通常国会が会期末を迎え、6月22日には参院選が公示される見通し。自民党では派閥の領袖や大物議員による連日の会合が注目される一方、野党は分断がより明確になっている。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、参院選に向けた政治情勢を徹底分析した。

「無策無敵」で高支持率の岸田政権 摩擦がなく野党はやりにくい

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新美由加キャスター:
岸田政権が高い支持率を維持してきた背景。菅内閣の後を受けた当初は55%程度でスタートし、右肩上がりで推移。3月と5月には60%超。6月11〜13日の調査では56.9%だが、基本的には高支持率を維持してきた。この理由は。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
自民党内で「たいしたことをやっていないのに、なぜこんなに高いのか」という見方が多い。安倍政権・菅政権は総理大臣が旗を掲げて突き進んだ。対して岸田首相は、特に自分の考え方を打ち出すのではなく、世の中の流れにスーッと乗ってやっていく。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
日本維新の会の馬場伸幸共同代表が「無策無敵」とうまい四字熟語で表現した。また野党がばらばらということもある。ただ、この半年間に高支持率で安定している背景として大きいのは、やはり2つの国家的な危機。岸田首相は特段何をやっているわけではないが、コロナではまん延防止等重点措置が解除され、重症率や死亡率も下がっている。さらにロシアのウクライナ侵攻。一般論から言えば外国の危機は政権を浮揚する。世論調査では不支持率が低く、今までの政権と比べると、他に適当な人がいないという声も結構多い。

反町理キャスター:
岸田首相の国会答弁には「検討する」が多い。どうご覧に?

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
これは「聞く力」ではなく、するりと「聞き流す力」。摩擦がなく、衝突が起きない。

山口二郎 法政大学法学部教授
山口二郎 法政大学法学部教授

山口二郎 法政大学法学部教授:
野党にとってこれほどやりにくいことはない。批判をすれば反論があり、議論が盛り上がるのが安倍・菅政権時の野党だった。しかも国民民主党が予算案に賛成して事実上与党化し、国会での与野党対決の構図を崩してきている。

岸田政権の物価高対応への不満は大きいが、野党はそこを突けず

新美由加キャスター:
物価高に対する岸田首相の対応についての世論調査では、評価すると答えた方が28.1%、評価しないと答えた方が64.1%。争点になってくるか。

山口二郎 法政大学法学部教授:
ガソリンの値段などの切り口から物価対策の問題点、長年の円安路線を追及し、戦いの構図を作ることが野党にはできなかった。

反町理キャスター:
立憲民主党の泉代表が「岸田インフレ」という言葉を使い「おっ」と思ったが、使い続けない。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
参院選後の状況によっては一定の訴求力がある言葉かもしれない。他方、物価高が総理や政権与党の裁量で一体どこまで是正できるのかという感覚が世論にあると思う。不可抗力とは言わないまでも、ウクライナ情勢や原油高といった国際的な流れの中にあるという感覚があり、「岸田インフレ」けしからん、となるかはもう少し様子を見なければわからない。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
物価高への対応を評価しない人が64%で、内閣支持率は6割近い。すると評価しない方の半分ぐらいが内閣を支持している。つまり、岸田さんがインフレを起こしたと思っている人はあまりいないのでは。

次期総裁を見据える茂木氏 実は深い信頼関係の麻生・菅氏

新美由加キャスター:
自民党の派閥領袖や大物議員が会合を重ねている背景にはどんな狙いや思惑があるのか。3月以降、安倍元首相・麻生副総裁・茂木幹事長や、菅前首相・二階前幹事長・森山前国対委員長が会合。4月には岸田首相の会合が目立つ。各派閥のパーティーも開かれ、特に安倍元首相と麻生副総裁の会合が目立つ状況。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
会合をしていると見せることに意義がある。それが報道されることで彼らの存在感が高まる。3月14日の安倍さん・麻生さん・茂木さんの会合では、安倍さんと麻生さんの2人の会合だったところ、麻生さんが安倍さんに了解を得て茂木さんを連れていき、3人の会合になった。聞く限りでは、茂木さんが総裁選の戦略上それを望んだと。ポスト岸田を固める上では、安倍派、麻生派、茂木派の3派が組むことなしには勝算が立てられない。

反町理キャスター:
麻生副総裁と菅前首相も会合を積み重ねている。以前の両者の関係は現在変化を遂げているか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
両者が一番食い違うのは、公明党・創価学会への考え方。菅さんは公明党・創価学会は非常に大事だという考え方。麻生さんは「別にいいじゃねえか、むしろ国民民主党を使って少し牽制してやれよ」ぐらいの感じ。一方で、麻生さんは非常に心配りをして菅政権を支えた。

反町理キャスター:
根っこにおける信頼関係はもともとあったし、これからもあり続けると。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
麻生さんは自民党内におけるバランサーで、また国民民主党と話している。菅さんは日本維新の会と、公明党や支持母体の創価学会と太いパイプがある。結果としての役割分担があり、岸田政権や自民党全体の基盤を強めている。

反町理キャスター:
菅前首相に近いとみられる4人が麻生派を離脱した影響は?

