プロ野球観戦中のビールは、試合のお供ともいえる。そのビールを売る「売り子」の1人、さやかさん。売り子歴5年の彼女にとって、待ちに待ったフル動員だ。

重さ13kgの樽を背負い…球場内を売り歩く
さやかさん:
寂しかったです。ここでしか会えない方々とかたくさんいたので、そういう方に会えないのは寂しかったですね

福岡PayPayドームで行われたソフトバンク対阪神の交流戦。試合開始2時間前。開場とともに、売り子たちも客席を回り、ビールを売り始める。
さやかさんに、この日の目標を聞くと…
さやかさん:
170とか、180くらい行きたいなと思います
100杯を超えれば1人前と言われる中、高い目標に向けて気合十分。「がんばります!」と、観客席へ向かうさやかさん。
背負っている樽は、機材と合わせると13kgほど。4時間から5時間、休みをほとんど取ることなく、球場内を上へ下へと歩き回る。本当に体力がいる仕事なのだ。

新型コロナウイルスが流行して約3年。声が出せず、マスクで顔も隠れてしまうなか、どうやってお客さんに覚えてもらうか、考え抜いたさやかさんの答えは「トレードマーク」だった。
さやかさん:
頭のリボン。これを見て、呼んでくれる方は結構います

開場から約5分。
さやかさん:
飲みます? ありがとうございます!
早速、最初のお客さんを見つけたさやかさん。コミュニケーションも忘れない。
さやかさん:
きょう、どこからです?
客:
北九州
さやかさん:
そうなんですね! お疲れですね。ありがとうございます。楽しんでください

あっさり3杯を売り上げた。
さやかさん:
ビール飲む? みたいな話が聞こえたので、声かけてみました

お客さんの会話にも、さりげなく耳を傾けるという、ベテランならではの売り方だ。
思わぬトラブルも…客の追加注文に「早い!」
その後も、ハイペースでビールを売るさやかさんだったが、思わぬトラブルが彼女を襲った。
さやかさん:
ちょっと待っていただいていいですか、すいません

ビールを渡したものの清算をせず、焦った様子でお客さんの元を離れる。

さやかさん:
すみません、端末が
コロナ禍で導入された決済アプリ。その支払いが7割を超える日もある中、避けられないのが端末のトラブルだ。

(Q.端末、大丈夫ですか?)
さやかさん:
はい、なおりました
稼ぎ時の試合前の予想外のタイムロスに、急いでお客さんの元へ戻る。
さやかさん:
お待たせしました。ごめんなさい。なおるのに時間がかかっちゃって

客:
もう1杯いいですか?
さやかさん:
もう1杯? ありがとうございます。早い! 飲むのが
このお客さん、さやかさんが離れている間に一杯目を飲み干してしまった様子。思わぬ追加注文だった。遅れを取り戻そうと、さやかさんもペースをあげていく。
客:
応援してるから
さやかさん:
うれしいー、がんばる、きょう

客:
がんばりなよ
「売り子って楽しい」常連作る面白さの“とりこ”に
広いドーム内で、さやかさんをわざわざ探し、ビールを買ってくれる常連さん。
客:
昨日と味が違うと思います。濃いと思います。こっちのほうが
(Q.昨日も?)
さやかさん:
昨日も来てて、3月のオープン戦も来てて、阪神戦だけ来るお客さんですね
どんなお客さんか、しっかりと覚えているのが、さやかさんの人気の理由。

さやかさん:
売り子は脇役なので、皆さんが観戦を楽しめるお手伝いができればいいなと思います
大学時代、友人に勧められて始めたこの仕事だが、常連をつくる面白さに「とりこ」となり、いまでは大学院に通いながら、シーズン全ての試合で出勤するほどに。

さやかさん:
お疲れ様です!
約5時間。休む間もなく売り続け、基地に戻るとその日の販売杯数を確認する。
目標の170杯に届いたのか?
スタッフ:
さやかさん156杯です! おめでとうございます! さすが!

機材トラブルなどで前半伸び悩み、目標には一歩届かなかったものの、この日のトップクラスの売り上げだった。

さやかさん:
誰から買ってもビールって同じ中で、わざわざ私を待って下さる方がいるというのは心強いし、やりがいになっています。皆さんにお会いできて楽しいですし、売り子って楽しいなって、あらためて思ってます
ひいきチームが勝っても負けても、売り子たちのさわやかな笑顔が楽しいひと時に花を添える。
(テレビ西日本)