“安倍さんの野望”が実現する?
参院選は投票2日前に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「弔い選挙」となり、自民は戦前の予想を上回る63議席を獲得して大勝。立憲、共産などの野党は議席を減らした。
この記事の画像(17枚)与党と憲法改正に前向きな維新と国民などを含む勢力で、国会発議に必要な定数の3分の2を上回る「改選過半数」も確保した。
この結果を受けて米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は憲法改正について「安倍氏の長年の野望を追求する機会を得た」と報道、「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムズ」も同様に報じた。
参院選の勝利で岸田政権は次の衆院任期切れまで選挙をしなくて良い「黄金の3年」を手に入れるので、憲法改正などにじっくり取り組めるのではないかとの見方もある。
だが現実にはなかなか難しいのではないか。安倍政権は計8年8カ月続いた「史上最長かつ最強の政権」で金融緩和、消費税増税、安保法制など数え切れない業績を残したが、それでも改憲、拉致問題の解決、北方領土返還など残された課題は多かった。
3年あるとは言え安倍晋三という強力な後ろ盾を失った岸田氏が改憲のような大技を一人でできるとはとても思えないのだ。岸田政権はよく言えば緻密、悪く言うと臆病な政権で、安倍、菅政権の失敗の部分だけをしないように注意深く政権運営をしているように見える。
自民は意外に伸びなかった
安倍氏の突然の死去により今回の参院選では自民がもう少し勝つのではないかと僕は見ていた。実際に投票締め切り直後のテレビ各社の議席予測もフジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日の各社は自民66と、実際の結果より3議席多く見ていたのだが、意外に自民が伸びなかった。
確かに選挙区では岩手や新潟などこれまで立憲が強かったところで自民が勝った。ただ比例は18議席取ったが得票率は去年の衆院選よりわずかだが落ちている。直前の自民党の読みは「選挙区はいい感じだが比例は衆院選に比べかなりはがされるので20は取れない」というものであったが、安倍氏の死去で比例はかろうじて踏みとどまったというのが実態だ。
比例で立憲、公明、共産が衆院選より票を減らしているのだが、ではそれがどこへ行ったかというと実は維新も減らしている。増えているのは、国民、れいわ、N党、社民などの小さな政党であり、さらに初挑戦の参政党が176万票も取って1議席獲得した。
「美しい国」であり続けられるか
これはおそらく無党派層のうち立憲や共産の左の方の票はれいわや社民に流れた、立憲の右の票は国民や自民に流れた、しかし自民の右の票はN党や参政に流れた、ということではないのか。
そして有権者は安倍さんの死を悼み、ある程度自民に投票したが、「岸田政権は安倍氏の遺志を継ぐだろう」と思っている人はあまり多くないのではないか。
岸田さんの「黄金の3年」が始まった。だが安倍さんが目指した「美しい国」を岸田さんが同じように目指すことはしないだろう。ただ安倍晋三という後ろ盾を失った岸田政権がこれまで通りスムーズに政権運営できる保証はどこにもない。
【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】