北海道・知床半島沖で観光船が沈没した事故を巡り、運営会社のずさんな安全管理体制が問題視されているが、離島が多い日本では、常に同様の事件が起こる危険性がつきまとう。
各地で旅客船や観光船が行き交う鹿児島でも、人ごとではない。「海の上の安全とは何か」を考える。
楽しい観光が一瞬で… 34事業者が船を運航する鹿児島でも他山の石に
2022年4月23日、北海道・知床半島沖で乗員乗客26人を乗せた観光船「KAZUⅠ」が沈没した。当時、知床の山々にはまだ雪が残っていた。取材班も、現地で海の水を触ってみたが、冷水機のようにかなり冷たかったのが印象に残っている。
楽しいはずの観光が一瞬にして悪夢となってしまった。運営会社は、当日天気が荒れるという予報を無視して出航し、緊急時の連絡手段である衛星電話は故障していた。
ずさんな安全管理体制が問題視されているが、離島が多く、34の事業者が旅客船や観光船を運航する鹿児島にとっても、この事故は決して人ごとではない。
出港前から帰港まで行われる安全確認
鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市・甑島(こしきしま)の「観光船かのこ」。年中無休で1日3回のクルージングを行っている。就航以来11年間、無事故無違反だ。
運航管理者の中尾幸一郎さんは、出航前に毎日していることがあるという。橋に向かうと…
「観光船かのこ」運航管理者・中尾幸一郎さん:
こちらが私たちが通常航海する西海岸になります。携帯用の風速を測る機械を持って…、予報と現場とは違いますので、まずは目で見て海の状況がどうなのかを観察することを重視している
天気予報に加え、目視、そして船長たちの経験を集約して、出港できるかどうか判断する。
今回のツアーには、観光客が4人乗船していた。座席を見ると、ライフジャケットが置いてある。
客がライフジャケットを正しくつけられるよう、乗組員がサポート。もしもの時の救命浮き輪はすぐに取り出せる場所に置かれていた。
「見せ場」と「安全性」のバランス…安全第一で慎重に
準備を終え、午後2時に出港。「かのこ」のクルージングは中甑港を出港し、甑島を代表するスポットをめぐる1時間のコースだ。出航から約20分、みどころの1つ、鹿島断崖に到着した。表面に見えている地層は約8,000万年前のものとされている。
断崖がどんどん近づき、下から見るといっそう高く感じる。大迫力の絶景が、観光船かのこの魅力だ。お客さんを楽しませるために可能な限り近づくが、その距離にも気を使っている。
「観光船かのこ」運航管理者・中尾幸一郎さん:
荒れていないときにできる技であって、荒れているときは遠くで我慢してもらう。一番重視するのは水深ですね
レーダーで水深を探りながら、慎重なハンドル操作が求められる。
船内アナウンス:
断崖の中でも最も美しいとされる奇岩です。鶴穴です。鶴が大きく羽を広げているように見えることから「鶴穴」と名前がついています
鹿島断崖を巡った後は、2年前に開通した甑大橋をくぐり、帰港。知床の観光船では故障していた衛星電話を使い、事務所に連絡を入れる。
スタッフ:
ただいまより中甑港へ帰港します
「観光船かのこ」運航管理者・中尾幸一郎さん:
帰る電話連絡をわざわざこれ(衛星電話)でしたのは、点検の意味もあるんですよ。使うことによってわかるということがあるので
出港前から帰港まで、かのこでは様々な場面で安全を確保する取り組みが行われていた。
埼玉県から来た乗客に話を聞くと、「最高でした。日本じゃないみたいに思えて」と満足した様子。「あんな悲しい事故は二度と起こしてほしくないですよね」と、被害者を思う声もあがった。
「観光船かのこ」運航管理者・中尾幸一郎さん:
遺族の方のことを考えると心が痛い。絶対にうちの船ではそういうことがないように、気を引き締める意味になりました
感動を守るために 積み重ねられる安全
海難事故の歴史に残る知床の事故。事故を受け国土交通省は、鹿児島県内の34の旅客船事業者の緊急点検を行った。重大な違反はなかったものの「非常口の表示がない」「事故を想定した訓練を行っていない」といった指導が行われたという。
船の旅を通して得られる「感動」。その感動を守るのは、一つ一つ積み重ねられる安全への意識だ。
「観光船かのこ」運航管理者・中尾幸一郎さん:
7月になって比較的穏やかな天候なので、甑島にたくさんの人が来てくれたらうれしい。常に心を引き締めて、今からのシーズンに向かっていきたいと思います
知床の悲劇を繰り返さないために…鹿児島の海の上の命を守る、地道な努力が続く。
(鹿児島テレビ)