在任期間最長、歴代最長政権をなし遂げながら、突然の別れとなってしまった、安倍晋三元首相。政治家としてこの日本に何を残し、この先の日本をどう変えたかったのか。

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安倍晋三という政治家がこの世を去った翌日。その本質をこんな言葉で振り返った記者がいる。

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
基本的にはおしゃべり好きで、映画好きで。各国首脳ともうまくできたのは、片意地張らずにジョークを交わせる、日本の首相がいたのかっていうのが大きいと思いますよね

実は本人の口からも…。

安倍元首相(2013年10月 高松宮殿下記念世界文化賞での言葉):
私は若いころ、映画監督になりたいと考えたことがあります。コッポラ監督の「ゴッドファーザー」は、当時17歳の青年の心を捉えました。もし私がファミリービジネス(政治家)に固執しなければ、「ゴッドファーザー4」を撮っていたかもしれません。その代わりアベノミクスはなかったかもしれません…

そんな下地があったからだろうか。

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
例えば、トランプ大統領に(海外ドラマ)「ハウス・オブ・カード」の話をしたり、ボリス・ジョンソン(英首相)と話したときに「『ザ・クラウン』のエピソードは本当なのか?」と言ったら、ボリス・ジョンソンさん大笑いして、ものすごく意気投合したみたいな話を聞きますのでね。(映画は)自分の趣味だけど、すごく外交の世界で生きているんじゃないかな

日本を世界と“真の友”として付き合える国に

元番記者が語りたかったのは、ただの人柄ではない。実は、これらのエピソードの中にこそ、安倍元首相が夢見た“日本の姿”があったという。

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
“美しい国うんぬん”というフレーズはあるれど、“戦後レジームからの脱却”というのは、最初に言ってたあのフレーズこそが、安倍さんの理想だったというような気がしますよね

戦後レジームからの脱却。それはどこの国にも隷属せず“真の友”として付き合える国になること。

思えば、確かに安倍元首相といえば…。

安倍元首相(2016年12月 米・ハワイ真珠湾での言葉):
私がここパールハーバーで、オバマ大統領とともに世界の人々に対して訴えたいもの。それは、この和解の力です

米・オバマ元大統領(2016年5月 広島での言葉):
私たちにはみな歴史を直視する責任があります
 

互いの過去を許し合い“友”として未来を生きようと語り続けた政治家であり、その心が世界に伝わっていたからこそ、2022年7月8日、米・ニューヨークでの国連安保理では安倍元首相に黙とうがささげられた。

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
世界のトップから弔意を相次いでもらって、そういう総理大臣はかつていませんでしたよね

政治家・安倍晋三の戦いと“心に決めていたこと”

そこに至るための手段として、安倍晋三という男が心に決めていたのが…。

安倍元首相:
憲法論争に私たちは終止符を打とう。そう決意をいたしました。憲法にしっかりと自衛隊を明記します

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
それで始めて、日米対等の同盟国になれると。彼はずっとそれと戦ってきたんじゃないですかね
 

だが、そんな強固な信条なゆえ…。

一部の聴衆(2017年7月 東京・秋葉原):
安倍やめろ!安倍やめろ!

安倍元首相:
こんな人たちに皆さん、私たちは負けるわけにはいかない
 

この国を二分するほどのきしみを生み出したのもまた事実だったが、それもまたすべては織り込み済みだったと石橋氏はいう。

元産経新聞 政治部長 石橋文登氏:
割と理想主義者みたいな感じでいわれているけれど、めちゃめちゃな現実主義者。理想についてはぶれないけど、それをやるためにはかなりの妥協もするし。押したり引いたりしながら進んでいく

安倍元首相「大切なものを与えてくれた。それが希望です」

理想という光が強ければ強いほど、その影もまた濃く深かった政治家。そんな光のクライマックスが2015年、日本の首相として初めて、アメリカの両院合同会議に招かれた演説だったのかもしれない。

安倍首相(2015年4月 両院合同会議で英語での演説):
まだ高校生だったとき、ラジオから流れてきた、キャロル・キングの曲に私は心を揺さぶられました。(キャロル・キング「You've Got A Friend」の歌詞より)落ち込んだ時 困った時 目を閉じて 私を思って 私は行くあなたのもとに…

思い出の曲の歌詞を引用しながら、東日本大震災への“トモダチ”としての支援に感謝を述べる。

安倍首相(2015年4月 両院合同会議で英語での演説):
なにものにもかえられない、大切なものを与えてくれた。それが希望です。私たちの同盟を「希望の同盟」と呼びましょう。一緒でならきっとできます。ありがとうございました

いつか日本が、世界のどの国とも対等に“真の友人”となれるように。稀代の政治家はそんな理想と現実の狭間で生き、己の信じる未来を訴え続けていた。

(「Live選挙サンデー」7月10日放送分より)

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