政治課題が山積する中、参院選が公示された。世論の関心が低いともいわれる一方、共同通信の世論調査では、2019年の参院選よりも関心が高まっていることがうかがえる。BSフジLIVE「プライムニュース」公示日前日の放送では、識者を招き参院選の争点と焦点を掘り下げた。

参院選への有権者の関心は高まり、自民にほのかな逆風か

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新美有加キャスター:
選挙での有権者の動向を探る共同通信のトレンド調査によると、参院選に「大いに関心がある」「ある程度関心がある」という回答を合わせて64.9%。2019年の同様の調査と比べて5.2ポイント上回っている。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
ある程度予想の範囲内だが、ここに来て物価高などをメディアが取り上げていることもあり、何となくほのかな風、自民党にとってのほのかな逆風が吹いている。有権者の投票行動は不平や不満が一番のエネルギーになる。それは年金や物価、目の前のお金。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
「大いに関心がある」が少ない印象。今回、参議院選挙前の一定期間、これまでに比べてテレビ等メディアの報道が極めて少なかった。今回の選挙を私は「3ない選挙」と言った。風がない、熱がない、興味がない。公示後にどう変化するかはまだ見えないが。

消費税や給付金など目先の話だけでなく、構造的な問題の議論を

新美有加キャスター:
物価高対策に対する公約。自民党は、コスト上昇分の中小企業取引価格への転嫁対策。公明党は、原油価格上昇の影響を受けている中小企業への資金繰りへの支援。一方、野党は全党が消費税の減税に言及。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
選挙前の人気取りという感じが非常に強い。消費税の引き下げは簡単にはできない。ただ、岸田首相が言うことも物価対策として即効性はない。

反町理キャスター:
与党は消費税減税に踏み込まない。責任を持ってやりきれないほど、とても手をつけられるものではないという共通認識がある?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
欧州各国では消費税の上げ下げを容易にやるが、日本では消費税を上げることは政権の命運をかけるぐらいの仕事。下げたら、次は上げられないというのが与党の共通認識。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
消費税や10万円給付もそうだが、背後にある日本の構造的な問題をきちっと与野党間で議論してほしい。30年間でサラリーマンの年間所得はたった4.4%しか伸びていない。触れる人が誰もいない印象。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
今この局面で、10万円を誰に給付するといった公約が並んでいること自体が、まさに構造的な問題。目先のことだけでなく、セーフティーネットがあって労働の流動性を高めるとか、一人あたりの労働生産性を高めるといった話をしなければ。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
構造問題なら、一番の問題は少子化。どう少子化を防ぎ、子どもを安心して育てられる社会にしていくかが、今の日本の最大の問題。それについて響く言葉が出てこない。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
それ以外でも、日本の劣化がものすごいスピードで進んでいる気がしてならない。先端技術分野では、ついこの間まで日本は世界のトップランナーだったのに、気がつけば後発組。どう変えていくのかという議論が出てこない。

防衛費増額で自民・立憲に違いはないが、踏み込んだ議論が不足

新美有加キャスター:
FNNの世論調査では、投票の際に重視する政策の中で外交・安全保障は12.3%。ロシアのウクライナ侵攻後の参院選としては低いように見える。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
ウクライナ問題への関心が下がってきている影響。だが実際、防衛費の問題は今年後半の非常に大きな政治課題。もっと与野党が具体策を競わせた方がいい。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
総合的な安全保障とは何かという議論が、これまで国会でほとんどなされていない印象。外交的な努力での解決・緊張緩和、それでもだめな場合に備える軍備はどうあるべきか、という順番の議論が必要。今の議論は軽々しい。もっと腰を据えた議論をやるのは、これからでも遅くない。

反町理キャスター:
防衛費の増額に関しての公約を見ると、与野党の対立というよりも、自公・維新・国民・立憲ぐらいまでと社民・共産との間に線が引かれる。防衛費、安全保障をめぐる参議院選挙以降の国会の論戦は、様変わりする可能性がある?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
選挙結果に左右されるが、そうなるのでは。党首討論を見ても、自民・立憲の間にそう違いはない。

