LGBTQ=性的マイノリティを公表している愛媛でただ1人の議員、渡邉啓之さん。今春に初挑戦した松山市議選で43人中4位の上位当選を果たした。当選から約2カ月、渡邉議員の誕生は愛媛県内に様々な変化を起こしている。

女性として生活 戸籍と議員登録は男性

黒のタイトなワンピースに身を包んだ渡邉啓之さん(49)。

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渡邉啓之さん:
いつも通りスーパーストレートで

5月、松山市議会議員として初登庁を迎える朝、まず訪れたのは美容室だった。

渡邉啓之さん:
これをすることで気合入るじゃないですか。これが私のスイッチの入れ方なので

渡邉さんは生まれた時の性別は男性だが、心は女性のトランスジェンダー。愛媛で初めてのLGBTQ当事者の議員だ。

渡邉啓之さん:
ヒールもあんまり高いの履いたらあかんって言われて。めっちゃ高いの履いてきたけど(笑)自分というのを消したくないからこそ声を上げたのに、自分を消すのはなんか違うかなって

自分を消したくないからこそ声を上げた
自分を消したくないからこそ声を上げた

松山市職員:
そのまま本名で?

渡邉啓之さん:
渡邉啓之でいいです

松山市職員:
漢字のままでいいですか

渡邉啓之さん:
はい、大丈夫です

普段は女性として生活する渡邉さんだが、戸籍は男性のまま。議員としての登録も男性。

渡邉啓之さん:
困りましたね…。困りましたね、この問題ね

公共の場でどちらの性別のトイレを使うべきか、性的マイノリティの人が必ず直面する問題だ。

渡邉さんは迷いながらも、普段通り女性用を選んだ。松山市はトイレについては本人の希望に任せていて、これまでトラブルは起こっていないという。

「女子部」に参加 女性が抱える問題解決に向け

渡邉啓之さん:
(議員バッジを着けて)LGBTQ当事者として松山市で初めて当選させていただきました。「新しい風を」という市民の皆さまの声を聞いて、頑張っていこうと思っていますので

小崎愛子議員:
今回増えて、四国でも25%以上で女性の比率No.1になりました。早く50%にしたいなと思っております

集まっていたのは、市議会の女性議員たち。

長野昌子議員:
やりたいという、役職に就きたいと思う女性が少ないのがやっぱり…

小崎愛子議員:
だって家庭のことと両立しなきゃいけない

議会での女性の地位向上を目指して3年前、自主的に立ち上げた「女子部」。子育て支援や生理の貧困など、女性に関する問題の解決へ会派を超えて共同で取り組んでいる。

渡邉啓之さん:
女子部に入ってるのが申し訳ない。何かすみません。With渡邉で(笑)

長野昌子議員:
今はだいぶLGBTQって言葉が分かりますけど、当事者の方が一緒になって声を上げると、すごく前に進むと期待しています

渡邉啓之さん:
生き方も服装も、やっぱり女性としてやっているので。男の子であっても、やっぱり感性は女性に寄ってしまいますので。ずるいかもしれんけど、ええとこ取りでいいと思うんですよね

中学生とジェンダーを考える「ひとりの人として接して」

男性だから女性だから、だけでなく渡邉啓之だから。そんな姿に子どもたちも大きな興味を持った。「ジェンダーについて話を聞きたい」と、松山市内の中学3年生がやってきた。

中学生:
何度か大街道に出かけた時に渡邉啓之さんを見かけて、そこから興味を持ったんですけど

渡邉啓之さん:
ほんまですか、ありがとう。むっちゃうれしいです。高校は何と男子校だったんで、私にとっては「や!パラダイス!」って思ったんですね(笑)そうでしょ。一緒にデートしているのに、彼のお友達に会った時、彼は私を友達って紹介したんです。「はあ?」って思って。だったら、私が女に見えたらええんちゃうんと思ったんです

女性として生きることを決めたきっかけや、性への考え方について質問が飛び交う。

中学生:
ジェンダーの差別をなくすために私たちができる心がけとか、どういった意識が必要だと思いますか?

渡邉啓之さん:
普通にすることです。ただ、それだけです。何で男の子好きなのか分からないでしょ

中学生:
分かりません

渡邉啓之さん:
それを理解してもらうのは無理なんです。だから、みんなも理解できなくていいんです。分からなくていいんです。でも、1人の人として見てあげてください

「理解できなくてもいい、普通に接してほしい」と渡邊さん
「理解できなくてもいい、普通に接してほしい」と渡邊さん

中学生の素朴な質問に、トランスジェンダーとして生きてきた複雑な思いをのぞかせた。

中学生:
啓之さん自体は、男女の隔たりをこの世から完全になくしたいとは?

渡邉啓之さん:
無理。10人いたら10人考え方違うのね、だから面白いのよ。楽しもうという発想の転換をしてから、私は生きやすくなりました。若いLGBTQの子たちに、こんなひねくれた考え方をさせてあげたくないなと思います。そんな我慢とかしなあかんのは最後にしたい。だから、皆さんには普通に接してあげてねっていうのはそこです

渡邉啓之さん:
何歳?

中学生:
14歳

渡邉啓之さん:
ひゃっ!私、男好きって気づいた時やん。この年やったんよ

中学生:
前まで私は、理解して優しく迎え入れるような社会になってほしいんじゃないかなって思ってたんですけど。本当に普通に「あ、そうなんや」って思うだけでいいって聞いて、そうなんだって今気づいて。ほとんど全部が変化でした

県内で同性カップルの”結婚”制度導入へ

6月、大洲市議会でLGBTQを巡る大きな動きがあった。

大洲市議会・弓達秀樹議員:
知り合いの子どもさんは、自らの性自認の違いをある時、友人たちの前でカミングアウトされたそうです。セクシャルマイノリティの存在は、都会だけのお話ではないということを思い知りました。大洲市として率先して、パートナーシップ制度導入に取り組む姿勢をお見せいただきたい

同性のカップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ制度」について質問があった。

大洲市・二宮隆久市長:
私自身、必要だと捉えておりますので、可能であれば来春の導入に向けて努力をしてまいりたいと考えております

導入が実現すれば愛媛で初めてとなる。

大洲市議会・弓達秀樹議員:
私も(渡邉さんの当選という)きっかけがなかったら多分、質問していないだろうなと思います。渡邉さんが立派な成績で当選なさって、それがきっかけになった

渡邉啓之さん:
私もびっくりしました。半面ちょっと焦ってる自分もいますね。松山市は何してんねんって。何かのトリガーになってくれてるんやったらいいかなと。これからはもっともっと自分の足を使い、勉強をしていかないと。皆さまに約束した通り御用聞きとして、皆さまのために動ける人間でいたいなと

全ての人が生きやすい社会を目指して。渡邉啓之松山市議の歩みは始まったばかりだ。

(テレビ愛媛)

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