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2022年7月15日の福岡地裁。福岡市の商業施設で女性を刺殺したとされる少年の裁判が、公判の最終日を迎え、傍聴席を求める報道陣などが詰めかけた。

刑事罰か、医療少年院か…複雑な家庭環境と学校での問題行動

5回目の公判となるこの日、ついたてに囲まれるかたちで初めて、被害者の母親が証言台に立った。

母親の証言(取材メモより):
「被告には、一生、刑務所に入ってもらいたい。生きていること自体許せない」
「心の中にぽっかりと穴が空いている」
「1人の人間として、この犯人は更生できない」

被害者の母親は、娘の体を包丁で十数カ所刺すなどして殺害したとされる少年に、厳しい刑を望んだ。

さらに検察側は「罪と向き合う時間があったのに、向き合う兆しがない」「保護処分による更生の見込みはない」と少年に懲役10年以上、15年以下の不定期刑を求刑。

一方、弁護側は「医療少年院で必要な治療を受けさせず、放置すれば再犯の可能性は高まる」とし、少年法55条で家庭裁判所に移送するべきだと主張した。

難しい判断を迫られる、裁判官と裁判員。これまでの公判で、被告人の少年は、その目にどう映ったのだろうか。

初公判(7月6日・福岡地裁)
裁判長:
公訴事実に違うところはありますか?

少年:
間違いありません

7月6日の初公判で起訴内容を認めた少年。この日の公判では、少年の複雑な家庭環境が明かされた。少年は4歳離れた兄から首を絞めるなどの暴力を受けていた上に、家庭ではネグレクトのほか、性的虐待もあったという。

そんな少年は、通う小学校でたびたび問題を起こしていた。

少年が小学4年時の元担任教諭(供述調書より):
「教諭に対して「殺すぞ」と暴言を吐く」
「女の子の髪を引っ張る、腹を蹴る」
「ほかの児童の首を絞める」
「少年は学校教育の限界を完全に超えていた」

「謝罪がどういうのかわからない」…弁護側と被害者側の質問で回答が一変

少年は、小学3年の頃には成人向けの精神科病院に入院し、その後、児童支援施設などを転々とした。14歳で少年院に入所したが、退所してすぐの2020年、15歳で今回の事件を起こした。

被告人質問(7月7日)
弁護側:
謝罪の言葉は?

少年:
自分の勝手な行動に将来の事など色んなものを自分の行いで奪ってしまったことは、申し訳ないと思います

弁護側:
自分を変えないといけないと思いますか

少年:
絶対に変えないといけないと思います。相手の気持ちを思いやる。すぐに暴力を振るわないように変えないといけない

被告人質問で被害者への謝罪、そして更生への思いを語った少年。しかし一方で、このあと被害者側の弁護士から質問をされると…

被告人質問(7月7日)
被害者側代理人弁護士:
この勾留期間中、何を考えていたか?

少年:
特に何も考えていなかった

被害者側代理人弁護士:
被害者や遺族のことは考えなかったか?

少年:
一切、考えていない

被害者側代理人弁護士:
被害者や遺族への謝罪の気持ちは?

少年:
…謝罪というのがどういうのか、わからないので特にない

遺族側代理人弁護士:
更生したいと思うことは?

少年:
できないと思う。人間、くずはくずのまま変わらないと思う

専門家“懲役で再犯への道が開かれる可能性” 医療少年院での矯正教育求める

突然、言動が一変する少年。その心情を分析する人がいる。

山梨県立大・西澤哲 教授:
弁護側のやりとりの中で現れてくる彼と、敵対する検察とのやりとりで出てくる自分、違った自分が出てくる。それってどっちが本当と聞かれると、どっちも本当

少年の心理鑑定を行った山梨県立大学の西澤哲教授。家庭内で受けたさまざまな虐待によるトラウマが、少年に大きな影響を及ぼしていると分析する。

山梨県立大・西澤哲 教授:
正直言って、彼ほどまでに不適切な養育環境が存在するというか、そこまでのケースはそんなに経験していない。自分の弱みが自分の中で感じられると強がってみせる、というのがあって、自分は別に人を殺すことなんてなんとも思っていない、みたいなことを言えてしまう未熟さを感じた

西澤教授は2021年11月、少年と3日間に渡り面会。問題を起こす原因は、虐待によるトラウマにあると判断した。少年はこれまで医療少年院にも入所したが、そのトラウマの治療が行われた形跡はないという。

山梨県立大・西澤哲 教授:
医療少年院に行ったと言っても4カ月ですから、4カ月で治療はできない。医療少年院の記録には、精神療法をやったという記録もない。投薬で興奮を抑えるくらいしかできていない

その上で西澤教授は今回の裁判に出廷し、「少年には刑事罰ではなく、医療少年院での適切な矯正教育を行うべき」と述べた。

山梨県立大・西澤哲 教授:
今まで被害を受け続けた子どもたちって、自分ばかり被害を受けているという、すごく強い被害感を持っている。下手をすると、懲役自体が被害感の強化に繋がってしまう。懲役体験がそういう風になったら、寧ろ悪性の自己、悪い人間として、いっぱしに育ってしまう。そうなってくると、再犯への道が開かれる気がする

15歳の少年が、見ず知らずの女性を刺殺するという衝撃的な事件。司法はどんな判断を下すのか。判決は7月25日に言い渡される。

(テレビ西日本)