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
麻生さんと菅さんは周辺の人をめぐってバチバチやっているが、だからこそ制御不能にならないように相互利益で握っておこうという双方の思惑が一致していると思う。

反町理キャスター:
安倍元首相・岸田首相の関係は。たとえば積極財政か財政規律かという考えは違う。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんには、岸田さんを全力で支える責任がまず基本としてある。一方、岸田政権の政策で自分の意見を反映してほしいという気持ちも非常に強い。積極財政や防衛費の増額については意見をどんどん言い、サインを送り続ける状況。だが岸田さんは、権力の象徴である人事については何を言われても変えない。安倍さんも岸田さんから離れられない。離れたら自分の力がなくなるから。

維新が立憲を抑え、比例区で野党第一党になる可能性も

新美由加キャスター:
野党の分断と参院選の戦略について。今国会の終盤、立憲民主党が岸田内閣と細田衆院議長への不信任案を提出したが、野党各党の反応は大きく分かれた。立憲民主党と共産党はそれぞれの不信任案に賛成し、日本維新の会と国民民主党は岸田内閣の不信任案には反対、細田衆院議長の不信任案には棄権。野党の足並みの乱れが際立つ中、参院選の一人区の32選挙区のうち野党による候補者の一本化ができているのは、立憲民主党・共産党・社民党による12選挙区のみ。

反町理キャスター:
2021年の総選挙では野党4党と市民連合との政策合意があった。今回の参議院選挙に向けては。

山口二郎 法政大学法学部教授:
今年は紙に署名する形はとっていない。参議院選挙は政権選択の選挙ではなく、今の政治への批判票を最大限結集することに重点がある。詳しい政策や合意にこだわる必要はないと私は思う。

反町理キャスター:
共同通信の世論調査では、政党支持率は立憲が維新をわずかに上回っているものの、比例代表の投票先では維新の方が高い。比例の野党第一党が維新になる可能性がある。野党の中のパワーバランスに変化は。

山口二郎 法政大学法学部教授:
かなり影響が大きいと思う。2021年の総選挙では、枝野前代表による結党時からいた割とリベラルな人たちがけっこう落ち、党内のバランスがだいぶ変わった。維新にすごく勢いがあり、比例の票で圧倒的に立憲を上回ることがもし起これば、立憲の中で求心力が一層低下していくことはあり得る。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
そういう結果になると、憲法論議や国会運営に影響を与えるのでは。2021年の総選挙の後、憲法審査会が毎週開かれるようになったように。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
参院選は時の政党の勢いを見事に映し出す。今の流れの中で維新が立憲を上回ると、数字以上の大きなインパクトを今後の政権運営に与えると思う。

参院選後、岸田首相に悠長に構える時間はない

左から、茂木敏充幹事長、高市早苗政調会長、福田達夫総務会長、遠藤利明選対委員長
左から、茂木敏充幹事長、高市早苗政調会長、福田達夫総務会長、遠藤利明選対委員長

新美由加キャスター:
参院選後、内閣改造と自民党役員人事があると見られる。この焦点はどこに?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
ポイントとして衆目が一致しているのは、高市早苗さんが引き続き政調会長を続けるか、岸田さんが交代を決断するか。

反町理キャスター:
高市さんを変えれば、安倍さんと緊張感を生むことにはならないか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんは安倍派として旧党3役(幹事長・政調会長・総務会長)のひとつが欲しい。高市さんを安倍派の枠として残してほしいということはない。安倍派、茂木派、麻生派、岸田派で、選対委員長を含めた党4役を構成するのが普通だと思う。

反町理キャスター:
一方、岸田首相周辺から「黄金の3年」という言葉がよく出る。参院選後、次の参院選まで3年間は恐らく衆議院選挙もなく、山積する課題に対してきちっと答えを出すための3年間だと。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
「黄金の3年」という言葉に非常に抵抗がある。まず2024年には総裁選があり、再選できるのかどうかは高いハードル。茂木さんも構えているかも。総裁選の前に衆院解散の可能性もある。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
今までは「新しい資本主義」云々という言葉でやってきたが、これからは何をやったのかと問われてくる。決して「黄金の3年」と悠長にいられる状況ではない。

BSフジLIVE「プライムニュース」6月14日放送