市役所を辞め、父の不動産会社で働き始めた女性が、入社3年で突然社長になった。
父が病に倒れたからだ。
父が苦労して立ち上げた事業は他にも2つあり、女性は自分が全てを受け継いでいけるのか悩んだ。女性の決断を取材した。

父が病に倒れ…社長就任を決意

朝比奈史子さん :
もしもし、住まいのサンの朝比奈です。どうもお世話になります、今大丈夫ですか。見積りは出てきましたか

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朝比奈史子さん(46)。静岡市葵区で不動産会社の社長を務めている。
朝比奈さんが社長になったのは、2022年1月。当時社長で父親の幹雄さんが倒れたことがきっかけだった。

住まいのサン・朝比奈史子社長:
本当に健康に過ごしていると思っていて、突然でした。娘としては、事態は重いがすごく悲観まではその段階ではしていなくて、従業員としても、入院はするがいずれ帰ってくると思っていた

子育てをしながら、父親と一緒に働いていた朝比奈さん。入院後、医師から厳しい現実を告げられる。

朝比奈さん:
医者からも「助かるか亡くなるか五分五分です」と言われた。ワンステップ(容体が)進んで、気管を切開して人工呼吸器をつけるのですが、そこまでいったときに自分が社長になるしかないと感じた

父親の幹雄さんは一命をとりとめたものの療養が必要なことから、朝比奈さんは社長に就く決心を固めた。

朝比奈さん:
とりあえず目の前のことを回さないといけない。現場は進行しているし、これから大きい融資も受けなくてはいけない。従業員も抱えている、取引先にもきちんと支払いをしていかなくてはならない。この流れを止めてはいけないというのがあった

“融資保証人”で社長の重責を実感

社長に就いてから4カ月が経ち、保険会社との打ち合わせだ。

保険会社との打ち合わせ
保険会社との打ち合わせ

朝比奈さん:
(保険の対象は)全部ですか

保険会社担当者 :
更地も含めて、明細に書いてあるもの全部ですね

朝比奈さん :
更地も入るんですか

保険会社担当者 :
(保険が)1000万円で掛かっています

朝比奈さん:
これは500万円でいいかな

社長業に奮闘する朝比奈さんだが、これまで経営にはまったく関与しておらず、不安で押しつぶされそうになったという。

朝比奈社長:
銀行と融資契約を結んだ時に、代表者が(債務)保証をしなくてはいけない。融資の全額に対しての保証なので、「億」を超えてくる。住宅ローンでもお目にかからないような金額を、最終的に自分が負うことになる。そこはすごい大きい責任を感じた

生活一変で子供にも影響が

大学卒業後は静岡市役所に勤務していた朝比奈さん。家庭中心の生活を送ろうと市役所を退職し、父親の不動産会社で働き始めたのはわずか3年前だ。

自宅で9歳の次男と
自宅で9歳の次男と

次男(9):
毎日帰ってくるのが遅いし、家でもバタバタしてるから忙しそう。ちょっとイライラしてたかな

突然の社長就任で生活は一変、家事に手がまわらなくなるほど忙しくなった。

朝比奈さん:
たくさんの人に迷惑をかけてしまって。子供の習い事もそうだし、ごはんも手抜きだし、家族にしわ寄せがいってしまった

父は牛乳販売店やうどん店も経営

さらに、朝比奈さんが引き継いだのは不動産会社だけではなかった。父親は県内に7店舗ある牛乳販売店、そして富士宮市でうどん店も経営していて、それぞれの事業にも関わる必要があった。

父親が経営していた牛乳販売店
父親が経営していた牛乳販売店

朝比奈さん:
父が苦労して立ち上げたところから見ているので、その仕事に対して父がどう取り組んできたか思い入れはわかっている

保険外交員やタクシー運転手などの仕事を経て、努力と苦労を重ね、今の会社を築いてきた父親の幹雄さん。
しかし、自分ですべてを経営するには荷が重すぎる。「廃業」という言葉が頭をよぎった。

父親が経営していたうどん店
父親が経営していたうどん店

帝国データバンクによると、2021年に県内で倒産を除き、休業・廃業・解散をした企業は1502件で、県内企業全体の3.53%だ。
また、日本政策金融公庫が全国の中小企業約4800社を対象に調査したところ、将来的に廃業を予定する企業は52.6%で、このうち後継者難を理由にしている企業は29%だった。後継者難が大きな課題となっている。

出典:日本政策金融公庫
出典:日本政策金融公庫

会社をふさわしい人にバトンタッチ

朝比奈さんが家庭と仕事の両立を目指し、家族などと検討を重ねた上で、いきついたのがいわゆるM&A、事業譲渡だった。

朝比奈さん:
それぞれの会社をふさわしい人にバトンタッチ して 、自分の手元に自分ができる範囲で回していける分を残そうと思いました

朝比奈さんは不動産業に専念することを決断した。2つの事業は、従業員の雇用継続を条件に譲渡することになった。「事業について、もっと父親と話をしておくべきだった」と話す。

朝比奈さん:
私の場合は突然父から引き継ぐことになり、父がどういうところを目指していたのかつかめないまま走り出して、走りながら考えている状態。目指すべき指針がはっきりあった方が、引き継ぐ人もやりやすいし、共鳴する人も現れやすいと思う

その上で、後継者難に悩む会社経営者にアドバイスを送る。

住まいのサン・朝比奈史子社長:
仮に子供が継がなくても、第三者の同じ思いの人に譲渡していくことは大いにあり得る。早めに思いを(外に)出して、相手を探していく。早めに動くことでたくさんの人と出会えて、 その中で自分がふさわしいと思う相手に巡り会える。そこは一番伝えたい

不動産会社の従業員と
不動産会社の従業員と

少子化が後継者難に拍車をかける中、行政などが事業譲渡のマッチングの支援を進めている。
朝比奈さんのように、良い形で事業を継続させる選択肢が増えていくことが期待される。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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