反町理キャスター:
自民党発で議論になった「反撃能力」に今回の公約で言及しているのは、自民・維新・国民だけ。公明・立憲・共産・れいわ・社民・N党は、具体的な防衛力のスケール感や反撃方法についての言及がない。特に与党である公明党。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
説明できないから。例えば、反撃能力と専守防衛をどこで融和させるのか。自民党では敵基地中枢機能への攻撃を言っている。これは全面戦争をしますよという意味。そこまで踏み込むなら、専守防衛との関係はどうなのか答えられるか。難しいと思う。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
反撃能力を持つときには結局、相手の妨害電波を露払いするとか、最初の偵察、成果の確認、何段階にもわたる大がかりな能力が必要になる。その是非も含めて与野党で踏み込んだ議論をすべき。

改憲勢力3分の2超となる可能性は高いが、憲法改正には時間がかかる

新美有加キャスター:
憲法改正についての各党の公約。自民党は早期に実現するとし、2021年衆院選の「取り組みをさらに強化」より踏み込んだ表現。公明党は、自衛隊明記は引き続き検討。立憲民主党は自衛隊明記に反対。日本維新の会は自衛隊明記、9条改正、緊急事態条項の制定に取り組む。国民民主党は緊急事態条項を創設し、憲法9条については具体的な議論を進める。NHK党は、議論を積極的に促す。日本共産党と社民党は改憲に反対、れいわ新選組は公約に憲法に関する記述なし。自民の踏み込んだ表現は、それだけ本気とみてよいか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
憲法審査会が開かれるようになり、具体的な論議が行われている。公明党の変化も大きい。参院選の結果、憲法改正に熱心な維新の議席が増えるとさらに進めやすくなる。状況が煮詰まってきている。

反町理キャスター:
国会全体の勢力図を見たとき、衆議院は自民・公明・維新・国民で(憲法改正の発議に必要な)3分の2の議席数をはるかに超える。参議院では今回、改憲勢力の非改選議席が83あって、同じ83議席以上を取れば3分の2を超えることができる。その可能性、憲法改正に向けたうねりは。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
私は選挙の議席数の予測は一切やらないが、可能性はあると思う。では直ちに改憲に進むのかというと、中身の問題がある。一般の国民の理解を得やすいテーマから入るのが本来の姿と思うが、伝わっていない。自民党の改憲4項目も、改正論議の中で主張しようとすると、ことは複雑になる気がする。かなり時間がかかるのでは。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
今の流れでは3分の2を超えると思う。個人的な見方では、自民党は最低56、最大64議席。

参院選後の与党は岸田カラーの打ち出し、野党は勢力図の変化に注目

反町理キャスター:
選挙の結果の想定とその後について。FNNの世論調査によれば、比例投票先は立憲が5.3%で維新が4.9%。しかし、共同通信の世論調査などでは、支持政党も比例投票先も維新のほうが高く出ている。比例得票数の野党第一党が維新になる可能性は。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
必ずしもそうとは思わない。投票率や政党の支持母体、組織の固さを鑑みれば、立憲が上に行くという可能性もある。投票率にかなり影響される。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
立憲には弱気な見方もあったが、最近のデータや分析では、どうも維新の勢いがそれほどではない感じも受ける。トータルではやはり野党第一党は立憲。ただ、比例で維新が伸びれば注目度がますます強まる。その後、総選挙に向けて野党の中で何かが起きるかも。その可能性があるなら、国民と立憲。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏
政治アナリスト 伊藤惇夫氏

反町理キャスター:
自民党が勝ち、つまり岸田政権が信任された場合。自民党内に積極財政論と財政規律重視派の路線対立があると見える。前者は安倍元首相、踏み込みの程度はあるが岸田首相は後者。決着が見えるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍派は最大派閥で、岸田派の倍ほどの勢力。互いに協力し合わないと成り立たない関係。路線対立していても、相互に力を利用する関係。

反町理キャスター:
足して2で割るイメージが湧かない。白か黒かではなく、そこには灰色があるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
やはり知恵が出てくる。何となく両方が納得するところに落ち着いた、ということが恐らく12月には行われると思う。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
防衛費の5年で2%という数字はあまりに大きい。生活保護費、子ども・子育て費なども大きい。国債とその他の帳尻を合わせるには規模が大きい数字で、どこかで軸足を移す判断をせざるを得ない時が来るかもしれない。それが政局や岸田首相の政権基盤の微妙な変化に結びつくかどうか。

政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
参院選後に内閣改造が行われるとすれば、岸田カラーがどれだけ出るのか。安倍派が党内最大であることは間違いないが、岸田首相はいわゆる「黄金の3年間」を手に入れる。岸田カラーを打ち出すときに摩擦が起きるなら、その先どうなるか。

BSフジLIVE「プライムニュース」6月21日放送