うれしく思います。この出演者は、1年前はそちら(客席)にいた方々です。この芝居を見て、ぜひやりたいなと思ったら、ぜひこちらの世界に入っていただけたらと思います

認知症でも、障害があっても、自分らしく輝ける場所。劇団が目指したその場所は、舞台の上に確かにあった。

(岡山放送)