昭和から平成にかけて、飲食店などでよく見かけた“紙製のマッチ”の「ブックマッチ」をご存じだろうか?

この「ブックマッチ」が、6月受注分を最後に生産が終了し姿を消すことになった。生産終了が広く知れ渡ったきっかけは、このマッチを製造する最後の1社となる、兵庫県姫路市に本社と工場を構える日東社の5月23日のツイートだ。
弊社では約49年に渡り作らせていただいたブックマッチは6月受注分を最後に製造終了してしまいます。
— 株式会社日東社【公式】 (@nittosha) May 23, 2022
同時に、日本からブックマッチ製造の灯が消えることになります…安価で携帯しやすく、広告面もしっかりと取れる為、様々なお店でご愛用いただき誠にありがとうございました🙇♀️
とても寂しいです…。 https://t.co/5JoeRE9yoC
同社の公式アカウントはTwitterに、「弊社では約49年に渡り作らせていただいたブックマッチは6月受注分を最後に製造終了してしまいます。同時に、日本からブックマッチ製造の灯が消えることになります…安価で携帯しやすく、広告面もしっかりと取れる為、様々なお店でご愛用いただき誠にありがとうございました とても寂しいです…」と投稿。
このツイートは1万3000以上リツイートされ、1万2000の「いいね」がつくだけでなく、「驚きと寂しさを感じました」など、製造終了に対して多くの惜しむ声が投稿されている(6月10日時点)。
また、惜しむ声に対し、日東社は「ブックマッチにまつわる思い出や、『一つの文化が終わってしまった』と惜しんでくださるお声に、涙と共に感謝の気持ちでいっぱいです」とツイートし、感謝の気持ちをあらわしている。
ピーク時の年間“1万マッチトン”から“25マッチトン”に減少
来年2023年に設立から100年を迎える日東社が、ブックマッチの製造を始めたのは1973年。49年にわたって作り続けてきたブックマッチの製造を終了する理由は何なのだろうか?
また、喫煙者数が減少傾向にある中、マッチ自体は今後、どのような役割を果たしていくのか? 日東社の担当者に話を聞いた。
――ブックマッチの製造を終了する理由は?
受注の減少です。ブックマッチは広告マッチの用途が多く、喫煙人口の減少により、広告としての価値が低くなったことが、受注の減少の理由だと思います。
――生産数も減っていた?
ブックマッチの生産数のピークは昭和57年で、この年の生産数は1万1423マッチトンでした。その後、生産数は減少傾向となり、令和3年は25マッチトンまで減少しています。

――改めて、ブックマッチとは何?
同業の「神戸マッチ」の竹田様によりますと、「紙製のカバーが付いた見開き状の形態のマッチ」のことを指すということです。形態が「本(ブック)」のカバーと似ています。
「箱型マッチ」との一番の相違点は、カバーの内側にも印刷スペースがあるので、広告用には便利だったのではないでしょうか。「広告用ポケットティシュ」が市場に溢れるまでは、チラシ代わりとして、その時代の広告に使われていた記憶があります。
なぜ、「ブックマッチ」という名称なのかは、はっきり言って分かりません。ちなみに、英語表現では「Matchbook」が主流のようです。
――ブックマッチを製造しているのは、日東社だけ?
現在、ブックマッチの本体を製造しているのは日東社だけです。
――「ボックス型のマッチ」は、今後も製造を続けていく?
はい、もちろんです。マッチのトップメーカーとして誇りを持って、必要としている方に届けたいと思っております。たまに、御礼のハガキを頂くことがあり、励みにしてがんばっております。

――喫煙者数が減少傾向にある中、マッチは今後、どのような役割を果たしていくと思う?
マッチには今後、大きく分けて、「防災用」「神仏燈火用」「レジャー・趣味用」としての役割が期待できると思います。
湿気ない限り、長期保存が可能なマッチは「防災用」の備蓄として最適です。また、「神仏燈火用」にマッチでなければ、というお声も多いので、これらは今後とも、一定した需要があると思われます。
さらに、コロナ禍において、キャンプ、BBQなどの屋外レジャーや、充実したおうち時間のためのアロマキャンドル、お香製品といった「日常で火を使用する趣味」の需要が伸びました。

現代は、SDGsが周知され、多くの方が地球環境への配慮を大切にされており、その中でも、雑木・古紙・無害な薬品を使用して作られるマッチは、エコ製品として再評価されつつあります。
生活をさらに豊かにし、かつ、地球環境に優しい製品として、マッチは今後とも、皆様に広くお役に立てるものと考え、製造していきたいと思っております。
新しい生活文化を創り出すのは「ウェットティッシュ」
――日東社の現在の主力商品は?
現在は「紙おしぼり」と「ウェットタオル(病院や介護施設で体拭きとして使用)」です。


――今後、特に力を入れようと思っている商品は?
「ウェットティッシュ」です。新たな工場が2022年3月に完成しました。

元々、日東社では仕入れて販売していたのですが、コロナ禍でウェットティッシュの需要が大幅に増え、自社で製造することになったんです。
自社での製造を始めたのには、もう一つ理由があります。ウェットティッシュを開けるときにシールがあると思いますが、ここに自社で印刷することが出来る強みがあり、自社での製造を始めました。
ブックマッチの文化は終わりを迎えますが、「ウェットティッシュ」を新しい生活文化を創り出す、新たな一歩と考えております。

6月受注分を最後に生産を終了する「ブックマッチ」。日東社では「ボックス型のマッチ」の製造は続けるということで、マッチ自体は今後、「防災用」「神仏燈火用」「レジャー・趣味用」として、役割を果たしていってほしい。