手強いウイルス あの人も「在宅勤務」に
ついに、あのファウチ所長もか……。アメリカで新型コロナウイルス対策の「顔」となっている国立アレルギー感染症研究所アンソニー・ファウチ所長が6月15日、陽性だったと研究所が発表した。


バイデン大統領の首席医療顧問でもあるファウチ所長ですら感染してしまうのだから、このウイルスが依然、手強いのは間違いない。しかし症状は軽く、81歳のファウチ所長は翌16日、上院の委員会に「在宅勤務」でリモート出席していた。

「きょうはWFHで」とはいうものの…
「在宅勤務」を意味する「WFH」=Work From Homeは現在、私の仕事場では日常だ。なぜなら感染した場合、現在のルールだと取材活動が大幅に制限されるからだ。ニューヨークの感染状況とにらめっこしながら、取材チームが感染しないように工夫をするしかない。

WFH(在宅勤務)をすれば、混み合ったニューヨークの地下鉄での感染リスクは低くなり、通勤時間も通勤費も節約できて、理にかなっている。交代で出社する「ハイブリッド」形式を取れば、事件・事故など急な取材にもなんとか対応できる。ところが、このところの“真逆の動き”に、今後の働き方について考えさせられている。
イーロン・マスクCEO「出社しないなら、クビ」
5月末、電気自動車大手テスラのイーロン・マスクCEOが社員に対して送ったメールの内容が報じられた。「リモートワークをしたければ、週に最低40時間オフィスにくること。さもなければテスラを去ってもらう」とある。
無論、ワクチン接種により重症化率が下がっていることが背景にあるが、マスク氏はこう指摘する。「もちろん出社を求めない会社もある。でも、そんな会社がすばらしい新商品を世に出したの、いつが最後だ?しばらく前だな」。
「報道陣が在宅勤務って?!ショックだよ」
金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOも「出社派」だ。2021年にウォールストリート・ジャーナルのインタビューで「報道陣までもが在宅勤務って?!ショックだよ」と述べ、メディアがZOOMで何でもやろうとする取材方法に驚きを隠さなかった。

ダイモンCEOは、「記者が自宅で原稿を書いてもいいけど、報道センターにも行ってアイデアをみつけたり、何かを共有したりできるはずだ」と指摘した。また、在宅勤務は「若い人には向かない。ハッスルしたい人にも向かない。アイデアのひらめきにもつながらない」とバッサリだ。

しかし、現実的にはなかなか厳しい。2022年4月に株主あての書簡でJPモルガン・チェースは、当面は50%が完全出社、40%がハイブリッド勤務、10%が在宅勤務になるとの見通しを示した。それでも「在宅勤務がもたらす深刻な弱点の悪影響は、時間とともに蓄積する」と否定的だ。
ニューヨーク市は全職員「在宅勤務禁止」に踏み切る
大都市のニューヨークでもオフィスに戻っている人はコロナ前に比べ4割強にとどまり、地元経済の回復の足かせになっている。そんな中、エリック・アダムズ市長は先日、全ての市職員に「在宅勤務禁止」の方針を示し、経済を活性化させるべく民間企業にも同様に出社を促した。

確かに、出社すれば途中でコーヒーとパンぐらいは買うし、帰りにふと立ち寄る場所も増える。約40年ぶりの物価高で財布のひもは固めとはいえ、周辺の経済を回すことにはなる。

採用で「在宅勤務も可」はいつまで?
一方で、雇用をめぐりアメリカは今、空前の売り手市場で、「在宅勤務も可」でないと人が集まらないとの悩みもよく聞く。しかし、景気後退もささやかれはじめる中、このバランスは崩れるのではとの見方も出ている。
「人と会う」ことから遠ざかっていたコロナ禍。町に「ハッスル」と「ひらめき」が戻る日がいつ訪れるのか、注目だ。
