日本オリンピック委員会(JOC)は、LGBTQ+など性的少数者への理解を訴える団体「プライドハウス東京」と包括協定を結んだ。

東京オリパラを契機にして、誰もが自分らしく生きられる共生社会の実現に向けて、JOC山下会長がスポーツ界を動かし始めた。

すべての人が安心安全にスポーツを楽しむ社会へ

「東京2020をレガシーとして残していく。そのためにスポーツ界がLGBTQ+に理解を深めていく。このことが重要だと思っている。締結を機に加盟団体も巻き込みながら共生社会の実現に向けできることを考えて実践したい」

6月13日都内で行われた包括協定締結後の会見で、JOCの山下泰裕会長はこう力強く語った。

これをうけてプライドハウス東京の松中権代表はこう続けた。

「JOCの皆さんと協力してスポーツ界、そして社会にアクションを起こしていくこと、大変心強く思っています。当事者を含むすべての方々が安心安全にスポーツを楽しむことが出来る、より多くの方がつながりあって社会を変えていくよう全力で取り組んでいきたい」

協定を締結するJOC山下会長(右)とプライドハウス東京の松中代表(左)
協定を締結するJOC山下会長(右)とプライドハウス東京の松中代表(左)
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「自分らしくありたいと思えば競技者人生は無かった」

トランスジェンダーを公表している、元フェンシング女子日本代表でJOC理事の杉山文野さんは自身の競技者人生をこう振り返った。

「私は10歳から25歳までフェンシングの選手として競技生活を送りました。ただ当時は日本のスポーツ界においてLGBTQ+の情報はほぼ皆無に等しくて、自分らしくありたいと思えば競技者としての人生は無く、競技を続けたいと思えば自分らしく生きられなかった」

「自分らしく競技をすることを諦め、カミングアウトできないまま逃げるように引退してしまった」という杉山さん。

「そんな1人のトランスジェンダーの元アスリートとして、この日を迎えることは非常に感慨深く思っています。何かに不安を感じながら競技に集中するのは難しい。理解が進むことで日本のスポーツ界全体として心理的安全性が高まり、もっと力を発揮できる日本のチームになるのではないか」

「自分らしくありたいと思えば競技者人生は無かった」と語る杉山理事
「自分らしくありたいと思えば競技者人生は無かった」と語る杉山理事

日本のスポーツ界には最強のアライがいる

今年度の具体的なアクションとして、JOC役職員向けのLGBTQ+研修を実施する。また各競技団体に向けて、JOCはプライドハウス東京のLGBTQ+研修の周知に協力し、さらにJOCはアライ(※)アスリート育成研修にも協力していく予定だ。

(※)LGBTQ+の人々に共感しサポートする人々。

JOC山下会長「日本のスポーツ界はもっと関心を持つべき」
JOC山下会長「日本のスポーツ界はもっと関心を持つべき」

山下会長は去年の東京大会直前にプライドハウス東京を視察した時のことをこう語った。

「1時間ぐらい見学し説明を受けて、自分の無知さ加減に愕然とし恥ずかしい思いをした。そしてこれを機会に意識が大きく変わったと思っている。ですからLGBTQ+やトランスジェンダーアスリートの問題について、日本のスポーツ界はもっと関心を持ちながら進めていく必要がある。協定締結を機に今後やれることが何なのか、やれることをひとつひとつ実践、実現していきたいと思っている」

日本のスポーツ界には、最強のアライが既にいる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。